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100年以上の歴史を持つ名機 直6エンジンの技術と歴史を振り返る

博物館で見つけた……直6エンジン出生地

 昨年、海外ではメルセデス・ベンツが20年ぶりに新ユニットをリリース。国内でも、マツダが開発中であると報じられ、さらにはトヨタがGRスープラを登場させるなど、最近大きな注目を集めているのが「直列6気筒エンジン」です。

 ちなみに、国内では”直6″と呼ばれていますが、海外では”Inline 6″と呼ばれるのが一般的で、それを省略して”I6(アイ・シックス)”と呼ばれる場合も多いようです。直6エンジン最大の特徴はエンジンの振動が少なく、スムースなこと。技術的なことを話し始めると、それだけで1冊の本がまとまるほど“深く”なります。

 ここではあまり踏み込まずメカニズムの基本として直6エンジンは、ピストンの上下運動から来る振動も、各気筒の爆発間隔による振動も発生せず、カウンターウェイトやバランサーシャフトなどを使うことなく低振動のエンジンを製作する上では、素晴らしい気筒レイアウトである、とだけにしておきましょう。

 

直6エンジン誕生の地はオランダ

 それでは、世界最初の直6エンジンが誕生したのはどこでしょう? 

 自動車大国として知られるアメリカやイギリス、あるいはドイツやフランス、イタリアといった“クルマ先進国”では、様々な技術が発明され、実際にクルマに導入されてきましたが、直6エンジンを世界で最初に完成させたのはオランダのメーカーでした。

 Spyker(片仮名表記ではスパイカーともシュピケールとも)というのは今世紀になってからスーパーカーやF1GPでも名前が聞かれたメーカーでしたが、ここで登場するSpykerとは何の関係もありません。“本家本元”のSpykerは1880年に設立された馬車メーカーで、後に自動車や飛行機まで手掛けることになりました。

 その“本家本元”が1903年に登場させた「Spyker 60-HP Four Wheel Drive Racing Car」が、世界初の直列6気筒エンジン搭載車となりました。車名からも分かるように4輪駆動システムが盛り込まれていましたが、これも世界初採用。4輪すべてにブレーキを採用したのも世界初ということで、実に3つの”世界初”を実現したエポックメイキングなレーシングカーだったのです。

 写真はSpykerの母国、オランダが世界に誇る国立自動車博物館、通称“ローマン・コレクション”にて15年に撮影したもの。

 

技術的進化邁進の直6エンジン

 その後、イギリスやアメリカ、あるいはヨーロッパ大陸の国々で、数多くの直6エンジンが誕生。数の増加は激しい競争を生み、結果的に技術が進化。これは古今東西変わることのない原則ですが、そもそもは大排気量化を目指して始まった多気筒化は直列8気筒、あるいはそれを2基組み合わせたV16などというレイアウトのエンジンも誕生させますが、当時の生産技術、鋳造/鍛造や加工の技術ではそれ以上のマルチシリンダー化の実現は難しかったようです。

 その中で何よりも振動が少ないという、理論に裏打ちされていた直6エンジンですので人気は急上昇。Spykerで見られたようなモジュール式とでもいうべきでしょうか、クランクケースの上に2気筒分が1ピースになったシリンダーを3個並べて取り付けたものから、現在のようなクランクケースの上半分とシリンダー6本が一体式のシリンダーブロックに洗練されていきました。

 下記の例に挙げたメルセデス・ベンツとナッシュ、そしてBMW、3メイクスの直6エンジンは、それぞれ1920年代前半、20年代後半、そして30年代前半と数年ずつ基本設計が新しくなっていきますが、エンジンの外観一つとっても著しい進化が見てとれます。

●1928年製メルセデス・ベンツ カブリオーレ600(Mercedes-Benz Cabriolet 600)

 1928年式メルセデス・ベンツのカブリオレ600はフランスの国立自動車博物館、通称“シュリンプ・コレクション”で撮影。

 

192年製ナッシュ・アドバンスド6(Nash Advanced Six 4-Door Coupe)

 29年式ナッシュのアドバンスド6はアメリカ・ウィスコンシン州にあるウィスコンシン自動車博物館で撮影。

 

●1933年製BMW 303(BMW 303)

 そして33年式のBMW 303はクルマを、ロシアのモスクワにあるロマコフ旧車・オートバイ博物館で、エンジン単体はドイツのミュンヘンにあるBMW博物館で撮影。

 

 

直6だったコルベットを横置きしたFWDも

 先ごろ発表された新型のシボレー・コルベットは、駆動レイアウトを、初代モデルから踏襲してきたフロント・エンジンの後輪駆動から、遂にミッドシップに宗旨替えすることになりましたが、エンジンはやはりアメリカ車らしくV8を継承しています。

 そんなコルベットですが、デビューした当初、初代モデルは直6エンジンを搭載していました。

そもそもFRPのボディパネルを採用するなど、最新技術を盛り込んだクルマとして開発されたコルベットでしたが、搭載した直6エンジンは基本設計が1920年代と古臭いもので、パワー的にも物足らなかったようです。そして何度目かのマイナーチェンジでV8が搭載され、やがて直6を捨て、クルマのキャラクターも変わってしまいました。

54年式の初代コルベットは、イリノイ州デケーターにあるシボレー博物館で撮影。

 新機軸と言えば、60年代から70年代にかけて、エンジンを横置きにした前輪駆動が雨後のタケノコのようにどんどん登場してきていました。ただしクルマのサイズには限りがあり、4気筒が限界と考えられていましたが、BMCはオーストラリア市場に向けて6気筒を横置きにマウントした前輪駆動車を投入。

 72年にはイギリス本国向けにもオースチン2200/モーリス2200/ウーズレー・シックスの3兄弟が登場しています。このパッケージは後にボルボも採用しています。

イギリスはウォーウィックシャー州ゲイドンにある英国自動車博物館で撮影。

 

伝説のシルキー・シックス誕生

 冒頭でも書いたように、直6=BMWと言われるように、BMW製の直6エンジンは高い評価を得てきました。

 特に70年代後半に登場した630CSや635CSiに搭載されていた大排気量(3ℓ~3.5ℓ)のユニットは、シングルカムのOHC/12バルブと、現在の標準的なエンジンからすれば、とてもプリミティブなスペックでしたが、やはりクルマやエンジンは、紙上のデータではなく実際にドライブしたフィーリング。多くのジャーナリストがスムースな運転特性と軽い吹け上がりに感銘を受けたといいます。そんなジャーナリストのうちの一人が「まるで絹のような滑らかなフィーリングだ」と評価。そこから“シルキー・シックス”という表現が誕生したようです。

単体写真を掲載しているのは、後に630CSや635CSiに搭載されて上市され、“シルキー・シックス”との評価を受けるユニットの、最初の仕様である68年式のタイプM30。ドイツはミュンヘンのBMW博物館で撮影。

帰ってきた日本の宝、GRスープラ

 そしていよいよ多くのファンが待ち焦がれていた新型スープラが還ってくることになりました。歴代スープラの文法通り、直列6気筒をフロントに搭載した後輪駆動。過度に大型化していないボディも好印象です。何よりも直列6気筒エンジンには惹かれます。あのBMWとの共同開発で、直列6気筒のベース部分はまさに折り紙つき。

そしてトヨタのエンジニアも開発の早い段階から関わってきただけに、これまでのスープラの後継を名乗るに充分でしょう。透視部分の線画からも、直列6気筒ならではのメカニカル差が伝わってきます。

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