荷台にV8エンジンを搭載するクラシックMINIピックアップ
日本国内でもCSディスカバリーチャンネル「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」の名でカーマニアから高い人気を博している英国のレストア番組「Wheeler Dealers」。2025年6月1日に、英国の新興オークションカンパニー「アイコニック・オークショネア」社をパートナーとして、これまで同番組やスピンオフ版「名車再生!ドリームカー大作戦」などで取り扱ったクルマたちの同型車を中心に販売するオークション「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」を開催しました。今回ご紹介するのは、筆者の記憶が正しければ、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」の番組内には登場していないはずだが、なかなか興味深いクルマ。フォードGT40レプリカを「クラシックMINI」のピックアップ風に仕立てた、モンスター的な1台を取り上げます。
GT40レプリカ製作会社として著名なGTデヴェロップメンツ
フォードの伝説的レーシングスポーツ「GT40」といえば、「ACコブラ」やポルシェ「356スピードスター」に次いで、レプリカ・モデルが多い車種といえよう。
とくに英国では、フォードから商標権やスペアパーツ類を取得した、ハイエンドのレクリエーション的レプリカ「サフィアSafir」から、そのへんの町工場で組み上げたような荒っぽいレプリカまで、数多くのコンストラクターがGT40レプリカを送り出してきた。そんななかでも、イングランド南西部ドーセット州プールに本拠を置く「GTデヴェロップメンツ(GT Developments)」社は、1990年代のイギリスでGT40レプリカを製造するコンストラクターとしては、もっとも著名かつ信頼されていた。
創業当初のGTデヴェロップメンツ社は、別のGT40レプリカ「KVA GT40」の代理店としてスタートしたものの、優れた製品を製造するための必要な設備とエンジニアを擁していたことから、ほどなくKVAシャーシのフロントおよびリアセクションをリニューアル。自社ブランドのオリジナル商品「GTD40」として販売することになった。
そして今回、アイコニック「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」オークションに出品された異形のモンスターは、同社の創業オーナーであるレイ・クリストファー氏のため、1994年にワンオフ製作された1台である。
あくまでミニに似せただけ……!
フォードGT40レプリカのスペシャリスト「GTデヴェロップメンツ」社の多岐にわたる技術力を示し、自動車専門誌(のちにネットマガジンでも)で広く特集された異形のミニ ピックアップ。GTD40レプリカの専用ラダーフレームシャシーを改造し、ミニ エステート(カントリーマン/トラヴェラー)のボディワークを装着。ルーフ後部とフロアを取り除き、ミニ・ピックアップに似せた外観としている。
GTデヴェロップメンツのみならず、他社製のGT40レプリカでも定番のフォード・スモールブロック302(5L)V8OHVエンジンと5速トランスミッション。それらはミニ・ピックアップでいうならベッド(荷台)に相当する位置に、巨大なアルミニウムとファイバーグラスで成形されたアーチ下に搭載され、約300psのV8パワーを後輪に伝達する。
前後ともGTD40用を流用したサスペンションには、調整可能なローズジョイントとコイルオーバー式ショックアブソーバーを採用し、ブレーキにはアルミニウム製ハブとベンチレーテッドディスクが装着されている。
内外装は、ブライトレッドのボディペイントにロールケージ、ブラックレザーのバケットシート(英LUKE社製ハーネスベルトつき)、アルミニウムばりのダッシュボード、消火器を備えた競技仕様のインテリアが組み合わされている。そして直近の再整備・メインテナンスとしては、トランスミッションのオーバーホールやペダルボックスを新品に交換したこと、キャブレターや後輪ブレーキキャリパーを新調するなど、総額にして約1万5000英ポンドに相当する改修が施されている。
超レアなワンオフ車ではあるが……落札額は約333万円
アイコニック・オークショネア社では自社の公式カタログで
「真に唯一無二の車両。でも、控えめでシャイなタイプの方には向かないかもしれません」
と煽情的にアピールしつつ、2万ポンド~2万5000ポンド(邦貨換算約396万円〜495万円)と、われわれ日本人の門外漢には高いとも安いとも想像のつかないエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが迎えた6月1日の競売では、来場者たちのとまどいを物語るかのようにビッド(入札)が進まず、エスティメート下限を大きく割り込む1万6875英ポンド、現在のレートで日本円に換算すると約333万円まで上昇したところで、壇上の競売人の小槌が鳴らされることになったのだ。
GTデヴェロップメンツのGTD40は、近年の国際クラシックカー・マーケットでも一定の評価を残しており、ちょっと調べてみるとコンディションの良い個体であれば5万ポンド以上で取り引きされるのが相場のようだ。
他方、同じくGTデヴェロップメンツの作品、しかも超レアなワンオフ車でありながら、創業社長の好奇心で製作されたという面白いヒストリーこそあれど、やはりこのミニ ピックアップは万人にウケるたぐいのクルマではない……、ということなのであろう。
それでも落札した張本人は、きっとご満悦。そしてオークション会場では、満面の笑みを浮かべていたであろうこともまた、容易に予想がつくのだが……。
