画期的進化を遂げた日産「リーフ」の航続距離702kmが示すEVの現在地と明るい未来の話
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題は、逆風が吹き荒れるEV市場において、静かに、しかし力強く進化を遂げた新型の日産「リーフ」です。航続距離702kmを誇るロングレンジ仕様「B7」のステアリングを握り、驚きの静粛性や洗練された乗り味を体感しました。EVシフトの現在地と、新型の日産「リーフ」が指し示す日産の未来について紐解いていきます。
やや性急だったEVシフト戦略で失速が続いたが、新型の日産「リーフ」と対話してEVの可能性が見えてきた
ホンダと日産──日本の自動車史を語るうえで欠かすことのできない2つの巨星が、いま業績の低迷という現実に直面しています。その理由のひとつとして語られるのが、やや性急にも見えたEVシフトの誤算でしょう。
思い返せば、EVはまるで自動車産業の新たな花形として、拍手喝采を浴びながらステージ中央に躍り出た存在でした。ところが、中国メーカーの驚異的な躍進や、米国のEV政策の揺り戻しといった外部環境の変化が、市場の先行きを少しだけ暗くしてしまったようです。もっとも、EVそのものの未来価値に疑問を挟む余地はありません。むしろ、課題をひとつひとつ丁寧に解きほぐしていくことで、再び販売の潮目が変わる可能性を秘めていると私は考えています。
その確信を強くしたのが、新型の日産「リーフ」との対話でした。今回試乗したのは、78kWhバッテリーを搭載するロングレンジ仕様「B7」です。航続距離はなんと702km。日産のEV史上、最長記録となる数字です。数字だけを見れば、もはや“航続距離不安”という言葉は、少し古びた流行語のように思えてきます。もちろん、55kWhの「B5」でも521kmを走破するのですから、実用性という観点では十分すぎるほどでしょう。
航続距離702kmがもたらす安心感と心拍数に同調する自然な一体感は「操作」から「対話」へと昇華
日産の調査によれば、日産「リーフ」の購入を検討しながらも断念した理由のひとつが充電インフラの不足だといいます。確かに、長距離移動を頻繁に行うユーザーにとっては、急速充電設備の少なさは心理的なブレーキになります。
ですが、702kmという航続性能は、そのブレーキを少しだけ緩めてくれるはずです。さらに、SOC(充電率)が10%まで低下した状態からでも、90kW級の急速充電器なら約45分で80%まで回復するというのですから、コーヒーを2杯飲み終えるころには、クルマのほうが先に元気を取り戻しているかもしれません。寒冷地対策も抜かりありません。バッテリーを冷却したり保温したりと、最適温度を保つ工夫が施されています。実際のドライブでは平均6.0km/kWhという優れた電費性能を記録しました。
しかし、このクルマの真価はバッテリー性能だけでは語れません。まず驚かされるのは質感の向上です。室内空間は広く、もはやコンパクトEVという枠を軽やかに飛び越えています。
加速フィールも秀逸です。EV特有の瞬発力は当然備えていますが、それを誇示するような乱暴さはありません。アクセル開度に忠実に、まるでドライバーの心拍数に同調するかのように応答するのです。この自然な一体感こそ、運転という行為を“操作”から“対話”へと昇華させてくれます。
遠回りしてきた日産の経営だが、新型の日産「リーフ」と同じく航続距離を伸ばし静かに力強く前に進むはず
操縦性にも洗練が感じられます。大容量バッテリーを積むと、どうしても足取りが重くなりがちですが、B7は不思議なほど軽やかです。サスペンションのセッティングも巧妙で、路面からの突き上げは穏やかです。シートのウレタン密度まで見直したという話を聞き、私は思わず「そこまでやりますか」と笑ってしまいました。
静粛性も見事です。モーターやインバーターのノイズは巧みに消され、厚い遮音ガラスが風切り音やタイヤノイズを遠ざけます。こんなにも静かな移動体験は、かつてのガソリン時代には想像しにくかったものです。
気になる価格はB7で約590万円。補助金を差し引けば現実的な水準とはいえ、かつて“庶民のEV”と呼ばれた日産「リーフ」を知る人には、やや高嶺の花に映るかもしれません。ですが、航続距離の飛躍的向上と車格の進化を思えば、これは成長の証とも言えるでしょう。
EVがやや逆風にさらされる時代にあって、この新型の日産「リーフ」は確かな存在感を放っています。派手な花火ではなく、消えない灯火のように、静かにしかし力強く前へ進む1台です。
日産の経営は、確かに遠回りしているように思えます。ですが、道は必ず続いていきます。そんな当たり前の真実を、日産「リーフ」は優しく教えてくれたような気がします。
