サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

460万キロ走破した個体も! メルセデス・ベンツの初代コンパクトシリーズ「W114/W115」は質実剛健なファミリーカーでした

W114

ファミリーカーとしてのコンパクト・メルセデスであるW114/115セダン

コンパクトメルセデス最初のモデル

今回はメルセデス・ベンツの史上で初代コンパクトシリーズとして、モダンでファミリー層の人気を博したW114/115を紹介します。1972年にヤナセへ入社した筆者自身が毎朝洗車した愛着があり、質実剛健なクルマ造りに感銘を受けたメルセデス・ベンツの車両でもあるのです。

運転が苦手な人でも扱いやすかった

1968年、「ニュージェネレーション」のタイトルで登場したのが、初代コンパクトシリーズのW114/115である。特に1968年に発表されたので、stroke8(ストローク8)と呼ばれて親しまれ、縦目のヘッドライトが特徴だ。W114は2.3L、2.5L、2.8Lの6気筒ガソリンエンジンを搭載、W115は2.0L、2.2L、2.3Lの4気筒ガソリンエンジンと、2.4Lの4気筒ディーゼルエンジン&3.0Lの5気筒ディーゼルエンジンを搭載したモデルだ。

先代のW110(通称:羽根ベン)までは、強いて言えばSクラスに相当する上級クラスを元にして、単に4気筒用にショートノーズ化しただけの造りで、おもにタクシー需要を満たすだけに過ぎなかった。しかし、このW114/115では一挙に「オーナードライバー向き」と銘打ち、コンパクトでスタイリッシュな専用ボディを与えられて登場したのだった。結果、最終的な販売台数はW110の3倍に相当する191万9056台にのぼった。

特徴は、何と言っても縦目のヘッドライト。しかもスマートになったグリルとのモダンなコンビネーションは、引き締まったボディサイズや最新のテクノロジーが投入され、メルセデス・ベンツならではの高級質感を一層際立たせて見せた。

内装のセンスもまさにパーソナルカーの趣きで、待ち憧れていた世界中のファンに好意を持って迎えられた。そして、日本では国産2Lクラスと大して変わらないというコンパクトさが、メルセデス・ベンツを身近な存在に。当時のダイムラー・ベンツ社は、「メルセデス・ベンツのエントリーモデル」と表現し、「オーナーカーに相応しいエンジニアリングの数々を、満を持して投入した」と胸を張った。

グレードは4気筒の200から6気筒の280まで用意され、さらにハードトップ・クーペの250CEや280CEも加わった。このEの接尾辞はドイツ語でEINSPRIZUNGの頭文字だが、燃料噴射の意味。初のDOHC燃料ポート噴射式エンジンを搭載し、このクーペの放つ趣味性の高さも、その存在を身近に感じさせている。

果たして触れてみると、親しみやすさが設計の目的に置かれていることが明白に感じ取れた。ボディはコンパクトでもシートは身体を充分に包んでくれるサイズが確保され、あくまでもファミリーカーとして乗員を温かく歓迎する雰囲気のキャビンで安心感があった。

機構上、もっとも大きな変更はパワーアシスト付きのステアリングを採用し、駐車場も楽に操作できるようになったこと。コンパクトで視界も広いので女性にも付き合いやすいメルセデス・ベンツが誕生したと言える。ステアリングは大径で扱いやすいだけでなく、しっかりとした重みもあり、安心感のある握り心地が特徴であった。

足まわりにも手を加えて運動性能も向上

リアにメルセデス・ベンツのダイアゴナル・スウィングアクスルを採用したことも注目に値し、旧式のスウィングアクスルと比較して明らかにキャンバーの変化が少なくなり、ワインディングロードでのハンドリングはメルセデス・ベンツ特有のニュートラルに近い好ましい弱アンダーステア特性を示した。

高性能な280CEでは、さすがにスタビライザーを強化するなど、ツインカムエンジンの速さに対応する仕様であったが、セダンでは自然なロールを示すセッティングで、走りのクオリティは相当なものだった。

ドライバーにとっての最高のプレゼントは、より配慮の行き届いた運転席のレイアウトである。メルセデス・ベンツのインターミディエイトがこんなにもダイナミックなムードを押し出してきたのはこれが初めてのことだった。それまでの「Sクラスの小型版を造っておけば誰も文句はなかろう」と言わんばかりの傲慢さがなくなった。

しかし、もっとも評価すべきは、このモデルから明らかにこれまでとは違う、実力の高いセーフティパッドの材質を随所に配し、吟味されたダッシュボードの材質を採用するなどして、事実、抜群の衝撃吸収能力を発揮したことだ。永年安全性を唱えてきたメルセデス・ベンツが遂に本領を発揮しはじめたのである。

ところで、ギリシャのタクシードライバーであるサキニディス氏の1976年製240Dは、エンジンを11回も載せ替えつつ、1台の車両で累計460万Kmを走破した記録がある。いかにコンパクトなシャシーおよびボディが強靭であるかを証明するものだ(2004年にはメルセデス・ベンツミュージアムに展示)。

筆者が1972年にヤナセへ入社して初めて乗った店用車はメルセデス・ベンツ300Dで、エンジンは当時として画期的な5気筒ディーゼルエンジンを搭載しパワーがあり、静かで取り扱いのしやすいサイズであった。特に、メルセデス・ベンツの派手さを控え、その質実剛健なクルマ造りには深い感銘を受け、その印象はいまだに残っている。

このコンパクトなW114/115は、外装では高品質感を、内装には安全性を感じさせてくれるトータルバラスのとれたモデルである。

モバイルバージョンを終了