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走行4390キロのフェラーリでも人気がない!?「400i」がコレクターにも敬遠される理由とは

流札となったフェラーリ「400i」(C)Courtesy of RM Sotheby's

素人は安易に手を出すべからず? のフェラーリ400i

2023年11月4日、RMサザビーズ欧州本社が、その本拠地であるロンドンの市内にある古城「マールボロ・ハウス」で行った「LONDON」オークションでは、近現代フェラーリの一群の出品が話題となった。出品者の名義は「ファクトリー・フレッシュ・コレクション(The Factory Fresh Collection)」。シンガポールでフェラーリの正規ディーラー「ホンセ・モーターズ」を長年経営してきたビジネスマンにして、生粋のフェラーリ愛好家としても知られるアルフレッド・タン氏が新車として入手したのち、未登録でほとんど走らせることなく保管してきたフェラーリの数々が、オークション会場に集められたのだ。今回はその中から、1980年代の超高級グラントゥリズモにして、曲者のフェラーリとしても知られる400iのあらましと、オークション結果についてお話ししよう。

裕福なエンスージアストのための超高級グラントゥリズモ

1950年代から現在に至るまで、フェラーリの2+2グランドツアラーは、サラブレッド・スポーツカーの華々しいラインナップからは一線を画し、エレガントでゴージャスな独自路線を築いてきているが、そのキャラクターを決定的なものとしたのは「365GT4 2+2」といわれている。

ピニンファリーナのデザインチームを率いていたレオナルド・フィオラヴァンティ氏は、このモデルの直接の前身である「365GTC/4」とは大きく異なる、よりフォーマルなノッチバックのシェイプラインを導入した。

かくして1972年に正式発表された365GT4 2+2は、フェラーリの新しい2+2フォーマットによって、既存の365GTB/4デイトナベルリネッタのごときスーパースポーツ色の強いグラントゥリズモとは一線を画す、ゴージャスな世界観を切り開くことができた。

マラネッロ製2+2グランドツアラーは時代とともに進化し、1976年にはエンジンを4823ccに拡大した「400GT(5速MT)/400AT(3速AT)」としてリブランディング。そして1979年にはフューエルインジェクションエンジンを搭載した「400i」としてアップデートされる。

この燃料噴射システムは、当時日本や北米カリフォルニア州から世界各国に広がりつつあった排気ガス規制に対応するために導入されたもの。

基本は以前の「400」と同じ4.8リッターの「ティーポF101」V型12気筒4カムシャフトエンジンながら、6連装のウェーバー社製キャブレターに代えて、独ボッシュ社製のKジェトロニックを搭載した。インジェクションに移行した結果、30psものパワーが犠牲になったものの、それでもシンフォニーのような快音を響かせるV12エンジンは310psを発揮し、最高速度は240km/hに達した。

また、前任の400ATで市販フェラーリとしては初めて導入されたGM製3速ATは400iでも組み合わされ、メーカーが意図したとおりのシームレスな快適性とスタイリッシュさで、大陸横断のグランドツーリングを悠々と実現するには理想的な一台と謳われていた。

実際、5速マニュアル仕様の422台に対し、日本を含む大部分のマーケットで400iのデフォルトとされたオートマチック仕様は883台が生産され、当時の顧客から人気が高かったことを物語っていたのだ。

走行履歴の少ないフェラーリは、やはりリスキー?

これまでの通例からすると、365GT4/2+2から「412」に至る一連の4シーターモデルは、現在のクラシックカー市場においてはリーズナブルな投資で入手できる反面、ちゃんと維持してゆくにはもっとも手がかかる。結局は、もっとも金もかかるフェラーリのひとつと目されている。

今回RMサザビーズ「LONDON」オークションで販売された400iは、1983年に生産された右ハンドル+3速AT仕様である。

この400iは「ファクトリー・フレッシュ・コレクション」にとって、初めての「カヴァッリーノ・ランパンテ」のバッジをつけたクルマのひとつ。同コレクションに所蔵されているほかのフェラーリたちと同様、新車としてシンガポールのホンセ・モーターズに引き渡されて以来、現在に至る40年間のほとんどを倉庫のなかで過ごしてきたという。

それゆえ、公式オークションカタログ作成時のオドメーターに刻まれたマイレージはわずか2743マイル。約4390kmに過ぎないいっぽうで、エンジンおよびトランスミッションともにマッチングナンバーが維持されている。

歴代の2+2フェラーリの伝統にしたがって、デザインワークのみならず架装までピニンファリーナで行われたボディは、ダークブルーにペイント。「クレマ(クリーム色)」のインテリアも、走行距離を裏づける美しいコンディションを誇っている。

この魅力的な400iの時代を超越したスタイリングは、クラシック・フェラーリのファンだけでなく、グランドツアラー愛好家にもアピールする……、と期待したRMサザビーズ欧州本社は、「ファクトリー・フレッシュ・コレクション」との協議の結果、5万ポンド~8万ポンドというエスティメート(推定落札価格)を設定。これは日本円に換算すれば約905万円~約1450万円という、現況の400iにしてはなかなか強気の見立てであるとともに、今回の出品を「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは、特に対面型のオークションでは確実に落札されることから会場の空気が盛り上がり、参加者が競ってビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。しかしそのいっぽうで、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札されてしまうリスクもある。

ところが11月4日には競売にかけられたはずが、なぜか「Not Sold(流札)」に終わってしまった。

これは筆者の予想、ないしは邪推に過ぎないのだが、おそらくは出品者側の期待に沿うような入札額に至らないことを危惧して、RMサザビーズが早々に出品を停止した可能性が否めない。

美しいスタイリングにゴージャスきわまるインテリア、魅力の点では申し分がないいっぽうで、安いからといって安易に飛びついてはならないクラシック・フェラーリの典型例である400iゆえに、たとえ新車のようなコンディションを誇っていても走行履歴が極端に少ない個体は敬遠される。

今回のオークションについていえば、そのリスクに挑む入札者が現れなかったということだろうと思われるのである。

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