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ボルボ新型「EX30」に試乗! 使えるワンペダルに「ベントレー」と「ブラックベリー」が隠し味で559万円はお買い得です

サステナブルなコンパクトSUV

環境負荷低減にも取り組んだ、ボルボ史上もっとも小さなBEVとなる「EX30」。リサイクル/バイオ素材を最大限に活用した内外装や、メーター表示を含めたほとんどの機能をセンターディスプレイに集約したインテリアなど、個性的なコンパクトSUVにひと足早く試乗してきました。

これまでの高級車が古くさく思えるモダンインテリア

CO2を吐き出すことが悪魔の所業のようにいわれ、カーボンニュートラル化が免罪符のように扱われて久しい昨今、欧州は宗教改革の様相を呈してきた。電動化シフトは待ったなし、であることは間違いないが、20XX年までにICE全廃すべしとか、BEVだけが唯一の解といった待望論は、後退し始めた。つまりBEVはまだまだ普及モードで、改良・改善の余地があるのも事実。

そもそもアンチを増やしてしまった従来BEVの致命的な点は、トラック並かそれ以上に重量級かつ巨躯で、イカつくて恐い系のフロントマスクも少なからず。つまり、佇まいレベルでも機械式駐車場への不適合ぶりでも生活圏インフラへのアタック性は強いのに、CO2さえ吐かなければオッケーとばかり最先端かつクリーンな顔ができる、そんな偽善性に尽きる。

こうしてBEVを巡って、意識高い系もアンチも入り交じる賛否両論のカオスの中、こんがらがったコンテクストに手際よく横串を刺しつつ、一段インテリジェントな解にまでまとめ上げた最新の1台が、ボルボEX30といえるだろう。

プラットフォームは中国のジーリーと共通のSEA(サステイナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャ)で、開発リソースをまとめながら効率的に生産。何よりEX30は、エクステリアではスチールとプラスチックの約17%、アルミの約25%がリサイクル起源で、インテリアのプラスチック類も約30%がリサイクル素材で占められている。それもこれも、ユーザーが乗って走らせている間だけでなく、原料の調達から将来的な廃車・回収からのプロセスも鑑みて、可能な限り環境に対するカーボンフットプリントを下げられる設計を優先したBEVなのだ。

ベントレーから移籍したデザイナーが手がけた

乗り込んで感じられるのは、「意識の高さ」より「見識の高さ」が際立って感じられる内装であること。ペットボトル由来のポリエステルを用いたファブリックや人工皮革風の素材によるコンビシート、窓枠サッシを砕いて再生された加飾パネル、漁網から再生されたフロアマットに、廃デニム材をリユースしたパネルやマットなど、再生素材やリサイクル可能な素材をふんだんに用いている。それでいて、柔らかく温かな雰囲気の北欧テイストは失われておらず、これまでの高級車にあったようなレザー・ウッド・クロームモールといった組み合わせが、一気に古いものに思えてくる。

驚くのは、いわゆるメーターパネルがないこと。12.3インチのセンターディスプレイに選択中のシフト表示とか、バッテリー残量といった走行情報も集約されている。速度など走行情報の表示もセンターディスプレイ上部にまとめられた。これは配線ハーネスの量を減らすための方策で、オーディオのスピーカーもたしかにドア内スピーカーなどはなく、ダッシュボード奥にハーマン・カードンのサウンドバーが備わっている。

それでいて、ドアオープナーはアルミ製だったり、センターコンソールまわりの収納は明らかにICEより広く、2段階に引き出して1人用/2人用と使い分けられるドリンクホルダーなど、造りも節度感も申し分ない。また後席側から取り出せるダストボックスには、側面の成型モールが森とトナカイという自然豊かなモチーフのイラストになっていて可愛らしい。機能面でも使い勝手でも妥協がないのに、シンプルで要素を極端に減らしたこのインテリア、じつは英国人でベントレーから移籍してきたデザインチーフが手がけたと聞いて、さらに驚いた。

いってみれば、新興メーカー勢の「クルマ未満」のようなBEVの内装と違って、既存の自動車メーカーがBEVの時代に「自動車」を再定義しつつ見つめ直した、そういう練り込まれ方のインテリアだ。「小さな高級車」の超モダン解釈、でも乗り手の神経を逆撫でしない優しさに満ちているところが好ましい。

ボルボらしさは健在

適度にボクシーで、流行りのスクァークル(四角丸)風のラインや、前後に横一文字のライト類一体型のオーナメントを採用しなかったエクステリアも、ボルボらしい生真面目さが漂う。トールハンマーのヘッドランプはLEDピクセル大きめとなった。またボルボ伝統の縦長テールランプは2分割になって、上側がハイマウント状になっているが、無いものを視線が繋いでしまう効果がまた心憎い。

ちなみにフロントボンネットの左右両端と、ボディサイドの「えぐり」も、彫刻刀でひと削りしたような意匠で凹部の山折りエッジ同士は本来、ひとつの面でなめらかに繋がっているのだ。こういうゲシュタルト効果を狙った細部を多々含むエクステリアは、じつはGMからキャリアをスタートしてサーブ経由でボルボに辿り着いた、ドイツ人デザイナーの手によるもの。さらにいえば、センタースクリーンのデジタル・インターフェイスを設計したのは、前職はブラックベリーだったというカナダ人のITエンジニアだ。北欧デザインも多国籍チームによって、新しい高みに到達しているのだ。

他のコンパクトと一線を画すイージードライブ感

ところで走ってみた印象だが、BEVならではの低重心による圧倒的なスタビリティが際立つ一方、その気になればコンパクトカーとしてキビキビと走らせることもできる。ステアリングの中立付近は、敏感過ぎずどっしりしていて、高速道路でもストレスなく安心感が高い。ワインディングでは少し早めに初期の微舵角を入れてやる必要があるが、その感覚を掴んだらそれなりにハイペースで峠や郊外路を楽しめる。

それでも、EX30のBEVらしさが際立つのは、市街地での扱いやすさだ。街乗りに向いたサイズ感であるのはもちろん、ワンペダルドライブによる減速から停止までのもっていきやすさ、前走車との距離の調節しやすさが、抜群にいいのだ。ワンペダルで静止できないワンペダルはワンペダルではないはずだが、EX30はそこは字句通りにちゃんと造り込んでいる。ステアリングは思い切って軽くした感じだが、イージードライブ感と静粛性の高さは、既存の欧州BセグメントSUVとははっきり一線を画す。後席や室内、ラゲッジスペースの広さも相まって、実用レベルでも最高の選択肢になりうる。

惜しむらくは、ワンペダルドライブと通常のコースティングありのドライブとの切替が、タッチスクリーン内で最低2~3タッチ要ること。ステアリングホイール上で、ADASの操作より気軽に頻繁に切り替えられたら申し分ないのだが、まぁ、配線ハーネスの節約として、納得できる範囲ではある。

いずれ、これまで選択肢のほとんどなかったコンパクトな最新世代のBEVにして、車両価格はシングルモーター仕様で559万円(消費税込)。補助金にもよりけりながら、実質的には500万円アンダーのプレミアムBEVにして、高級車にありがちなエゴ・セントリックな1台ではなく、エコ・セントリックであることを、あざとさゼロで可視化できている1台だと思われる。日本でもオーダー受付中で、デリバリーは2024年2月から始まる予定だ。

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