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「買う前に読む」スズキ「フロンクス」の本音インプレ…辛口モータージャーナリストが1000キロ走ってジャッジ!「価格と内容のバランスレベルが高い」

スズキ フロンクス:2WD仕様(写真)は350kmほど走行してメーター上の平均燃費が18.1km/L。4WD仕様は650kmほど走行してメーター上の平均燃費17.1km/Lだった

コスパで人気のコンパクトSUV「フロンクス」その走りは果たして?

5ドアの「ジムニー ノマド」が発表から数日で5万台の注文が殺到し受注停止になるなど、インド生産のスズキ車が注目を集めています。2024年10月に国内発売されたコンパクトSUVの「フロンクス」もインド生産かつ圧倒的なコスパで好調ですが、充実の装備内容とともに気になるのは、走りは「安かろう」なのか? ということ。モータージャーナリストの斎藤慎輔氏がFFと4WDの両仕様で街中からワインディング、雪道までトータル1000kmを試乗して、詳細にレポートします。

今やスズキの最重要マーケットであるインドで生産

スズキは、インドでの4輪車累計生産が3000万台を超えている。一番売れるところで作って売る。スズキの戦略は明快だ。

もっとも、1982年と早々に他社がまだ強い興味を示していなかったインドに進出したのは、スズキが主力としていた軽規格のようなスモールカーは、先進国では受け入れてもらえるところがなかったからというのが、2024年12月25日にご逝去された、当時の取締役社長、鈴木 修氏の本音だったようだが、それが今ではスズキの4輪事業を支える最重要市場になっている。

全長4mに収まるコンパクトなクーペスタイルSUVの「フロンクス」は、そのインドのグジャラート州ハンサルプールにある工場で生産される。日本で2025の1月末に発表、4月の発売を前に注文が殺到し、わずか数日で受注停止となった「ジムニー ノマド」もインド製だが、こちらはグルガオン工場で生産されている。

フロンクスは現地では2023年4月に発売されたが、日本では2024年6月に、日本仕様プロトタイプによる、媒体やジャーナリストに向けた試乗会をクローズドコースで開催している。その結果、予想される価格とも照らし合わせて前評判が高まっていた。

「安すぎたんじゃ?」と言われるほどの高コスパ

ということで、2024年10月の正式発表で注目されたのはまずは車両価格だった。日本向けは設定されたパワートレイン/トリムレベルともにシンプルで、2WDと4WDともに1種のみ。装備内容も基本同一で、2WDが254万1000円(消費税込)、4WDが273万9000円(消費税込)である。ちなみにフロンクスはインドの他、中近東、アフリカ、中南米等でも販売されるが、4WDは日本向けのみの設定だ。

2WD/4WDともに1グレードでの展開とあって、標準装備の内容はBセグメントとしては潤沢で、現状で望まれる予防安全や運転支援の装備はひと通り備えられ、インパネセンターの上部に位置する9インチHDモニターや、このクラスではオプション扱いが珍しくない全方位モニターやスマートフォン連携メモリーナビゲーションなども全て標準だ。

そもそも、インドで生産するから車両価格が抑えられるのかという話でいえば、現地でのコストは多少安いかもしれないが、それも材料費や人件費の向上などでその差が小さくなってきているうえに、輸送コストなどを含めると、安くできる要素はあまりないはずとのこと。つまり、意図して抑えた価格に設定するかどうかに、多くがかかっているわけだ。

これは、発売後にスズキ広報部の方から伺った話だが、これはお安い、お買い得みたいな声が多く響いたことからか、現社長から「(価格設定が)安すぎたんじゃないのか」と言われたとか。何でも価格は上がるばかりの中にあってのスズキらしい一面ではある。

それだけに、2024年6月のフルモデルチェンジからわずか6カ月で(塗装品質の向上という改良は伴っているものの)しれっと全グレード一律16万5000円高となる価格変更を行ったホンダ「フリード」のようなことが、せめて短期間のうちにはないことを願いたい。

ベンチマークは同セグメントの欧州車!?

さて、ワインディング路が主体のクローズドコースで開催されたプロトタイプでの短時間の試乗においては、おおむね好ましい印象を受けていたフロンクスだが、発売後の千葉県幕張新都心周辺での市街地走行を主とした試乗会では、価格に対する装備類の充実面ではやはり褒められるべきと思えた一方で、走りにおいては気になるところも見受けることになった。

ということで、きっちりしっかり確かめるべく、FF/4WDモデルのどちらも数日間から1週間ほど手元に置かせてもらい、街中日常域から高速道路、ワインディングまで、走行距離では2モデル計で1000kmに満たない程度ではあったが、試乗会では本来の実力を知れなかった燃費や、4WDの性能域までの確認を行えた。

インドでは数々の賞を受賞し、販売も絶好調というフロンクスだが、日本で販売するにあたり、当然として仕向地別の変更を施している。これがあたかも特別なことのように記しているものも多く目にしたが、どのメーカーにおいても、たとえば逆に日本から各国に輸出する際には仕向地別に法規適応だけでなく、走行環境はもちろん、市場の指向を考えた変更を施すのはむしろ当たり前のことだ。

ただ、フロンクスの場合、車両設計の要となるボディサイズにおいて、全高がクーペルックSUVとしても低めの1550mmに抑えられているのは、日本での立体駐車場の事情を考慮したとのことなので、開発当初から日本への導入を考えていたということ。日本向けだけの4WDの設定も、世界の中でも実用車の4WD仕様の需要が特別に多い日本では、その有無が販売に強く影響をもたらすことを考慮したものだし、他の生産車から流用できる部品が多いこともそれを可能にしている。

なにより母国で売るのだから、市場が求めるものは熟知していて当然で、このあたりは、インド生産で日本に導入した初代「バレーノ」が、思惑通りにはまったく売れなかった失敗も教訓になっていそうだ。その初代バレーノは、日本向けへの配慮に欠けたという面もあったにせよ、正直、個人的な評価としてとくに動的な質で散々ともいうべきものだったので、初代バレーノで初採用された新プラットフォームを、日本未導入の2代目バレーノとともに踏襲しているフロンクスには不安もあったというのが本音だ。

ちなみに、開発陣に、走りにおいてベンチマークとしているクルマはありますか? と尋ねたところ、しばし間をおいて、車名やメーカーまでは答えてもらえずに、単に「(同セグメントの)欧州車」ですとのことだった。だとすれば、走りの質、とくに操縦安定性、乗り心地等については、それ相応に見させていただくことも許されそうだと思えた。

6速ATのリズミカルなフィールがフロンクスの特徴

ということで、先に走りの面からだが、日本仕様に載る1.5L 4気筒エンジンは、スズキではこれをハイブリッドとしてエンブレムをまで貼り付けているが、言ってみればマイルドの中のマイルドハイブリッドで、助手席下に収まる6Ahという小容量リチウム電池で発電機を兼ねたわずか2.3kWのモーターを駆動するもので、モーターのみでの駆動もない。

メーター内で表示できる駆動状況とバッテリー残量を示すグラフィックでは、バッテリー残量を5セグメントに分けているが、下から2つまではモーター駆動は一切行なわなくなる。そもそもバッテリー容量が少ないので、回生時間が短い市街地走行などではモーターのアシストはすぐに無い状況になる。

ただバッテリー残量が3セグメント以上の場合、低速域の緩加速や、同様にちょっとした上り勾配での速度増加の際などには、モーターアシストによる体感的にも知れるくらいの軽い押し出し感は得られる。アイドリングストップ状態からのエンジン始動もベルト駆動によるので、セルモーター音が無く振動も小さいといったメリットもある。このレベルのハイブリッドシステムだからこそ、少ない価格転嫁で済むと納得すべきかもしれない。

トランスミッションは、このクラスではマツダとともに珍しく6速ATを採用している。スズキのCVTは小トルクに対応したものしか持たないのが理由のようだが、良くも悪くもこれがフロンクスの走り感を特徴づけている。

ステップシフトによる変速は、たまに唐突なショックをもたらすことがあったりする一方で、車速とエンジン回転数に応じた明確な変速を伴うことでリズミカルな走行感覚を備え、CVTのようなエンジン音が速度や加速度に比例せずに変化するといった曖昧感がないので、とくに旧来からのクルマの走り感を望む人には馴染みやすい。ただし、この走りからは「自動車にとって100年に一度の変革期」を感じさせるといったことは皆無だが。

穏やかなスロットル制御は知性的でもある

そうした中、今回の連日の日常使いで知ることになった点として、最近では珍しいほどのアクセルペダルの踏み込み初期領域のゆったりとしたスロットル制御があった。アクセルペダルをゼロ領域から踏み込む際に、あくまで感覚的にだがストロークが40mmくらいまでの間はパワーを立ち上がりを意識的に抑え込んでいる感覚だ。しかも、この領域は踏み込み加速度を速めてもあまり変化がない。

もちろん、これを超えて踏み込めばパワーも出してくるし、必要に応じてすぐにダウンシフトも行うのだが、とくに最近のちょっとアクセルを踏み込むだけでグイと押し出し感を演出するようなクルマに慣れている人には、レスポンスが鈍いとか、パワーが出ないというように捉える人も少なくないように思う。

スポーツモードを選択しても、基本的にこの特性は維持されるが、個人的にはこのスロットル制御のあり方は知性的にも感じる。ふだんは穏やかな動きが基本で、必要な時に必要なだけ踏み込むことで明確に反応させるというのは、もっさりとしたアクセル領域に多少の馴れは求めることになるが、ドライバーの操作を尊重したものと思えるからだ。

一方で標準で備わるパドルシフトは、とくに下り坂でのエンジンブレーキの減速度の調整や、ワインディング等でちょっとしたスポーティな走りをしたい際などでも有効で、最高出力101ps(FFの場合。4WDは99ps)のエンジン性能および感覚性能も平凡で、エンジン騒音レベルもクラスの平均的なところに思えたが、心地よく走らせる要素は備えている。

車重はFF仕様の1070kgに対して4WD仕様は1130kgと60kg増える。この大人1人分の差が、初期加速からしてやはりFF仕様の方が軽快だなと思わせるくらいの違いはもたらしていたが、1名乗車においては、箱根周辺のワインディングなどでもとくに不足感を覚えることはなかった。

燃費は同じインド生産のホンダ WR-Vより確実に優秀

燃費はさすがにフルハイブリッドのような常用域での燃費は期待できず、街中での好燃費はあまり望めない。日中の都内近郊と都心部との往復といった平均速度の低い状況では、メーター表示で知る限り、2WDはせいぜい13km/L台、4WDでは12km/L台といったところに留まった。

今回はFF仕様と4WD仕様での走行条件や距離も異なるのであくまで参考程度だが、計650kmほどの走行で2度給油した4WD仕様では、満タンからトリップメーター490kmの時点で燃料残量警告灯が点灯。その際のメーター表示で平均燃費17.1km/L、直後の給油における計算値で16.2km/Lだった。このあたりが、日常での短距離とちょっとした長距離を組み合わせた平均的なところかもしれない。ちなみに、燃料残量警告灯は残り約7Lで点灯することが知れた。

2WDは3度の都内間往復や箱根往復等での350km程度の走行で、メーター上での平均燃費は途中の最良値で20km/Lを超えることもあったが、最終的には18.1km/Lであった。いずれも、季節柄エアコンはオフにしていたこともあってか、WLTCの数値にも近かったが、少なくとも同クラスSUVで同じくインド生産のホンダの「WR-V」と比べるならば、確実に優れた燃費性能を示した。

5本タイプのハブボルト採用で応答性に不安なし

さて、初代バレーノの記憶からして一番心配をしていたのが、ステアフィールにはじまり直進安定性からハンドリングまでのボディ性能を含めたシャシー能力であったが、当時よりもボディ剛性及びそのバランスの在り方、空力特性なども進化していることを前提としたうえで、さらに着目すべきは日本仕様ではハブボルトを現地仕様の4本タイプから5本タイプへと変更していることにある。

スズキにおける傑作車と断言できる現「スイフトスポーツ」も5本タイプを採用するが、これによるハブ剛性の向上は、路面からの入力に対しても駆動系やステアリング系からの入力に対しても、応答性の向上が期待できる。初代バレーノは、電動パワステ自体の不出来とともにシャシー周りの剛性不足などにより、直進安定性の悪いクルマだったとの思いが強いのだが、フロンクスはADASの制御を携えた新しいステアリング系の採用もあって「普通」にはなっていたので安堵した。もっとも、ベンチマークたる同クラス欧州車と比べさせてもらうなら、まだまだの感は残る。

ステアリングは、センター付近の人工的な座り感の強い味付けと小蛇角からの戻りの悪さなど、すっきり感や正確性には少し欠くところもあると感じさせたが、一方で、最大切れ角を大きく確保し小回り性能をしっかりと持たせているのは、コンパクトカーの扱いやすさを知り尽くしたスズキらしい面である。

その上で、ワインディング等で知れたのは、ステアリングの正確性はともかく、FF仕様、4WD仕様ともに切ればまずますの応答性を備えることで、横Gが増した領域でも不安にさせるようなことはなかった。

日本だけの4WDは雪道でもしっかり機能

乗り心地は、前席と後席では多少印象が異なり、前席はシート自体の出来が好ましいこともあって、フロアからの多少のブルブル感の伝達を除いては快適性は高いほう。20分ほど座ってみた後席は、頭上に少し圧迫感はあるものの足元は4WD仕様でも変わらず広く確保されラクな姿勢で座れる。これで少し気になる突き上げ感が低減されればと思う。

日本向けだけに設定された4WDは、ビスカスカップリングを介するタイプで、通常はほぼ前輪駆動を基本として、前後輪回転数差に応じ後輪への駆動力を配分する。この種の油圧カップリングの場合、後輪への駆動レスポンスの遅れが気になるものも少なくないのだが、今回は試乗に出かけた群馬県の山中で遭遇した雪道、氷雪路では、思いのほかに後輪への駆動レスポンスが速いこと、安定性においては4WD専用モードのひとつであるグリップコントロールの有用性も確認できた。このあたり、日本の冬におけるテストもきっちりなされているのだろうと想像できた。

特徴的なエクステリアデザインは煩雑に思えるところもあるが、存在感は得られているし、デイタイムランニングライトと兼用のターンシグナルランプとヘッドランプとが離れていることで、夜間ヘッドランプ点灯時でもフロントウインカーの視認性がとても高いのは、気づきにくいが好ましいと思えた点。

主に走りにおいては、直進安定性などもうちょっと洗練度を高められたらといった思いが残った点もあるが、スズキの凄さは価格と内容のバランスレベルの高さにあり、フロンクスはその代表格であることには間違いない。

specifications

■SUZUKI FRONX(FF)
 スズキ フロンクス(FF)
※〈 〉は4WD

・車両価格(消費税込):254万1000円〈273万9000円〉
・全長:3995mm
・全幅:1765mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2520mm
・車両重量:1070kg〈1130kg〉
・エンジン形式:直列4気筒DOHC
・排気量:1460cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF〈4WD〉
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:74kW(101ps)/6000rpm〈73kW(99ps)/6000rpm〉
・エンジン最大トルク:135Nm/4400rpm〈134Nm/4400rpm〉
・モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/800-1500rpm
・モーター最大トルク:60Nm/100rpm
・燃料タンク容量:37L
・公称燃費(WLTC):19.0km/L〈17.8km/L〉
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)195/60R16

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