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ポール・マッカートニーも愛した超高級ミニ! 本革と木目で仕立てた「1275 GT マーグレイヴ」は英国の哲学が詰まった日常使いの芸術品

2万8125ポンド(邦貨換算約607万円)で落札された1979年式 ミニ「1275 GT マーグレイヴ」(C)Iconicauctioneers

英国王室御用達デザイナーが愛した特注カスタム仕様は、職人技が光るコーチビルド・ミニ!

1960年代から1970年代にかけて、イギリスの自動車文化を大いに盛り上げたのが、注文仕立ての「コーチビルド」と呼ばれる特注カスタムの世界である。大衆車をベースに、裕福な顧客の好みに合わせて豪華絢爛な仕様へと作り替える手法が流行していた。その最高峰に君臨していた名門ビルダーの作品が、完璧なレストアを受けて現代に蘇った。ウッド&ピケット社が仕立てた1979年式の「ミニ 1275 GT マーグレイヴ」には、どのような極上のディテールが隠されているのだろうか。

著名なミュージシャンたちも虜になった贅沢なコーチビルド文化の歴史を振り返る

ウッド&ピケット(Wood & Pickett)社は、当時のロンドンで最も尊敬を集めたアフターマーケットのコーチビルダーのひとつである。彼らは、街中での扱いやすさと引き換えに高級感を諦めざるを得なかった富裕層のために、広範なオプションリストを用意して世界に1台だけの豪華なシティカーを作り出した。

その顧客リストには、エルトン・ジョン、ミック・ジャガー、ポール・マッカートニーといった時代の寵児たちが名を連ねていた。最初期の例としては、1964年に女優のヘイリー・ミルズが依頼した個体などが知られている。彼らは、ロールス・ロイスやベントレーといった超高級セダンを所有しながらも、ロンドンの狭い路地を機敏に走り抜けることができる「もう1台の贅沢」として、この特注のミニを愛用していたのである。

単に外装を着飾るだけでなく、遮音性の向上や足まわりのセッティング変更など、乗り心地そのものを上質にするための見えないチューニングが施されていたことも、本物を知るセレブリティたちに支持された大きな理由だ。

英国王室が認めた宝飾デザイナーから受け継がれたワンオーナー車を徹底的にレストアする

今回紹介する個体は、1979年式の「ミニ 1275 GT」をベースにした「マーグレイヴ」仕様である。丸目ではなく、クラブマン譲りのスクエアなフロントマスクを持つ1275 GTは、スポーティな走りとモダンなルックスを兼ね備え、カスタムのベース車両として当時から高い人気を誇っていた。この車両を新車で注文したのは、1960年代の英国における「ジュエリー・ルネサンス」を牽引し、その芸術的な作品が英国王室からも認められた著名な宝飾デザイナーのアラン・ガード氏だ。

新車での納車以来、この車両は一貫してロンドンの地で大切に所有され続けてきた。素性が明確なワンオーナー車であり、詳細な記録が残されているウッド&ピケット製のコンバージョン車両は、現在のクラシックカー市場においても極めて希少な存在である。

今回のレストアにあたっては、ボディを一度完全に裸にするベアメタル状態に戻したうえで、オリジナルの「ダークグリーンメタリック」で全面塗装が施された。さらに、屋根には専門業者の手によって当時の雰囲気を完璧に再現した同系色のビニール製「プラムスタイル(乳母車風)」ルーフが美しくフィッティングされている。

上質なウォールナットと最高級の本革レカロシートでミニとは思えない英国上級セダンの室内空間

ドアを開けると、そこには大衆車の面影など微塵も感じられない、英国の高級セダンのような別世界が広がっている。インテリアの張り替えは、名門のB-Trim社が担当した。室内は上質なクリーム色の本革で包み込まれ、アクセントとして外装色に合わせたダークグリーンのパイピングが施されている。この贅沢な仕立ては、ホールド性に優れたレカロシートだけでなく、ドアトリムや特注のレザー縁取りカーペットにまで一貫して及んでいる。

ダッシュボードには、クラシックなウォールナット(くるみの木)のウッドパネルが奢られており、便利なグローブボックスも完備する。さらに、ウィンドウワインダー(窓の開閉ハンドル)やドアハンドル、ギアレバー、ハンドブレーキ、そしてステアリングホイールに至るまで、すべての内装フィッティングが調和するように美しく設えられている。天井には開閉式のベバスト製サンルーフが備わり、明るいトーンで統一された布製の天井内張りと相まって、開放的な室内環境を作り出している。

足元には、センター部分をボディ同色で塗り分けたオリジナルの「スーパーライト(Superlite)」製アロイホイールが装着されており、当時のクラシカルなスタンスを崩すことなく、全体の佇まいを引き締めている。もちろん、エキゾーストシステムをはじめとするメカニズム面も完全にリフレッシュされ、すぐにでも街へ繰り出せるコンディションが整っている。

英国独自の「使い込んでこそ芸術品」の哲学が詰まったコーチビルダー製ミニの落札価格とは?

英アイコニック・オークショネア(Iconic Auctioneers)社に出品されたこの歴史的な1台は、事前のエスティメート(推定落札価格)として2万5000ポンド〜3万3000ポンド(邦貨換算約540万〜約713万円)が設定されていた。実際のオークションでは、世界中のコレクターから熱い視線が注がれ、2万8125ポンドで無事にハンマーが振られた。日本円に換算すると、約607万円となる。

現代の自動車は、効率性や生産性が何よりも優先され、それなりに高級なクルマであっても均一化された工業製品の域を出ない商品が多い。一方、イギリスには19世紀にウィリアム・モリスが提唱した「生活に芸術を取り入れよう」というアーツ&クラフツ運動の精神が今も深く根付いている。そのため、イギリスの高級ホームウェアは「飾るためのアート」ではなく「使い込んでこそ美しいアート」という哲学を持つブランドが非常に多いのだ。例えば大型の照明や家具、日常使いできるタンブラー、カトラリー、キャンドル、トレイなどで有名なTom Dixon(トム・ディクソン)は、日常の晩酌やコーヒータイムを高級ホテルのバーやティーラウンジのような特別な時間に変えてくれる。インテリア雑貨で有名なHouse of Hackney(ハウス・オブ・ハックニー)やSophie Conran(ソフィー・コンラン)といったテーブルウェアなども同じだ。

この小さなミニに注ぎ込まれた職人たちのアイデアと技と選択眼、そして本物のウッドやレザーがもたらす独特の温もりは、所有者が実際に街中を走らせて感じられる「使い込んでこそ美しいアート」という哲学そのものだ。「高級で芸術的、だけど毎日の生活でちゃんと役立つ」という絶妙なバランスを持った、愛されるイギリスの優秀なコーチビルダーの仕事が詰まったミニなのだろう。

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