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トヨタ新型「アルファード」はドライバーズカーとしては失格!? ロングドライブでわかったキングオブミニバンの実力とは

新型「アルファード」の進化を見極める

クラウンに代わり日本を代表する高級車となったトヨタ「アルファード」は、今や日本が世界に誇るショーファーカーです。4代目へと進化した新型、オーナードリブンカーとしての進化はいかほどのものか? モータージャーナリストの西川 淳氏が東京から京都までのロングドライブで検証した結果をお届けします。

「いつかはアルファード」

今のところ最も安いグレードとなるZのFFでも車両本体価格は540万円。アルファードは名実ともにクラウンに代わる日本の高級車になった。そのうえ大人気で生産が追いつかず、オーダーができない状況が続いているというのだからホンモノだ。こんな状況じゃ8人乗りのもう少し安いグレードさえ売り出すことはできない。いずれにしても本気で欲しいユーザーにとっては痛し痒し。買えた人はラッキーだけれど。

旧型に比べて大いに変わったという評判だ。とはいえ、先代のデビューは2015年で2023年半ばまで9年近くにわたって生産されていた。つまり基本設計は十年前のミニバンだ。そのうえ、大ヒット作。開発予算も他に比べてふんだんにあったはず。よくなって当たり前、変わらなかったらバチ当たりというものだろう。

アルファード、そしてヴェルファイアは今や日本が世界に誇るショーファーカーだ。海外から日本にやってきたVIPたちにとって、空港で乗り込むアルファードは差し詰め最初のカルチャーショック。なかには“持って帰りたい”というほど気に入る要人だって少なくない。今後、“もてなし尽くし”のショーファードリブンカーが世界の高級車のトレンドになるかもしれない。

ドライバーもパッセンジャーも満足させるのがアルファード

一方で、そんなアルファードが日本ではオーナードリブンカーとして好まれていることを外国の人たちは知らない。知ったらきっと不思議がるに違いない。新型ではヴェルファイアをオーナードリブン寄りに仕立てた。あまつさえパワーのあるエンジン(2.4リッターターボ)も用意した。そんなことを外国人のアルファード好きに伝えると、大抵キツネにつままれたような顔になる。運転するクルマじゃないだろ。黙っていてもそう言いたそうだってことが薄々分かる。

確かにハイヤーとしてもよく使われている。今や芸能人や議員、社長、組長の御用達送迎車だ。けれどもオーナーカーのアルヴェルだって多い。それが証拠に平日、路上で20秒に1回はすれ違うアルファード&ヴェルファイアにはたいていドライバーひとりしか乗っていない。明らかにショーファーカーではない。自営業の方かどこぞの奥方か。アルファードはミニバンキングとしてこの20年間、日本のMPV界に君臨してきた。今や「いつかはクラウン」ではなく、「いつかはアルファード」。だから運転するクルマでもあるのだ。

進化した乗り心地でショーファーとしては合格だが……

はたしてアルファードのオーナードリブンカーとしての進化はいかほどのものか。試乗会でもはっきりとした進化の手応えはあったのだが、長く乗って気づくこともある。いつものように京都の自宅まで連れて帰ってみることに。チョイスしたのは試乗会で最も気に入ったグレード、エグゼクティブラウンジのハイブリッドFFだ。色はアルファードだけに設定された個人的には超好みの「プレシャスレオブロンド」。

その他の色は白と黒しかない。凄まじい割り切り。なんでも先代では9割が白か黒。ワインレッドとか中古で高くなったけどなぁ、とちょっと残念な気分に。それはさておき。

結論から言うと、このクルマはやはり日本の街中、せいぜい都市高速まわりのドライバーカーであって、片道500km近いロングドライブにはさほど適さない。もちろん行って行けないことはないけれど、気持ちがいいとは思えなかった。

ちなみに先に言っておくと2列目の乗り心地は、それこそ前2列の進化より格段に良くなっている。エンターテイメントを楽しみながらの移動であれば、長いドライブになっても最高とは言い難いけれど、まずまず快適だ。つまりショーファーカーとしては合格。よくできた送迎車である。

ドライバーカーとしては、まずもってクルージング時のスイートスポット速度(無意識で心地よく巡航できる速度)がエコモードで100km/h、スポーツモードでも120km/hと完全に日本の高速道路をターゲットにしている。法律上、これでなんら問題ないとはいえ、実際の高速事情を考えると少々物足りない。実際、普段と同じようなペースで走っていたつもりが、随分と時間がかかって驚いた。

これにはミニバンというモデルとカタチも大きく影響している。背が高く長い割にトレッドの狭いミニバンでは、どうしても比較的低い速度域から物理的に苦しくなる。制御で抑えつけるにも限度があるのだ。それゆえ無意識の心地よい速度域は、横風の影響などを感じつつ低くなりがちだ。つまりわかり切ったことだけれど形状的にグランドツーリングカーとしては無理がある。

ステータス以外の魅力とは?

加えてシートがいけない。座面のクッションが早々にヘタってしまう。尻が凝る。フラットなフロアと背の高いことに起因する、フロアなどからの振動も随分と抑えられてはいるけれど完全ではない。その結果、ロングドライブから降り立ったドライバーの身体はしばらくの間、ワナワナと震えている。クラウンクロスオーバーやレクサス RXを長く乗ったあと降りてすぐに仕事はできたけれどアルファードでは無理だった。

はっきり言って、この4代目の進化はショーファーカーとしてのものが大半であって、ドライバーズカーとしての進化は手袋運転者向けの限られた部分でしかない。それも長距離ではなく短距離。都内や首都高を走っているぶんには、そこそこ満足できるというレベルだろう。

第一、ドライバーへのもてなしは必要最低限に止まっている。メーターのデザインは汎用品のようだし、フロントドアにはイージークローザーがない。もちろん運転者用のマッサージもない。おまけにエンジン音はどこまでも無粋となれば、オーナーカーとしての魅力はキングオブミニバンというステータスのほか何もない。

よかったのは燃費だ。エコモードで高速道路だけなら16km/Lで走る。しかもレギュラーガソリン対応だから嬉しい。

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