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フィアット「600」が電気自動車で復活!? 突然、動画に現れた「セイチェント」とは?【週刊チンクエチェントVol.08】

新型フィアット600eの登場もまもなく?

フィアットからビックリするようなニュースが飛び込んできた

名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第8回は「フィアット600eが復活!?」をお届けします。

動画に登場したクルマの正体はフィアット600e!?

前回は思い切り横道へとそれて、「第1回横道選手権」などとテキトーなことをまくし立てながら、いずれ正式に発表されることになるだろう新型「トポリーノ」の存在をお伝えした。「ニュースが激しく遅くなっちゃうと腐る」とも記している。そして今回は本筋に戻って、ターコイズ号の日本到着を心待ちにしてる間のお話をしようと思っていた。思っていたのだ。

……おーい、フィアット! 頼むから連発でビックリするようなニュースを繰り出すのはヤメてくれ。まぁビックリするのはごく一部の熱心なフィアット・ファンだけなのかもしれないけど。でも、おかげでちっとも前に進めないじゃないか。だって、腐っても鯛とはいうけれど、さすがに腐った鯛なんて食べたくないでしょ……。というわけで今回もニュースなのだけど、あしからず御了承ちょうだいまし。

えーっと……。僕はネタ探しのためにメーカーのメディアサイトやライフスタイル系サイト、それに公式YouTubeあたりもちょいちょいチェックしてるのだけど、ある日、本国のフィアットがやってる公式YouTubeチャンネルに、「Open Doors」という動画がアップされてることに気がついた。そのタイトルだけじゃ何のこっちゃさっぱりわからないし、概要欄の英文を読むのもめんどくさいからとりあえず再生してみたら、その中で見たことあるような初めて見るようなナゾのクルマが走ってるじゃないか。その鼻先にははっきりと「600」という数字が刻まれてる。

……600? ……ろっぴゃく? ……えええええ! もしや、新型セイチェント!?

いや、「フィアット600」の名前が復活するというウワサは、流れては消え、また流れては隠れだったけど、以前からあるにはあったのだ。けれど、まさかこんなにも唐突に……? プレスリリースだって届いてないじゃん。いや、リリース、絶対に出てないよなぁ……? と慌ててフィアットのメディアサイトを開いてみた。けれど、「フィアット600発表!」みたいなのはどこにもない。仕方ないのでいちばん新しいヤツから英文めんどくさいけど読んでみるか……と、アクセスしてみたら、その本文の2ブロックめに「Fiat 600e」という文字が登場してる。

そのリリースの内容は、ざっくり、フィアットはヴァチカン関連の財団が主催する人間愛に関する世界会議「Not Alone」を支援する、というもの。ひとつはヴァチカン市国のサンピエトロ広場で開催される国際イベントに関する輸送を、フィアットの電気自動車群が受け持つということ。もうひとつは「Open Doors」というショートムービーを作成し、それを通じてこの会議の重要なテーマである異文化に対する寛容さと包容力をメッセージとして世界に発信する、というもの。

「Open Doors」。そう、YouTubeで見た動画、である。そのショートムービーは、白いクルマが広島からスタートし、ブエノスアイレス、アクラ、エルサレムと世界のさまざまな街を巡り、異なる国、異なる文化を持った人をひとりひとり車内に迎え入れながらサンピエトロ広場へと向かっていく流れを描いたもの。

到着して、おそらく皆でその世界会議に参加する、という設定だろう。もちろん根底にあるのは、多様性の尊重と人間愛を通じた世界平和であるに違いない。そのひとりひとりを迎え入れる、つまりドアを開く役割を果たしていたのが、鼻先に「600」と刻まれた白いクルマだったのだ。

けれどプレスリリースの中には「Fiat 600e」という車名がたった2回出てくるだけで、その白いヤツがどういうクルマであるかについてはビタ1文字たりとも触れていない。何だよ何だよジラすなよ、ってな気分である。

イタリア語で「500」が「5(チンクエ)」×「100(チェント)」で「チンクエチェント」であるように、「600」は「6(セイ)」×「100(チェント)」で「セイチェント」。もっと簡単にいうなら、「600」のイタリア語読みが「セイチェント」だ。

初代フィアット セイチェントはヒット作だった

初代セイチェントは、1955年から1969年までの間に245万台少々が生産された、なかなかのヒット作だった。そして前回紹介したトポリーノに代わる小型車として企画されたクルマだ。……あ。古い方の、だよ。なぜならトポリーノは2人乗り。けれど乗用車としては大人4人が乗れるパッケージングが望ましかった。で、トポリーノとほとんど同じ約3.2mという全長の中にそのスペースを確保するため、RRレイアウトを採用してフロントシートを前方にセットし後ろのスペースを確保する、という当時としては革新的かつ合理的な設計がなされたってわけだ。

設計したのはトポリーノの開発チームの中にいた、ダンテ・ジアコーサ技師。……と、そんなところからも勘の鋭い人は気づかれたことだろう。そう、セイチェントなくして、ターコイズ号をはじめとする2代目チンクエチェントがあのカタチ、あのレイアウトで誕生することはなかったかもしれないのだ。ジアコーサ技師が2代目チンクエチェントの父であるなら、セイチェントは2代目チンクエチェントの母のようなものだ。……そうなるとジアコーサ技師とセイチェントが夫婦関係にあるような感じになっちゃって何だかおかしなたとえな気もしないでもないけど、まぁそういうことだ。

で、まぁフィアットから何の説明もないから勝手に推測するしかないのだけど、映像の中の白いクルマは時を隔てたその後継という位置づけなのだと思う。車名の最後に「e」がついてるから、これはBEV、つまりフィアット500e同様バッテリーEVであることは明らかで、そういう意味では技術的な共通項はほとんどないだろうから、あくまでも精神的な意味合いにおける後継、という感じなのだろうけど。

現行フィアット500Xの後を継ぐモデルになる!?

そして、これまた推測と、さらにはヨーロッパの方で流れてるウワサをまぜこぜにして述べるなら、このクルマはラインナップとしては現行フィアット「500X」の後を継ぐモデル、もしくは500に対する「500e」のような存在としてデビューすることになるのだろう。

スタイリングデザイン、チラ見できるインテリアのシンプルさ、それに映像から推測できる車室内の広さや車体のサイズ感が、500Xにかなり近いように感じられるのだ。御存知500Xは、チンクエチェントの世界観を思い切り盛り込んだ陽気なコンパクトSUV。

デザインの面でもハンドリングのおもしろさでも現行のエンジン版チンクエチェントと似たところがかなりある。ターコイズ号に乗りはじめてフィアットと縁が深くなる以前から、個人的にはこのクラスでいちばん楽しいSUVだと感じていた。見た目から想像するよりぜんぜんスポーティだし、いうまでもなく実用的で、なかなかいいポジショニングにあるな、とも思ってる。

600eのスタイリングデザインについては写真と映像で眺めていただくのが一番いい(といっても写真は映像からのキャプチャーなんだけど)と思う。それじゃ肝心の中身はどうなのか。いや、これも推測するしかないのだけど、もし500Xくらいのサイズ感なのであれば、プラットフォームは同じステランティスの中のプジョー「e2008」や「DS3 Eテンス」などと同じ、e-CMP2をベースにしてるんじゃないか? ということが考えられる。そういえばジープ初のBEVであり、2022年のパリ・サロンでデビューも果たしてる「アベンジャー」も、e-CMP2プラットフォームをベースにしてるはず。

であるなら、600eはそのステランティス最新のジープ・アベンジャーに、中身はかなり近いんじゃないか? なんて考えたりするわけだ。ちなみにアベンジャーのBEVは、レネゲードよりも車体が若干小柄で、現時点で駆動はFWDのみ。54kWhのバッテリーを搭載し、モーターの最高出力は156ps、最大トルクは260Nm。航続距離はWLTPモードで最大400kmほどで、欧州では公共の急速充電システムを使えば3分で30kmを走行できる分を充電でき、残量20%から80%を24分で充電することが可能だといわれてる。

まぁそのあたりは実際にフィアット600eが正式デビューしてみないと何ともいえないところではあるのだけど、カソリックの国の人々にとって重要なヴァチカンに関連する動画でおそろしく控えめながらもこうしたティーザーを行うあたり、「じつは冗談でした」なんてことにはならないリアリティがあるように感じられる。

その発表がいつになるのかまったくわからないのだけど、アイコニックな2代目チンクエチェントと現行チンクエチェントの誕生日なんて、それにふさわしいよな、なんて思えたりもするのだ。そしてその日は7月4日。もうすぐだ。

とりあえず動いてるフィアット600eを見ることができるフィアット公式YouTubeの動画をお知らせしておくので、それを見ながら楽しみに待つことにしましょ!

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