サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

「メタル/カーボン/オルガニック」素材によって異なるクラッチの特徴とは?「小倉レーシングクラッチ」を例に解説します

クラッチの構造

メタルクラッチ・レーシングコンセプトの内部構造

ORCのラインアップは大きく分けて3タイプ

カーエアコンの電磁クラッチや産業/工作機械など、各種一般作業用のクラッチ・ブレーキの総合メーカーである「小倉クラッチ」。そのノウハウを駆使して誕生した自動車用クラッチブランドが「ORC(小倉レーシングクラッチ)」です。2024年2月10日〜12日に開催された大阪オートメッセ2024にもブース出展し、多くのカスタマイズ好きが注目していました。今回はクラッチの基本をおさらいするとともに、現在のORC商品のトレンドについてご紹介。MTのスポーツカー乗りは、クラッチ交換したくなること間違いなしです。

しっかりとパワーを受け止めつつ扱いやすさも重視

ORCブランドの立ち上げは1998年で、当初はゼロヨン競技などに参戦するチューンドカーに向けたメタルクラッチを製造。さらに国内トップカテゴリーである全日本GT選手権(現・スーパーGT)へもクラッチの供給を開始する。1998年~2006年の間に装着車両が6度のチャンピオンに輝くなど、ブランド力を高めてきた。

ブランド発足当時は、道路運送車両法の規制緩和によってチューニングが過熱していた時代であり、クラッチは有り余るパワーを受け止めることを優先。当然、純正よりも少々扱いにくい面もあったが、現在ではしっかりとパワーを伝達しつつ、扱いやすいものが主流となっている。

ORCのクラッチは「メタルクラッチ」「プロカーボン」「ライトクラッチ」の3つのシリーズを用意。それぞれの一番の違いはクラッチディスク(エンジントルクをトランスミッションに伝える円盤状の摩擦材)の素材で、順にメタル、カーボン、オルガニック(さまざまな繊維や樹脂などの混合素材)となる。

■メタルの特徴

それぞれの素材の特徴を解説すると、まずメタルは伝達力に優れ、耐熱性が高く、高温になっても摩擦係数の低下が少ないのがメリット。ただし、金属素材ゆえにクラッチの繋がりが唐突で、交換直後は操作に慣れが必要になるといったことがデメリットだ。

■カーボンの特徴

カーボンは軽量であることが一番のメリット。軽量ゆえにディスクの慣性モーメントが減り、スムーズなシフトチェンジが可能である。また、摩擦係数が温度帯によって変化するのが特徴で、サーキットなどの高温下ではダイレクトにトルクを伝達するが、ストリートではマイルドで扱いやすくなるという理想のクラッチ。ただし、カーボン素材ゆえに高額になるのと冷間時に摩耗しやすいのが気になるポイントだろう。

■オルガニックの特徴

最後のオルガニックは純正クラッチにも採用されており、半クラッチの領域も広く、扱いやすい特性を持つが、メタルやカーボンに比べると耐熱温度が低く、急な操作に対して弱いという特性である。

つまり、チューニング志向が強い人はメタル、お金をかけても扱いやすく、伝達能力も高いものが欲しい人はカーボン、チューニングはほどほどで、操作性を悪化させたくない人にはオルガニックと、オーナーの使用用途などによって選択肢が明確に分かれているといっていい。

ORCのクラッチラインアップも基本その流れに沿ったものだが、ライトクラッチはオルガニックの特性はそのままに、慣性モーメントを減らすためディスクの軽量化も進め、ダイレクトなシフトフィールもプラス。メタルクラッチも特殊な3ピース構造のプレッシャープレート(スマートエンゲージ)を採用することで半クラッチ領域を増やし、ジャダーを低減するなどメタルのウイークポイントを解消(その他、クラッチ伝達時の衝撃を40%低減)した派生商品である「SEクラッチ」を用意するなど、独自性を持たせている。

クラッチを切った際に発生する「音」を求めるユーザーも多数

現在の売れ筋もこの2アイテムで、「ライトクラッチで容量が足りなくなったらSEクラッチを」という流れが王道だが、最近はドリフトを中心とした競技車両もSEクラッチをチョイスするユーザーが増えているそう。これは近年トランスミッションが手に入りにくくなっているのが理由だそうで、ダイレクトな繋がりよりもトランスミッションを壊さないことを優先した選択だ。

また、パフォーマンスアップへの対応ではなく、ラグドライブ式クラッチ特有のシャラシャラ音(バックラッシ音)を求めて、ライトクラッチではなく、メタルクラッチを選ぶユーザーの比率が高まっている。とくにトヨタ「86」&スバル「BRZ」などライトウエイトスポーツを愛用する若いユーザーはその傾向が強く、「音の出るクラッチはどれですか?」という問い合わせも多いとのことだ。

第2世代「スカラインGT-R」やトヨタ「スープラ」などのハイパフォーマンスカーとなると、ライトクラッチでは容量不足で、SEクラッチがスタンダード。これは近年のスポーツカーの相場が高騰したことで、ハードなチューニングを施す人はごく一部となり、長く乗り続けたい層が増えていることも影響しているだろう。

ユーザーニーズの変化に製造技術と創意工夫で向き合い、これまでのクラッチにプラスαの性能を加えたり、扱いにくいイメージを過去のものとしたORCの強化クラッチ。クラッチのリフレッシュやアップグレードを検討中のオーナーはその選択肢に加えてはいかがだろうか。

モバイルバージョンを終了