バットモービル・スタイルではないBMW 3.0CSL
独バイエルン州ミュンヘンといえば、カーマニアにとってはBMWの故郷。聖地として認知されています。100年前には鉄道車両の点検・修理に使われていた施設を改装したという、自動車エンスージアストの楽園「モーターワールド・ミュンヘン」を会場とし、2024年11月23日にRMサザビーズ欧州本社が開催した「Munich 2024」オークションでは、さる個人コレクションが「The Munich Masterpieces Collection(ミュンヘンの傑作コレクション)」と銘打ち、聖地でのオークションに相応しく2輪・4輪合わせて24台の素晴らしいBMWを出品しました。今回はその出品ロットの中から、AMWオークションレビューでは常連中の常連であるBMW「3.0CSL」をピックアップ。そのあらましと注目のオークション結果についてお伝えします。
英国仕様の3.0CSL シティパッケージとは?
1971年にまずは西ドイツ国内向けに登場したBMW「3.0CSL」(Coupé Sport Leicht)は、当時のFIAホモロゲーション車両の最高峰ともいうべきモデルだった。
欧州ツーリングカー選手権(ETC)の戦果が乗用車の売り上げにも直結していたこの時代、マーケティング部門の要求に対するBMWのエンジニアたちの解決策は、「グループ2」レーシングクラスの厳格なレギュレーションの枠組みを満たすために、限定生産の「ホモロゲーションスペシャル」を開発することだった。その目的のため「3.0CS」をベースに開発された3.0CSLではインテリアトリムを簡略化し、メインのボディシェルに薄いスチールパネル、ドアやボンネット、トランクリッドにはアルミニウム合金、サイドウインドウにパースペックス樹脂を使用することで、仕向け地によっては200kg近い軽量化を実現していたという。
しかし、英国で納車されたとされる500台の大部分は、3.0CS仕様のインテリアトリムがそのまま使用されていた。それが、通称「シティパッケージ」である。
英国仕様のシティパッケージとは?
その直列6気筒SOHCユニットは、当初3.0CSと共通となるツインキャブレターつき2985cc・180psとされていたが、デビュー2年目の1972年には、3000cc超級クラスへの参戦を可能にするべく、わずかにボアアップされた3003ccエンジンでホモロゲーションを取得。公道走行用には206ps、レース仕様車は300psを超えるパワーを発揮した。
1973年にはエンジンのストロークが延長され、排気量を3153ccへと拡大。また、シーズン中盤以降のレース用CSLには、フロントのチンスポイラーに大型リアウイングなどさまざまなデバイスからなる、いわゆる「バットモービル」エアロダイナミクス・パッケージが開発され、一部の仕向け地をのぞいてオプションとして選択可能とされた。ただしこのパッケージオプションは、原則として英国仕様のシティパッケージと組み合わされることはなかったようだ。
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スタンダードスタイルの3.0CSLに、マーケットの評価は厳しい?
BMWでは、前・中・後期合わせて1265台(ほかに諸説あり)の3.0CSLを生産したといわれているが、右ハンドル仕様の英国マーケット向けにはわずか500台しか製造されなかったとのことである。
2024年11月のRMサザビーズ「Munich 2024」オークションに「The Munich Masterpieces Collection」から出品された個体はその英国仕様の1台で、1972年12月にバイエルンの本社工場からラインオフしたという。
1972年式ということで、もとより3003ccユニット+Kジェトロニックの中期型と推定されるのだが、この時期に多くを占めた派手なエアロパーツ満載の通称「バットモービル」ではなく、当時の英国マーケットで選択可能だった「シティパッケージ」仕様。当時のロードユースを見越した、好ましい雰囲気の1台といえるだろう
今回のオークション出品者でもある現オーナー「The Munich Masterpieces Collection」は、3.0CSLでは希少な「セイロン・メタリック」の純正指定ボディペイントを新車時代から塗装されていた個体を探した結果、1999年6月にシャシーナンバー「2285250」をフィンランドから輸入。翌年、レストアと再塗装が行われたとのことである。
ただ、いつの時代の換装かは明かされていないものの、現状ではメーカーから刻印なしで供給される純正交換用エンジンが搭載されていると申告されていた。
熱線ヒーターを組み込んだリアウインドウを装備
現在では独「シール(Scheel)」社製の魅力的な純正スポーツシート、独「ペトリ(Petri)」社製3本スポークのCSL専用ステアリングホイール、14インチのCSL純正アロイホイールなど、3.0CSLを特徴づける定番装備をコンプリートしている。
また、ホモロゲーション獲得のために前後ウインドウに薄板ガラスを使用するCSLも多かったなか、シティパッケージ仕様のデフォルトである熱線ヒーターを組み込んだリアウインドウが装備され、この状態で「BMWクラシック」から承認された出生証明書も付属している。
これらの付加価値と現状のコンディションを考査した結果、RMサザビーズ欧州本社では12万ユーロ~16万ユーロ(当時のレートで約1932万円〜約2576万円)という、自信のほどをうかがわせるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが実際の競売では、売り手側が期待していたほどにはビッド(入札)が伸びなかったようで、エスティメート下限を大きく割り込む10万625ユーロで締め切り。競売人のハンマーが鳴らされることになった。
このハンマープライスを当時のレートで日本円に換算すると、約1620万円。円安の為替事情も相まって、けっこうな高価格にも映る。ところが、昨今のマーケット相場における「バットモービル」が軒並み3000万円以上で流通している現況と比較してしまうと、この「シティパッケージ」をはじめとする、どちらかといえばおとなしめの出で立ちの3.0CSLは、マーケットにおける象徴性という点については劣ってしまうと判断されているようである。
