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50台限定のシェルビー「コブラ」は純正レプリカでも約2300万円で落札! プライスが伸びなかった理由はボディにあった?

14万8250ドル(邦貨換算約2300万円)で落札されたシェルビー「コブラ289FIA 50thアニバーサリー エディション」(C)Courtesy of RM Sotheby's

往年のレースカーを忠実に再現したシェルビー コブラ

ジャガーやアストンマーティン、さらにはベントレーなどの英国系メーカーにおいて近年盛んとなっているのが、往年の名車を継続生産するという形をとる「コンティニュエーション」。しかしアメリカでは、長年にわたってコンティニュエーション級のレプリカが連綿と作られてきたシェルビー「コブラ(ACコブラ)」という偉大な先達があります。今回の主役は、アメリカ発のコンティニュエーション代表格、2025年1月25日にRMサザビーズ北米本社がアリゾナ州フェニックス市内で開催したオークション「ARIZONA 2025」に出品されていたシェルビー「コブラ 289FIA 50thアニバーサリー エディション」をピックアップ。そのモデル概要とオークションレビューについてお伝えします。

コブラの歴史を創生した名作レーシングカー、289FIAの純正レプリカ

1964年シーズンは、FIAマニュファクチャラーズ世界選手権におけるシェルビーの本格的なキャンペーンの幕開けとなり、象徴的なロードスター「コブラ」とともに新型「デイトナクーペ」をデビューさせた。パワフルなアメリカン・エンジンと軽量シャシーを搭載したチームは、「タルガ・フローリオ」「ル・マン24時間レース」「ロイヤル・オートモービル・クラブ・ツーリスト・トロフィー」で重要な勝利を獲得し、ヨーロッパで波紋を広げた。

1964年シーズンはフェラーリに次ぐ2位に終わったものの、シェルビーのあくなき勝利への追求はとどまることを知らず、翌1965年シーズンには彼の「コブラ・グループ」はついに「スクーデリア・フェラーリ」を倒し、アメリカ初のFIAマニュファクチャラーズ(製造者)部門のワールドチャンピオンを獲得する。

故キャロル・シェルビー氏を経営陣に迎え、同氏亡きあともコンティニュエーション・コブラの生産を続けている「シェルビー・アメリカン」社。同社は「コブラ コンティニュエーション シリーズ」の一環として、2014年にこの伝説的なマシンが50周年を迎えることを記念した限定モデル、ACコブラとしては初めてFIAホモロゲートを獲得した「コブラ 289FIA」を模した、50周年の記念モデルを発表した。

この「アニバーサリー エディション」は世界限定50台。ボディはアルミニウム製とファイバーグラス製の双方で製作され、ボディカラーはポリッシュ仕上げのアルミニウム地肌のほか、シェルビーの1964年シーズン用チームカラーである「ヴァイキング・ブルー」を含む、さまざまな色合いのレーシングストライプをあしらったペイント仕上げの2種類から選ぶことができた。

FRPボディは、アルミボディよりも評価が低くなる?

このほどRMサザビーズ「ARIZONA 2025」オークションに出品されたコブラ 289FIA 50周年記念エディションは、50台が限定生産された中の33台目。FRPボディを与えられ、ヴァイキング・ブルーにホワイトのドライバーズストライプとゼッケン50のラウンド・ラベルで仕上げられている。

このオークションの公式ウェブカタログ掲載時の走行距離は29マイル(約47km)で、基本的に納車されたときのままのコンディションである。

シャシーにはサーキット走行も可能な直径3インチの「ドローンオーバー・マンドレル」チューブラーフレームを採用。パワーユニットはフォード製302立方インチ(約5.0L)V型8気筒エンジンを、ストロークの延長によって363立方インチ(約5.95L)にアップしたものを搭載し、伊「ウェーバー」社の加速ポンプつき48IDAキャブレター4基を組み合わせて、500psの最高出力と61.1kgmのトルクを発生する。

また「TREMEC TKO600」型5速マニュアルギアボックスと、コブラ用アルミボディの製作でも知られるカーカム・モータースポーツ社製「TorqueTrak」デフを介して、スピンナーで固定するセンターロック式の「ハリブラント」風のリアホイールにパワーを伝達する。

走行距離はきわめて少なく、コンディションも新車同様だが……

いっぽうディテールにも気を配られ、ウッドリムのステアリングホイールにポリッシュ仕上げのモンツァスタイルのフューエルフィラー、「スチュワート・ワーナー」のメーター、ダッシュボードに取り付けられたバックミラー、FIA仕様のロールバー、サイドエキゾーストなど、時代を反映したディテールがふんだんに盛り込まれている。

「アメリカンレースの歴史のなかでもっとも魅惑的なチャプターのひとつを祝う、この息をのむようなコブラ 289FIA 50周年記念エディションは、ミッドセンチュリーのロードレースの時代を超えた魅力を渇望するエンスージアストに、比類ない没入感のあるドライビング体験を提供する」

RMサザビーズ北米本社ではそんな自信ありげなアピール文を添えつつも、20万ドル〜25万ドル(邦貨換算約3140万円〜3925万円)というかなり控えめなエスティメート(推定落札価格)を設定。そして2025年1月25日に迎えた競売では、エスティメート下限を大きく割り込むうえに、このモデルの相場としては比較的安価な14万8250ドル、日本円にして約2300万円という落札価格で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになった。

製造社は創業者の正統性を有するシェルビー・アメリカン社。しかも高値で取引される事例の多い限定バージョンで、走行距離はきわめて少なく、コンディションも新車同様。にもかかわらず、アメリカやイギリスであまた作られている「市井の」コブラ・レプリカと大差ない価格は、おそらく出品者側にとっては不本意だったかと思われる。

そして、この安値に終わった理由もひとつふたつではないだろうが、コブラ・レプリカの世界でも低く見られがちなFRPボディだったことが、無視できない要因として挙げられるのでは……? と推測されるのである。

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