シトロエンのつくるピープルムーバー、日本における第2章
2024年10月、シトロエンのMPVである「ベルランゴ」3代目が初めてのマイナーチェンジを受けて、日本上陸を果たしました。ステランティスの小型貨客ワゴンとして、フィアット「ドブロ」やプジョー「リフター」からなる三兄弟を形成するベルランゴは、2020年の国内導入早々から高い人気を博し、今や日本におけるシトロエンの主軸ともいえるモデル。そんなベストセラーミニバンが、はたしていかなる進化を遂げたのか……? その真価を確かめるべく、AMWで新型ベルランゴをテストドライブしました。
スタイリングを中心にブラッシュアップ
新型ベルランゴは、2022年のパリモーターショーで登場したコンセプトカー「オリ・コンセプト(Oli concept)」にて初めて提唱された新しいフロントデザインの導入にくわえて、随所にさまざまなブラッシュアップが施されている。
このマイナーチェンジにおける最大の変更ポイントは、やはりエクステリアであろう。第二次世界大戦前、アンドレ・シトロエンによって創業された時代のロゴをオマージュしたという新デザインのエンブレムを、日本で販売されるシトロエン車としては初めて採用し、フロントグリルのセンターに掲げられる。
また、フェンダーにとけこむような立体的なデザインとされたヘッドライトは、オリ・コンセプトから引用されたもの。「コ」の字型に配置される3つのLEDランプが印象的なスタイルとなった。くわえて、フロントバンパーのカラーアクセントや、サイドエアバンプなども、より大人しい最新デザインのものとなる。いっぽうインテリアでは、ブラックのダッシュボードと、ドアのインナーパネルやセンターコンソールにあしらわれたグレーのアクセントが目を引く。
従来型ベルランゴのアナログ式から10インチの液晶ディスプレイに変更されたメーターパネルや、8インチから10インチへとサイズアップを図ったダッシュボード中央のタッチスクリーン、さらにインフォテインメントシステムの進化も、当代最新のクルマとしては重要なトピックといえよう。
また、5人乗りモデルには、ガラスサンルーフに多機能ストレージスペースを組み合わせた「モジュトップ(Modutop)」を従来モデルから継承。キャビン内にはじつに20カ所以上の収納スペースが用意されているのも、これまでのベルランゴから引き継いだ美風である。
ディーゼルターボにFWDのみのラインアップ
そして、パワートレインも従来型ベルランゴから不変の要素のひとつである。日本に正規導入される仕様は最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発生する1.5Lの直列4気筒ディーゼルターボエンジンに、8速ATの組み合わせのみ。駆動方式も、全グレードともFWDとなる。
ところで、この新型では運転支援システムもアップデートされ、「アクティブクルーズコントロール(ACC)」の作動時には停止後3秒以内の再スタートが可能となったほか、任意の位置で車線内のポジションを維持する「レーンポジショニングアシスト」機能を新たに追加。そして、これらを操作するACCとスピードリミッターのスイッチ位置が、ステアリングコラムからステアリングホイールのスポーク上に変更された。
ちなみに、インフォテインメントのマルチファンクション機能も内蔵したステアリングホイールは、従来型ベルランゴの3本スポーク型からデザインを大きく変更。冬場のドライブには嬉しい、電熱式ヒーターも内蔵されている。
商用車ベースのミニバンとは一線を画したサスチューン
このほど最新世代にリニューアルされたシトロエン新型ベルランゴ。姉妹車であるプジョー リフター、フィアット ドブロもほぼ同時期にフェイスリフトが施されたものの、正直にいってしまうとこの三兄弟(欧州市場向けのオペル/ヴォグゾール「コンボライフ」、トヨタ「プロエースシティ」も含めれば六兄弟)には、これまで運転する機会に恵まれておらず、今回が初めての試乗となる。
それでも、もとより個人的にも敬愛してやまないシトロエンが送り出した、実用本位のスライドドアつきミニバンである。他車ないしは従来型との比較ではない正味のフィーリングを、可能な限り素直に体感するよう努めることとしたのだ。
まずは「START」ボタンを押し、現時点における国内向けベルランゴ唯一のパワーユニットである1.5Lターボディーゼルエンジンを始動させると、たとえ当代最新のクリーンディーゼルであっても、アイドリング時に耳をすませば「カラカラ」としたノイズが混ざることが確認できる。でも、ヒーターを要する真冬であってもアイドリングストップ機構が介入するのがデフォルトのようで、実際にカラカラ音が耳に入る機会は、少なくとも今回の試乗時には皆無に等しかった。
そして従来型のダイヤル型から、トグルスイッチへと変更されたシフトセレクターをDレンジに引き入れて走り出すと、ディーゼル特有の低速トルクのおかげか、ごく低速域から1600kgに達する車重を実感させられるようなこともなく、とてもスムーズに動き出す。
もちろん、スピードが乗ってきたのちも300Nmの最大トルクは伊達ではないようで、2000rpmにも満たない回転域から過不足の無いトルク感で、グイグイと気持ちよく加速させる。また、8速のトルコン式ATは、せわしなさを感じさせない範囲内でよく働き、力強くもスムーズなパワートレインの印象に拍車をかけている。
いっぽう「シトロエン」を名乗るクルマである以上、多くのファンが期待しているであろう乗り心地について。筆者を含むアナクロ派シトロエンファンが期待するような、往年の「2CV」のごとくフワリとした乗り心地を今さら望むことはないものの、それでも我々が想像している商用車ベースのミニバンとは一線を画した、独特の哲学に基づくサスチューンが施されているように感じられる。
シートの感触はちょっと堅めながら、街中をゆっくりと流すような速度域でアスファルト路面の凹凸に見舞われても、ボディとサスペンションで上手く「いなす」。また、高速クルージングにおいてATが8速までシフトアップし、いかにもディーゼルらしい極低回転のトルクを生かして悠然と走っていると、路面がひどく荒れていない限りはなかなかの滑走感覚を味わうことができるのだ。
やっぱりシトロエンはシトロエン
こうしてしばし新型ベルランゴを走らせていると、たとえ複数の国籍とブランドをまたいだ兄弟の多いクルマであっても、また乗員と荷物のスペースユーティリティを徹底追求した実用ワゴンであっても、あくまでシトロエンはシトロエンであると実感させられる。
くわえて、マーケット自体はさほど大きくないとはいえ、欧州製バンをオシャレな乗用車とするカテゴリーのパイオニアであり、日本国内における絶対王者として長らく君臨してきたルノー「カングー」が、3代目にして大きく方向転換。フランス車としての個性を強調するよりも、実用志向の実力派ミニバンへと舵を切った今となっては、同じく「生活ツール」であることを強調した「顔」を得つつも、依然としてどこかフランス的エスプリっぽい空気を匂わせるベルランゴの個性が際立ってくるかに見える。
現代シトロエンのアイコンともいうべきサイドエアバンプも、より存在感を控えめなものと変更するなど、従来のポップカルチャー風スタイリングから一歩進み、新しいシトロエン像を模索しているかに映る。そのかたわらで、硬質な手触りの樹脂で構成されるインテリアさえも、1980年代〜1990年代には日本でも大人気を博した「BX」のような、伝統的チープシック感を体現しているかにさえ見えてくる。
たしかに、キュートでオシャレなキャラクターを全身でアピールしていたかにも見える従来型と比べると、あらゆる面で「大人になった」と言わざるを得ない。それでも、この「こじらせ感」もまたフランスらしい……と思えてしまうのは、シトロエンというブランドが長年世界中のファンを惹きつけてきた「ディープさ」に、きっと魅せられてしまったからなのだろう。
CITROËN BERLINGO MAX BlueHDi
シトロエン ベルランゴMAX BlueHDi
・車両価格(消費税込):439万円
・全長:4405mm
・全幅:1850mm
・全高:1830mm
・ホイールベース:2785mm
・車両重量:1600kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャーディーゼル
・排気量:1498cc
・エンジン配置:フロント横置き
・駆動方式:前輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:130ps/3750rpm
・最大トルク:300Nm/1750rpm
・公称燃費(WLTC):18.1km/L
・ラゲッジ容量:597〜2126L
・燃料タンク容量:50L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット式、(後)トーションビーム式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前)205/60R16、(後)205/60R16
