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ジープ初市販BEV「アヴェンジャー」はなぜ欧州で生産? 北米での販売はなくとも日本導入してほしい1台とは

7スロットグリルなど、ジープ伝統のデザインが用いられている

ジープの名を冠した初のBEVだが……

2023年の欧州COTYを受賞したジープ初のBEV「アヴェンジャー」。日本では馴染みのないこのモデル、欧州で生産され、アメリカでは販売されないという不思議なポジションのジープです。

注目が集まるコンパクトモデル

2023年3月のジュネーブ・サロンが地元スイスではなく中東開催となり、欧州COTYは1月のブリュッセル・モーターショーで発表されるようになった。だが、今年受賞した「ジープ アヴェンジャー」は、ジープ・ブランド自体は日本で絶好調でも車種としてはまるで馴染みのない一台なので、気になる人も多いかと思う。

正式デビューは2022年10月のパリ・サロンことモンディアル・ドゥ・パリ2022。ワールドプレミアとなるお披露目は、ステランティス・グループ会長のジョン・エルカンとジェネラルディレクターのカルロス・タヴァレスの前で、ジープCEOであるクリスチャン・ムニエの手で行われた。

ラングラーのBEV版であるリーコンの北米市場投入が2024年といわれる以上、アヴェンジャーはジープとして初のゼロエミッション市販モデル、つまりジープの名を冠した初のBEVだ。駆動方式はジープであるからには、もちろん4×4。しかし欧州で生産され、アメリカでは販売されないという不思議なポジションのモデルでもある。どういうことか説明しよう。

そもそもアヴェンジャーが生産されているのはポーランドのティヒ工場で、ここは元々フィアットの工場だった。フィアット126や90年代のニューチンクエチェントを作っていた工場といえば、ピンと来る人もいるかもしれない。それがフィアット・クライスラーの統合、続いてFCAとPSA統合によるステランティス・グループの誕生により、EV時代にジープを生産することになったのだ。

「1台のジープとして欠けることのない能力を、欧州市場に合わせたカタチで提供する。それがアヴェンジャーである」

と、クリスチャン・ムニエCEOは形容していた。急速にEV化する欧州市場で高原状態の安定人気を誇るBセグSUVに、ペナルティフリーで補助金ボーナスすらありうるゼロエミッションの本格派4×4を投入。それがアヴェンジャーの「レシピ」であり、ステランティス・グループの背景があればこそ可能になったシナジー効果バツグンの一台というワケだ。

日本導入も? “欧州テイスト” の本格4×4

ちなみにアヴェンジャーが用いるプラットフォームは「STLAスモール」で、同ミドルと同ラージと併せてステランティス・グループ肝煎りのEV専用プラットフォームといわれる。ただし元を辿れば、プジョー2008やシトロエンë-C4にも用いられてきたe-CMPの第2世代で、アメリカ合衆国での型式認証を前提としない旧PSA出自のプラットフォームといえる。兄弟車か? といえば、FWDである前2車に対し、アヴェンジャーは前後車軸をモーター駆動化、つまり4WD化したことが大きな進化ポイントだ。

それでもアヴェンジャーは本格4×4として、最低地上高は200mmとBセグSUVで最高レベルを誇り、アプローチアングルとランプブレークアングルはともに20度、デパーチャーアングルは32度となる。しかも欧州でも世界的にも人気の高いレネゲードより、全長は約16cm短い4.08mというコンパクトさだ。近頃のジープらしいモダンなアプローチのデザインだが、バンパーとウレタンのガードは欧州で事故の70%を占めるという低速域での事故でのダメージを軽減するため、ボディ全周を高めに覆っており、ライト類も少し奥まって搭載されているという。

荷室容量は5名乗車時でも380リッターを確保したのは、さすが欧州好みの実用性重視ポイントといえるが、内装はかなり簡素。ただ、シートの素材やごくシンプルな造りは欧州車のエントリーグレードを彷彿させる雰囲気とはいえ、Uconnectと名づけられたインフォテイメントシステムは最新鋭だ。10.25インチのタッチスクリーンを装備してApple CarPlayもAndoroid Autoにも対応するけでなく、OTA、つまりオーバー・ジ・エアの機能アップデートにも対応するという。

レネゲードよりもコンパクト、でもシステムは最新鋭

ところで肝心のパワートレインだが、EV専用のプラットフォーム同様に第2世代の400Vシステムを採用している。このシステム自体が初出で、フランスはEmotors(イーモータース)社が供給する。同社はステランティスと、ニデック・ルロワ・ソメールこと日本電産のフランス拠点が、50:50で出資しているジョイントベンチャーだ。

ステランティスが内製と謳うバッテリーは容量54kWhで、17モジュールを102セルで構成させるリチウムイオンNMC811、つまりコバルトの使用量を控えつつもエネルギー密度を上げた、最新世代のひとつといえる。トルクは260Nmで出力は115kW(156ps)と、必要十分。

航続距離はWLTPのミックスモードで400kmを謳っているが、むしろ市街地モードなら550kmにまでレンジは伸びる。この辺りはジープ自慢のセレクテレイン・システムで、路面に対し駆動力を最適化する4×4とはいえ、6モードのうちに街乗り重視の「エコ」をも備えている辺りに、プジョー・シトロエンやフィアットの純・欧州車的な実用燃費(電費)のノウハウが活きているといえるだろう。いずれにせよBEVからスタートとはいえ、急速充電がCHAdeMO対応であれば当然、日本の型式認証にも対応できるだろうし、導入への期待は膨らむ。

とはいえ、昨今のステランティス的「パワー・オブ・チョイス」という、パワートレイン選択肢の自由を顧客に任せるポリシー上あるいは営業上、早々にエネルギーミックス化、つまりICE版も登場するのではないか。フランス車と兄弟のFFのジープ!? になるのか、あるいはジープの4×4文化リスペクトで何とかリアモーター4WDにするのか。いずれ日本市場なら、ジープ・ルックに1.5リッターのディーゼルでプジョー車でおなじみの路面状況に応じたドライブセレクタ、「アドバンストグリップコントロール」が付いていたら、十分ヒットしそうな気がする。

軽油でキビキビ走ってオフもけっこう行けるオンロード寄りのジープだなんて、遊びの妄想も膨らむはず。非アメリカンなジープがどんな方向性を究めてくるか、要注目だ。

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