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日産初代「シルビア」に試乗! ポルシェ特許のMTはシフトフィールが感動モノでした【旧車はエンドレス_01】

エンドレス130コレクションの1965年式日産初代CSP311型シルビア

エンドレス創業者の故・花里 功氏による自動車ミュージアム「130コレクション」

長野県佐久市にショールームを構える「ENDLESS(エンドレス)」は、高品質のブレーキシステムやサスペンションなど、走りのポテンシャルを高めるチューニングパーツを送り出している。その創業者で、モータースポーツにも情熱を傾けた花里 功氏は、レストア事業にも本気の取り組みを見せていた。氏の長年の夢だったのが、若い頃に憧れたクラシックカーの名車やエンドレス関連のレーシングカーを展示する自動車ミュージアムの建設だ。その夢を実現したのは2021年春で、佐久穂町に「130 COLLECTION(130コレクション)」を開設した。

30台以上の名車を美しくレストアし動態保存している

この自動車ミュージアムの最大の特徴は、すべての展示車両が美しくレストアされているだけでなく、動態保存されていることである。花里 功氏がつねづね語っていた「クルマは動くからこそ価値がある」という信念に沿って、いつでも走れる状態にして展示した。車検を取得し、公道を走ることが可能なクラシックカーも多い。また、オリジナリティを重視しながら、安全に公道を走らせるために、ブレーキなどには手を加えた。展示車両は増え続け、今では30台を超えるまでになっている。

意欲的に台数を増やしていった130コレクションが3年目を迎えた2023年2月、花里 功会長の突然の訃報に接し、大きな衝撃を受けた。そこで生前にお世話になった花里 功氏への感謝と恩返しの気持ちを込めて、130コレクションの名車を紹介していこうと考えた。今回、撮影と試乗に引っ張り出したのは、美しいフォルムが際立つスペシャルティカーの日産初代「シルビア」だ。

美しいウェッジシェイプの国産クーペ、CSP311型シルビア

ボクは子どもの頃、この初代シルビアに強く憧れた。1965年の春、ボクは発売が間近に迫ったシルビアを銀座で観る機会に恵まれ、その美しいデザインと豪奢なインテリアに目を奪われたのである。銀座4丁目のビルの一角で観たシルビアは強烈な印象を残し、ボクのクルマ人生にも大きな影響を与えた。

最初に姿を見せたのは、1964年9月に開催された第11回東京モーターショーの日産ブースだ。美しいプロトタイプは「ダットサンクーペ1500」の名で展示され、年が明けた1965年3月に「シルビア」を名乗って正式デビューを飾っている。

当時は珍しい2人乗りの2ドアクーペで、デザインを担当したのは日産の造形課の木村一男を中心とする若手の社内デザイナーだ。このプロジェクトにはデザインコンサルタントとしてドイツ生まれのアメリカ人デザイナー、アルブレヒト・ゲルツも参加し、アドバイスを送っている。

ショーモデルは、高度な技術力で知られている殿内製作所(現・トノックス)によって製作された。正式車名の「SILVIA」は、ギリシャ神話に登場する女神の名前である。宝石のように美しいウェッジシェイプのクーペボディは、クリスプラインと名付けられた。最大の特徴は、ボディに継ぎ目のない一体プレスを採用したことだ。美しさにこだわり、熟練の職人がハンドメイドで仕上げた部分も多かった。インテリアは、スポーティさとエレガントさが上手に共存している。メッキを上手に使い、文字の書体やタンブラースイッチなども美しい。しかも色味はオシャレなアイボリーだ。

型式は「CSP311」を名乗った。同じ時期にデビューした「フェアレディ1600」と兄弟関係にあり、最初の「C」は、クーペの意味である。ボディの下は、はしご型と呼ばれるボックス断面X型メンバーのラダーフレームだ。これをクロスメンバーで補強し、剛性を高めた。パワーユニットは、新開発のR型直列4気筒OHVで、総排気量は1595ccだ。

オリジナルを重視しつつ現代の技術も盛り込みレストア

エンドレスが所蔵する1965年式シルビアは、新車と見紛うばかりにピカピカにレストアされている。50年以上も前に生産され、長く放置されていたためスクラップに近い状態だった。だが、フレーム構造だったことが幸いし、丁寧な鈑金や継ぎはぎなどを駆使してボディもフレームも新車のように仕上げ、甦らせている。また、安心感のある走りを実現するために、現代の技術も随所に盛り込んだ。

シルビアのフロントブレーキは、住友電工製のダンロップ・マークIIディスクブレーキである。ベースはオリジナルのままだが、エンドレス製のスポーツパッドを組み込み、リアのL&Tドラムブレーキのシューも自社製に変更した。一緒に純正の鉄ホイールとキャップもリペアしたが、試乗車に装着されていたのはENKEI製のアルミホイールだ。このホイールはもう1台のシルビアを引き取ったときに装着されていた当時物のアルミホイールである。これをリペアして装着した。

サスペンションは、フロントがダブルウイッシュボーンにコイルスプリング、リアはリーフスプリングによるリジッドアクスルだ。コイルスプリングなどはエンドレスでオーバーホールして組み直した。R型エンジンはオーバーホールを施し、オリジナルと同じSUタイプのキャブレターを2基装着している。圧縮比は9.0で、最高出力90ps/6000rpm、最大トルク13.5kgm/4000rpmのスペックだ。トランスミッションはポルシェシンクロ(ポルシェが特許を取得していたセルフサーボのシンクロ機構)の4速MT。カタログに記載の最高速度は165km/h、0-400m加速はクラス最速の17.9秒だった。

秀逸なシフトフィールと一体感あるハンドリングを満喫できる

標高1200mを超える高地での試乗だったが、シルビアは水を得た魚のように小気味よい走りを披露している。スタータースイッチを回すと快音を響かせて瞬時に目覚めた。アイドリングは安定しているが、ちょっとした息継ぎが生き物のように感じられ、愛らしい。980kgの軽量ボディに加え、クロスレシオの4速ミッションだから暖気が済んでからの加速は軽やかだ。スロットルワークでエンジンのご機嫌を取るのもキャブレターならではの魅力である。

ポルシェシンクロの4速ミッションは、バターに温めたナイフを入れたときの感覚と言われるほど、独特のシフトフィールだが、感動モノの仕上がりだった。どのギアなのか分からないグニャッとした感覚のクルマが多いが、このシルビアのシフトフィールは秀逸だ。ダブルクラッチを使って回転を合わせると、クッと気持ちよくシフトレバーが吸い込まれていく。クラッチの踏力は「フェアレディ2000」ほど重くなく、手応えもあるから操る楽しさは格別だった。

一体感のあるハンドリングも魅力のひとつに挙げられる。フレーム構造に加え、フェアレディと違ってクローズドボディのため、ねじり剛性などが高いのだろう。ステアリングギアはカム&レバー式だ。ウォームギアだから切り込んでいったときに遊びがあり、応答性も鋭くはないが、敏感すぎない安心感がある。ハンドリングは当時のスポーツモデルの中では素直な部類だし、コントローラブルだ。さすがに荒れた路面ではリアのグリップが失われるし、段差の乗り越えも苦手と感じる場面もあった。だが、操っている感覚が強く、運転するのが楽しい。

さすがだな、と思ったのはブレーキの減速フィーリングだ。強化されたパッドとシューのおかげで安心してブレーキを踏めるし、当時の新車より制動距離も短くなっている。低速から高速まで、コントロールできる領域が広いのもいい。

新車のシルビアの車両価格は、当時としては驚くほど高額で、セドリックを超える120万円だった。おいそれとは買えないし、乗れない高級スポーツクーペだったから生産台数は554台にとどまっている。久しぶりにステアリングを握り、若返った気分だ。

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