ウラカン テクニカで東京〜京都をドライブ
V10自然吸気エンジンのミドシップカーという不可侵のカテゴリーとして存在し続ける、ランボルギーニ「ウラカン」。その集大成として登場した「テクニカ」で、東京〜京都をドライブ。ガヤルドから20年にわたったサンタアガータ製V10ロードカーの技の結晶を体感しました。
ガヤルドから続く「20年間の技の結晶」
2024年夏、ランボルギーニ「テメラリオ」が発表された。ブランドラインナップにおける序列こそ「ウラカン」と同じ“2番手”だが、そのパフォーマンスレベルは元序列1番の「アヴェンタドール」を大きく上回ってきた。それゆえテメラリオは単純にウラカンの後継モデルとは言えないと個人的には思っている。サンタアガータは「レヴエルト」とともに“全く新しいスーパーカーラインナップ”を作り上げたと言った方がしっくりくる。プラグインハイブリッド(PHEV)パワートレインがその象徴であろう。
逆にウラカンは、もう旧型になることなどないと思う。「ガヤルド」という初代とともに、V10自然吸気エンジンのミドシップカー(MR)という不可侵のカテゴリーとして存在し続ける。ただ新車を買うことができない、それだけのことだ。
いずれにせよウラカン テクニカは2003年に登場したV10自然吸気MRスーパーカーシリーズの最終章として、未来永劫語り継ぐべきモデルとなったことは間違いない。2万台超を世に送り出したウラカンの10年に、1.4万台生産のガヤルドの10年を加えれば、それは「20年間の技(テクニカ)の結晶」である。
RWDモデルに640馬力のV10 NAエンジンを搭載
2003年のガヤルドデビュー以来、すべてのサンタアガータ製V10ロードカーを試す機会に恵まれた。自動車ライターとしてのフリーランス人生とほぼ重なったこともあり、個人的にも思い入れの深いシリーズだ。
それゆえRWD(後輪駆動)のミドシップスーパーカーが集大成として登場したことに感慨を覚える(正確にいうとウラカン最後のモデルはテクニカではなくステラートだったけれど、こちらは未来のスーパーカースタイルを示唆する限定車である)。
当初5LだったV10 NAの最高出力は、たった500psだった。とはいえライバルと目されていたV8 NA+RWDのフェラーリ「360モデナ」が400psだったから驚くべき数値ではあったのだ。そして当時、ランボルギーニ技術陣はその出力を安全かつ効果的に路面へと伝えるため4WDの採用は必須だった、と説明した。けれどもその6年後にはシャシー制御の進化に助けられ550psのRWDを登場させる。それ以降、サンタアガータ製V10ミドシップシリーズにはAWDとRWDというキャラクターの違う2系統が常に用意された。
感慨に思ったのは、今や640psの最高出力を誇るV10 NAをRWDモデルに搭載するに至ったことだ。これぞまさに20年間の進化のなせる“技”だろう。
時速70キロを超えると快適な乗り味に
テメラリオが正式導入されるまでウラカン テクニカのプレスカーを残すというので、今のうちに20年間の感慨に浸ろうと、京都までのドライブに連れ出した。
「テクニカ」は「EVO RWD」(スタンダードグレード)と「STO」とのギャップを埋めるモデルだ。パワートレインをはじめシャシー制御の数々もSTOのそれを踏襲し、スタイリングをよりロードカーらしく仕立て直した。最新のランボデザイントレンドも少し採り入れてある。そういう意味ではウラカン ウルティメであろう。そして、その乗り味もまさに完熟ウラカン、間違いなくシリーズベストだと言っていい。
都内から首都高を目指す。街乗り領域はさすがに少々ハード。路面のザラつきも手に取るようにわかる。とはいえ、これはRWD系の特徴でもある。速度が上がるにつれて気にならなくなっていくから、問題なし。70km/hを超えると途端にアシが自分の仕事を思い出したようで、ライド感にもフラットさが加わり、じつに快適な乗り味となっていく。とくにドライブモード(ANIMA)をストラダーレにさえセットしておけば、低速域を除いて硬めだけれどクルマ好き(とくに欧州車好き)ウケするライドフィールが続く。
新車のV10 NAサウンドもこれが聞き納め
東名高速を走り出す頃には、乗り心地のテストなどすっかり意識から飛んでしまっていた。ソリッド感はほとんど気にならないレベルになり、むしろ心地よくなっていたからだ。とはいえ、クルージングを貪っていると眠気にも襲われる。御殿場を過ぎて空いた頃合いを見計らい、ANIMAをスポルトにチェンジする。
エグゾーストサウンドがいきなりラウドになった。V10エンジン特有の唸り声が聞こえてくる。テクニカで素晴らしいと思ったのは爆音ではなくサウンドクオリティだ。音の輪郭のぼやけた感じがまるでなくなって、一本筋の通った、美しいとも思える音色になっていたからだ。DCTの変速制御も明らかに進化している。なかでもアップシフトが心地よい。
こうしてときおりエンジンとミッションの素晴らしさを噛みしめつつ、西へ西へと走る。否、別にエンジンをぶん回さなくても、クルージング状態で回るフィールだけでも心地よいものだ。爆音など出さずとも、また速度を無理に上げずとも、なんなら渋滞でも楽しいのがスーパーカーというものだ。とはいえV10 NAサウンドもこれが(新車で)聞き納めかと思うと、ちょっと寂しい気分になったのも事実……。
なんだか気分的にとても早く京都に着き、さほど疲れてもいなかったのでそのままホームワインディングロードにノーズを向けた。空力的には劣るとはいうもののSTOとほぼ同じシャシー制御ゆえ、一般道でのお楽しみは現時点でもいまだクラス最高レベルを保っている。走りに硬派なライバルたちと比べても、十分なドライビングファンがあった。
テメラリオの新たなV8エンジンも楽しみだが、いまだ耳と身体に残ったV10 NAの音とフィールは、もう少しピュアエンジンな時代をランボに続けて欲しかったな、という本心の現れだったのかもしれない。
