フツーの「マルニ」じゃない! 元祖ハッチバックBMWのツーリングとは?
クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズ欧州本社が2025年2月4〜5日に開催した「PARIS」オークションでは、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした、レアなクラシックカー/コレクターズカーたちが数多く出品されました。今回はベルギー・ブリュッセル近郊のミュージアム、ポルシェやアストンマーティンなどのコレクションを有する「キュレーテッド・コレクション(The Curated Collection)」から出品された、BMW「2000 tiiツーリング」を紹介します。
BMW「ツーリング」の開祖、E6系ツーリングってどんなクルマ?
1960年代末から70年代中盤にかけて、世界的な絶賛を博したBMWのスポーツコンパクトセダン「E4系02」シリーズをベースとする、実用的かつスタイリッシュなハッチバック「E6系ツーリング(Touring)」は、1971 年8月に追加設定された。
テールエンドをカットしたことで、その全長は4.11mとノッチバックの02リムジーネ(セダン)よりも12cm短縮され、全高も3cm低められた138cm。それゆえウインドスクリーンの傾斜が02よりも強められたことから、ドアなどの互換性は失われたという。
ラインアップは、パワーユニットを同時代の「1602」と共用する「1600ツーリング」、および「2002」と共用する「2000ツーリング」の2機種。2カ月後には「1800ツーリング」も追加。当初のモデル名の末尾は、なぜか「02」とはされなかった。
BMWが傘下に収めた「グラース」の流れをくむ「BMW1600GT」クーペのマーケットもカバーしようとしていた新生「ツーリング」は、ダイナミックながら実直な2002リムジーネに実用性を加えることに成功した。しかしBMWは、ツーリングが単なる実用ハッチバック車として扱われるのではなく、新時代のスポーティさを強調すべきと考えていたという。その結果、2002と同じ高性能版「tii」が、ツーリング最上級バージョンとして設定されることになる。
「M10」直列4気筒SOHCエンジンを搭載
「2000tiiツーリング」は「2002tii」および「ノイエクラッセ2000Tii」と同じく「クーゲルフィッシャー(Kugelfischer)」社の燃料噴射システムを採用し、有名な「M10」直列4気筒SOHCエンジンは、1990ccの排気量から130psというパワーを発揮した。
1973年8月のモデルアップデートではモデル名が変更され、タイプ表記にはセダンでは「02」が与えられたため、それぞれ「1802ツーリング」「2002ツーリング」「2002tiiツーリング」となる。
そのいっぽうで、1.6Lエンジンを搭載した基本モデルの「1600ツーリング」はマイナーチェンジと改名の前、1972年の初めに、すでにBMWのカタログから消えていた。
ただ、一連のE6系ツーリングは商業的には成功せず、正式デビューに先立つ1971 年4月から 1974 年夏までに生産されたのはわずか 2万5827 台(ほかに諸説あり)に過ぎなかったという。
BMWが「3シリーズ・コンパクト」として再びハッチバックモデルを発売したのは、それからちょうど20年後、E36時代を迎えていた1994年のことだった。
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レストアには10万ユーロ以上を投入しながらも……
「BMWクラシック」から提供された出生証明書によると、このほどRMサザビーズ「PARIS」オークションに出品されたBMW 2000 tiiツーリングは、このモデルとしては最初期にあたる1971年式。シャシーNo.は「3420503」である。
この初期型は、一連の「02」および「ツーリング」では定番カラーのひとつともいうべき「ゴルフ・イエロー(Golf Yellow)」としてラインオフ。1971年8月2日に西ドイツ(当時)、ノルトライン=ヴェストファーレン州アルスドルフの正規ディーラー「ヘルゲンハンKG」に引き渡されたという。そして、同じくノルトライン=ヴェストファーレン州のヴュルゼレンで登録されたこの個体のその後のヒストリーは不明ながら、2015年12月にベルギーの「キュレーテッド・コレクション」によって入手されたとのことである。
現在でも、新車として工場から出荷したときの外装色が維持されているこの個体は、当時のオプションパッケージ「Sport Paket」設定車とほぼ同じ仕様に仕立てられ、今や希少品となったレカロ社製純正スポーツシートと、13インチ径の伊「FPS」社製のアロイホイールを装備している。また、このクルマには前述したBMWクラシックからの出生証明書とオーナーガイドも付属している。
ただし、ステアリングホイールは現代における使い勝手を優先したのか、このクルマの時代性とテイストには明らかに不釣り合いな、1990年代末風のスポーティなものが装着されているのが、唯一気になるポイントといえるようだ。
レストア費用が反映されていないエスティメートに……?
2020年には、ブリュッセルの南に拠点を置く「カロッセリー・ヤンセン(Carrosserie Janssens)」によって、ボディのリペイントを含むレストア作業が施され、その作業の内訳は、今回のオークション出品に際して添付されるファイルにも綴じられているインボイス(作業請求書)にて確認が可能。同年2月発行の請求書を見ると、総額10万5522ユーロ(邦貨換算約1688万円)もの作業となったことが記録されている。
この希少なBMW 2000 tiiツーリングについて、RMサザビーズ欧州本社は、出品者であるキュレーテッド・コレクションとの協議のうえ、その5年前レストアのために投じた費用とは見合わないようにも映る、3万ユーロ~4万ユーロ(邦貨換算約480万円〜640万円)というエスティメートを設定。
そして迎えた2月5日の競売では、エスティメート上限をわずかながら上回る4万250ユーロ、日本円に換算すると約664万円という、出品者側にとっては予想以上の高値で落札されることになった。
ちなみにこのハンマープライスは、これまで国際クラシックカー市場に売りに出された2000tiiツーリングないしは2002tiiツーリングとしては、かなり上位に属する。また、通常の2002tiiリムジーネの相場価格とも、ほぼ拮抗するものである。
つまりは、もともとエスティメートを設定した段階から、出品者サイドではレストア費用の回収はできないことを理解していた……、ということなのであろう。
