2025年のARIZONAオークション2台目のディーノ 246GT
出品ロットが多数にわたる大規模なオークションでは、同一の車種が結果として競合するかのように複数出品されることも珍しくありません。今回は、2025年1月25日にRMサザビーズ北米本社がアリゾナ州フェニックス市内で開催したオークション「ARIZONA 2025」に出品されていた2台目のディーノ「246GT」をピックアップ。モデル概要とオークション出品に至るまでのヒストリー、そして、すでにAMWレビューで公開済みのもう1台と比較してみました。
ディーノ 246GTの最終シリーズ、ティーポEとは?
1969年にデビューし、のちにスポーツカー史上に冠たる名車となるディーノ 246GTは、その前年、1968年に生産が開始された「206GT」のスケールアップした改良版にして、実質的な量産バージョンだった。
ディーノ 206GTはフェラーリが設計し、フィアットで生産される総排気量1986ccのV6エンジンを、ピニンファリーナのデザインによる総アルミ製ボディに搭載したモデル。当時の常識を超えた驚くべきハンドリングに、芸術的とも称される美しいスタイルで世界に衝撃を与えた。
そしてフェラーリは、バンク角65度のV型6気筒4カムシャフトエンジンを2418ccに拡大するとともに、ボディの基本骨格およびエンジンブロックをスチール化。さらにホイールベースを60mm延長することで実用性や生産性を向上させたディーノGTの本命「246GT」へと進化させる。
このような経緯のもとに誕生し、スポーツカー史上屈指の名作と評されることになったディーノ 246GTだが、その生産期間中にはいくつものアップデートを受けている。
マイナーチェンジの内容は多岐にわたるものだった
最初期モデルの「ティーポ(タイプ)L」では206GTから踏襲されたセンターロック+スピンナーのホイールは、1971年初頭から生産された「ティーポM」以降は5穴のボルトオンタイプへと変更。さらに同年後半から生産開始された「ティーポE」のシリーズ中途には、前後のバンパー形状も206GT以来のラジエーターグリルにくわえ込むスタイルから、グリル両脇に取り付けられるシンプルな意匠に変更される。
さらには、ティーポE時代の中途でもワイパーの停止位置が変更されるなど、そのマイナーチェンジの内容は多岐にわたるものだった。
ちなみに、2020年代以降の国際クラシックカー市場におけるディーノGTを観察していると206GTが圧倒的に高価格とされ、ティーポE時代に設定された「246GTS」の北米向け限定バージョン「チェア&フレア」がそれに次ぐ相場観であることがわかる。
あとは246GT ティーポLとティーポMが続き、ティーポEのベルリネッタはもっとも手の届きやすいディーノGT……、というのが文字どおりの相場のようなのだが、今回のオークションではいかなる評価が下されたのか、このあと検分してみよう。
やはりオリジナルと同じカラーが維持されていることは、高評価につながる……?
フェラーリの世界的権威として知られるヒストリアン、マルセル・マッシーニ氏のレポートによると、このほどRMサザビーズ「ARIZONA 2025」オークションに出品されたディーノ246GTは、シャシーナンバー「03090」。
もとより米国市場向けに製作されたもので、「ロッソ・ルビーノ(ルビーレッド)」のボディに「ベイジェ(ベージュ)」のレザーインテリアという、とりわけエレガントなカラーコンビネーションで仕上げられていた。
1971年12月に組み立てを終えた246GTは、その1カ月後に「ルイジ・キネッティ・モーターズ」に引き渡された。1974年までにニューヨークのボンジョルノなる人物が入手し、1976年初頭まで所有権を維持したが、同年5月にマサチューセッツを拠点とするジョン・ナルゲシアンという名の愛好家に売却され、彼とその家族は2002年5月までこのディーノを所有し続けた。
そしてこの個体は、カナダのコレクターにして、ヨーロッパのスポーツカーやレーシングカーの整備に携わった経験もある現オーナーに引き取られ、元メカニックであるオーナー自ら20年にわたり、コツコツと現在の美しい姿に修復した。彼の作業には、サスペンションとキャブレターのリビルド、バルブのセッティング、新品の燃料ポンプ取り付けなどが含まれ、2002年から2023年に至る21年分の整備記録簿も残されている。
また、現オーナーのもと当初はお馴染みの「ロッソ・コルサ」で再塗装されたが、2022年に新車時のオリジナルの適切なボディペイントである「ロッソ・ルビーノ」で再塗装を依頼。その際にウインドウスクリーンも交換されたが、ほかのガラスは適切なロゴが表示されていることから、すべてオリジナルのままだと思われる。
「ネズミの体毛」と称されるスウェード調のダッシュボード、およびカーペットはオリジナルのままながら、現オーナーはシートをベージュのオリジナル色を残しつつ、スタンダードのビニール混成からフル本革レザーへと張り替えることを選んだ。そして彼の連綿たるレストアは、新品のミシュラン XWXタイヤと当時仕様のブラウプンクト社製ラジオの取り付けで締めくくられることになった。
コレクションに加えるにふさわしい1台
今回のオークション出品者である現オーナーは、このフェラーリをいくつかの地元のカーショーに出展。2016年と2017年にはリージョナル(地域別)各式の「FCA(Ferrari Club of America)」大会でのクラス優勝を含め、定期的に表彰された。
この246GTは、「Dino」バッジの希少な純正キーフォブが付いたままであり、現在の走行距離は4万5817マイル(約7万3735km)という、車齢のわりには少なめの数字を示している。
RMサザビーズ北米本社では、
「この魅力的なディーノは、マラネッロの名高いV型6気筒モデルのダイナミックなデザインを体現しており、あらゆるスポーツコレクションに加えられる素晴らしい1台となるでしょう」
というアピール文を添えつつ、35万ドル~45万(邦貨換算約5495万円〜約7065万円)ドルというエスティメート(推定落札価格)を設定。そして2025年1月25日に迎えた競売では、エスティメートの範囲内に収まる37万9000ドル、日本円にして約5770万円という落札価格で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになった。
オークションの価格にはボディカラーが重要?
ところで、同じRMサザビーズの「ARIZONA 2025」オークションでは、同じくティーポEである1973年式ディーノ 246GTが出品。37万5000ドル〜42万5000ドル(邦貨換算約5887万円〜6672万円)という少し高めのエスティメートが設定されながらも、残念ながらリザーヴ(最低落札価格)には届かなかったようで、落札には至らなかった。
こちらの個体は、元色が「ブル・ディーノ・メタリッツァート」だったのに対して、現在はロッソ・コルサに全塗装されている。つまり、ボディカラーでのオリジナル性がいささか損なわれているのに対し、今回取り上げた個体は、再塗装とはいえ希少色の「ロッソ・ルビーノ」が新車だった頃から保持されているという点において、高く評価された可能性も高いと思われるのである。
