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デザイナーに聞く日産「アリアNISMO」のデザインキーワードは? こだわりの「赤」に象徴される「アルテリア・マグマ」とは

森田氏とアリアニスモ

日産自動車 グローバルデザイン本部の森田充儀主管にお話を伺った

大注目のワークスチューン高性能SUV

2024年2月に開催された大阪オートメッセ(OAM)2024。日産自動車ブースの目玉といえば、1月10日に公式SNSで突如、その存在が明らかにされ、東京オートサロンで世界初公開された「ARIYA(アリア)NISMO」で間違いありません。2024年6月に発売予定である最新NISMOロードカーのデザインについて、統括責任者である日産自動車グローバルデザイン本部の森田充儀主管に話を聞きました。

従来のNISMOロードカーとは手法を変えた

「アリアNISMO」はNISMOロードカーとして通算11車種/19台目となるモデルで、これまでの不文律に従い、動力性能/ハンドリング/4輪駆動システムに至るまで、レースを含めた電動化技術をフル活用した新たな専用チューニングが施され、新世代BEVの最高峰スポーツモデルにふさわしい走行面のアップデートが図られている。では、デザインはどうか? 今回はNISMOロードカー初となるクロスオーバー車で、従来とは少し世界観が異なるが……。

「アリアを手がける前はGT-Rに始まり、スカイライン/フェアレディZとスポーツ路線のクルマをNISMOロードカーに仕立ててきました。スポーツカーはモータースポーツの延長線上にあり、性能方向に特化すればいいので作りやすいのです。対してアリアはプレミアムEVクロスオーバーですから、NISMOとしてどのような姿を作り上げていけばいいか、ずいぶん悩みました。それはスタイリングだけでなく、性能面も同様で、検討に時間がかかりましたね」

エクステリアのポイントのひとつとなるのはNISMOロードカーのアイコンとして定着している赤のボディライン。スポーツカーでないアリアはこれまでとは異なるNISMOらしさを表現するため、前後バンパー/フィニッシャーの途中にラインを入れている。

「簡単に言えば、ラインの意味(作法)を変えました。テーマは2面性で、見た目は上品/紳士だけれど、本当は熱血漢だったり、意外性がある人がイメージ。その普段は見せない内面の強さを赤いライン(これが、アリアNISMOのデザインキーワードのひとつで、日産自動車は『アルテリア(隠された/秘めた)・マグマ』と呼ぶ)で表現しています」

ラインを従来よりも高い位置に入れたのは、内面の熱さがにじみ出ていることの演出。当初は発光させることも検討したとのことだが、最終的にはカラーを従来のメタリックレッドからより明るいソリッドレッドに変更し、黒とのコントラストをより強くすることで表現した。線自体も太くなり、存在感をより強調し、後方に向かうほど太くすることで勢いを与え、よりダイナミックに見せる狙いがある。

パーツとしての変更点はフロントバンパー/リアディフューザー/ドアフィニッシャー/フロントプロテクター/リアスポイラーの5点。基本はブラックのエリアが刷新部分だが、フロントのみグリルより下を一新している。

「空力エンジニアとともに手がけるNISMOロードカーのデザインはどのクルマもロジックは共通です。フロントについては顔に当たった風を横に流してあげるのが基本。そのため、左右のエアカーテンの断面積も基準車より大きくして、風を上に逃がさずに流しています。そして、カナードは縦風の流れを作り、吸い出し効果とともに、ボディのリフトアップを抑えています」

難点は最新のクルマは先進装備が多く、バンパー内にセンサー、ソナーなどが複数取り付けられており、その取り付け位置や角度を変更する場合、安全設計から見直しとなる。となると、開発費が何倍もかかるため、NISMOなどの造形の変更では、こうした条件をクリアしながら、見た目も性能もよいものにしなくてはならず、毎回苦労の連続だという。

「全体として言えるのは、もともとアリアのもつ彫刻的な美しさを尊重しながら、黒のファンクションパートは性能を出すために機械的に最適な造形をプラス。そのコントラストがNISMOらしさとなるように表現しています」

全体で見れば、フロントは大型のエアスプリッターを設け、ドアフィニッシャーはダウンフォースを稼ぐため、基準車に対して40mm下げ、横方向に35mm拡大。リアはできるだけ地面からの距離は低くし、限りなく後ろに長くすることで、より遠くで風を切ることが基本。オーバーハングも若干長く設定する。

すべては、空力性能は高めるとともに、視覚的に重心を下げるため安定感のあるデザインでまとめている。そのため、赤いラインを一番下に入れると、背が高いアリアの場合は、車高が高く見えてしまう。途中に入れているのはその印象を抑えるためという理由もあるのだ。

インテリアにもこだわりあり!

アリアNISMOの専用リアスポイラーは、ドラッグの低減のため中央に穴が空けられた基準車のルーフスポイラーから(加えてボディサイドからも)流れ込む空気を拾い上げ、よりダウンフォースを得るために設定している。

「当初はもっと大型だったのですが、基準車のパワーゲートアクチュエーターでは上まで持ち上げることができず、やり直しに。コンビネーションランプ付近まで被せていたデザインを切り上げたり、全体をコンパクト化したりと苦労はありましたが、完成したデザインを見ると突き詰められた美しさがあり、これはこれでありだなと思っています」

ホイールはENKEIと共同開発し、イメージはモーターの鉄芯。外周部がフラットな形状で、中央部が細身の2×5スポークというコンビデザインは、空気抵抗の低減と排熱&ダウンフォース、そしてホイールの回転トルクを効率よく受け止めることなど性能を突き詰めた結果生まれたものだ。また、リム幅は基準車より0.5J太いが、ENKEI独自のMATプロセス工法により、重量をほぼ同等に抑えるなど、アリアNISMOの性能を引き出す設計となっている。

アリアNISMOのエクステリアデザインは迫力のあるフォルムと制約のある中で開発陣が研ぎ澄ませた洗練が融合。基準車の彫刻的な美しさを持つ造形を見事にプレミアムスポーティな雰囲気へと昇華させている。

インテリアの基本的な作り込みは開発当初、エクステリア同様、冒頭に記載した悩みがあったという。だが、オーラでダッシュボード周辺を含めて大胆に刷新し、マチュアな(円熟した)スポーツカーなテイストを盛り込んだところオリジナルとは異なる世界観が演出できたため、その経験が今回のベースとなっている。

基準車のブラック内装をベースとして、ダッシュボード/ドアトリムの上部などにGT-R NISMO同様のブラック・アルカンターラレザーを採用。ウッドフィニッシャーもブラックとするなど装飾を抑え、質の高い黒を基調とした空間を構築。そこに赤いアクセントを添えるのがNISMOロードカーのお約束だが、今回はこれに新たなデザインキーワードである「アルテリア・マグマ」という演出も加わる。

具体的には基準車の柔らかなホワイトからスパイシーな赤へと変更となったセンタコンソール下と左右のドアトリムのイルミネーション、スエード調表皮のパーフォレーションから赤が覗く専用スポーツシートなどが「内に秘めた熱いマグマ=内面の強さ」を表現。ただし、ドアトリムのイルミネーションの色温度は調整を繰り返し、アルカンターラ部分に走る2本のステッチは上側のみを赤(下はグレー)として派手さを抑えるなど、フラッグシップにふさわしい大人のインテリアに仕上げられている。

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アリアNISMOはこれまでのNISMOロードカーの流れは踏襲しつつも、レーシングカーを想起させるリアルスポーツデザインではなく、新たなNISMOロードカーの流れとなるプレミアム路線を打ち出した第1号と言えるだろう。今後の本格的な電動化時代を見据えた戦略であることは明らかだが、このスタイルが認知されれば、あらゆるクルマがNISMOロードカーとして成立する。そうした意味で、アリアNISMOの成否は今後の流れを大きく左右しそうだ。

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