ヤングタイマー世代のフェラーリは、ドバイでも人気?
RMサザビーズ欧州本社の中東地域進出を記念し、アラブ首長国連邦ドバイにて初のオークションが開催されたのは、2024年3月8日のこと。近年における同社の通例では、本拠のあるロンドンやニューヨークを除き、原則として1都市では年に1回の開催とされてきたようですが、同じく2024年の12月1日にドバイにおいては2回目となるRMサザビーズのオークションが開催されました。今回はその中から、1980年代後半にフェラーリの地位を確定した中興の祖「328GTS」を俎上に載せ、そのあらましとオークション結果についてお伝えします。
『ビバリーヒルズ・コップ2』でも熱演した跳ね馬、328GTSとは?
フェラーリ「328GTB/GTS」は、そのデビューと同じ年に行われたマイナーチェンジでひと足先に3.2L化を済ませていた「モンディアル3.2」用パワーユニットを、「308GTB/GTS」の車体に組み合わせたもの。
90度V型8気筒4カムシャフト「ティーポF105C」エンジンは、ボア×ストロークともに「308クアトロヴァルヴォーレ」用の「F105A」から拡大、3185ccまで排気量アップされた。また燃料噴射システムも308時代の独・ボッシュ社製「Kジェトロニック」から、イタリアのマニエッティ・マレリ社製「マイクロプレックス」に変更し、最高出力は308クアトロヴァルヴォーレの240psから270psに増大。エミッションコントロールの厳しい北米/日本向け仕様であっても260psを発生した。
くわえて、エンジン排気量の拡大に対応してラジエター容量も拡大され、渋滞を含むシティユースでの実用性も格段に向上することになった。
外観ではフロントのラジエターグリルがコンビネーションライトとともにプラスティック製のバンパー/スポイラーとインテグレートされ、スマートながら迫力あるマスクが実現。リアのバンパーも、フロントと同様のデザイン処理でモダナイズが図られている。
いっぽう、インテリアについても308シリーズと基本的なレイアウトは共通ながら、308時代にはクラシックなタンブラー式が多用されていたスイッチ類はほとんどリニューアルされ、格段にカラフルでモダンなダイヤル式に変更されることになった。
フェラーリ史上2番目に売れた328シリーズ
そんな328シリーズでは、デチャッタブル式トップを持つスパイダー版「328GTS」が、ベルリネッタ版の4倍以上も生産される主軸となり、マラネッロの本社工場からは公称6068台がラインオフされた。
この数字は、「テスタロッサ」(公称7177台)に次いでフェラーリ史上2番目に売れただけでなく、ミッドシップV8を搭載したオープンモデルの魅力を再認識させるものだった。
くわえて、1987年公開の映画『ビバリーヒルズ・コップ2』において、エディ・マーフィ演ずるアクセル・フォーリー刑事のおとり捜査用車両として登場(308GTSとの併用ながら……)するなど、この時代におけるポップカルチャーシーンにも大きな存在感を示していたこともまた、特筆に値しよう。
オークションでの高評価には、メカニカルコンディションも重要な要素となる?
このほどRMサザビーズ「Dubai」オークションに出品された328GTSは、シャシーナンバー「69913」。1987年3月に、旧西ドイツ・デュッセルドルフのフェラーリ正規ディーラー「オート・ベッカー」社を介して納車された左ハンドル仕様で、フェラーリ伝統の「ロッソ・コルサ」のエクステリアに、英コノリー社製「クレーマ(クリーム色)」のレザー内装が組み合わされている。
著名なフェラーリ専門家であるギヨーム・コネ氏のレポートによると、のちにこの個体は、シュトゥットガルトに本拠を置くフェラーリのスペシャリスト「ローゼンマイヤー」によってサスペンションのローダウン化が図られ、よりスポーティなスタンスを強調したとのことである。
ドイツでしばしの時を過ごしたあとの1988年10月、328GTSは著名なフランス人コレクター、故マルセル・プティジャンによって購入される。この時期から自身のスーパーカーミュージアムを開設しようという野望を抱いていたとされるプティジャンは、国境を越えた母国フランスへと移したものの、彼のほかのコレクションと同様、約34年間そのまま走らせることなく保管を続けることになる。
そして、2022年2月のRMサザビーズ「PARIS 2022」オークションにてプティジャン・コレクションが一斉売却された際に、今回のオークション出品者でもある現オーナーが落札。中東に輸出されたのだが、その後も静態保存が続行されたという。
これまでの来歴から、この328GTSが内外装ともファクトリー純正のカラーが維持され、3.2Lの横置きV型8気筒エンジンとオープンゲート5速マニュアルギアボックスの組み合わせがマッチングナンバーであることも、魅力的な要素であったのは間違いのないところである。
また取扱説明書とサービスブック、純正のジャッキと純正ロール式ケースに収められた工具セット、スペアホイール、グラスファイバー製ルーフパネルのビニールカバーが収められた付属品キットもついているという。
新車さながらのコンディションだが……
ところで、今回のRMサザビーズ「Dubai」オークションは、舞台はドバイながら売買はすべて米ドル建て。そして同社欧州本社の営業部門は、約3万2000kmの走行距離を物語るような、新車さながらのエクステリア/インテリアのコンディションに自信を得たのか、8万ドル~9万ドル(当時のレートで約1184万円〜約1332万円)というなかなか強気のエスティメート(推定落札価格)を設定することとした。
ところが、今回のオークションではエスティメート下限には届くことのない6万3250ドル、つまり現在のレートで日本円に換算すれば約1000万円という、売り手サイドからすれば不本意に違いない落札価格で競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになったのだ。
このオークションの公式カタログにも正直に記されていた「require recommissioning prior to driving(運転前に再点検が必要)」という文言のとおり、長らく静態保存されていたクルマ、ましてフェラーリをちゃんと走らせるには一定の手間と費用が不可欠。したがって今回のハンマープライスは、その予想費用分が差し引かれていたと見るのが順当なのであろう。
