シリーズ末期の928は、意外にお買い得?
2025年2月4日〜5日にRMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいて、ポルシェ「928GT」が出品されました。出品車は1991年モデルで、ベルギーのコルテンベルグに新車で納車された記録が残っています。ボディカラーのスレートグレーメタリックや、クラッシックグレーのインテリアは新車時のままのコンディションを保っている1台でした。
ポルシェにとって新鮮味あふれる新型車だった
ポルシェは、「911シリーズ」に代わる新型車として、伝統のスポーツ性はもちろんのこと、よりラグジュアリー性の強いモデルを生み出そうと1970年代に開発したのが、928と呼ばれるフロントエンジン・リアドライブの基本設計を持つプロダクトだった。
デザインはハーム・ラーガイ、そしてヴォルフガング・メビウスの両名に委ねられ、911とはまったく異なる流麗なハッチバックのスタイルが与えられた928は、実際には1977年に発表。翌1978年から販売が開始されることになった。
発売当初は4.4LのV型8気筒エンジンを搭載して始まった928のヒストリーだが、それにはパワーユニット以外にもさまざまなメカニズムが採用され、大きな話題を呼んだ。コーナリング時にアウト側の後輪のトーを最大で2度イン側へと向けることで、安定性を高める、通称ヴァイザッハアクスルなどはその典型的な例。FRの基本設計は前後の理想的な重量配分を生み出し、V型8気筒エンジンにもまた水冷化など、エンジニアリングのディテールには見るべき点が数多くあった。928はまさにポルシェの新時代を象徴するかの如き、新鮮味に溢れる新型車だったのだ。
だがその928は、残念ながら911の後継車に位置づけるというポルシェのプランにはあてはまらなかった。911のファンが求めていたのは、あくまでも911の正常進化型であり、ポルシェといえば当時は空冷の水平対向6気筒エンジンをリアに搭載する、それによって独特な走りが演出される911と同義語と考えられていたのだ。
だが928は、最終的には1995年までその生産を継続するロングセラーモデルとなった。途中「S」や「S2」、あるいは「S4」などといった、より高性能なモデルへと進化を続けていった928だが、その中でも現在でも高い人気を誇るのは、1989年に販売が開始された「GT」、あるいは1992年発表の「GTS」といったところ。
最高速は275km/hを記録する「928GT」
今回RMサザビーズが、パリ・オークションに出品したのは前者、1990年11月にラインオフされた1991年モデルのGTだ。
ポルシェは1985年発売の「S2」で、928のエンジンをそれまでの4.4Lから5Lへと拡大しているが、GTに搭載されるのは、さらにそのチューニングを進めたエンジン。インテークポートやカムプロフィールの変更で、最高出力は330ps、最大トルクは431Nmを発揮するに至っている。
最高速はさらに275km/hに向上。そのパフォーマンスを実現するためにサスペンションはさらに強化され、当時のスポーツカーとしては第一線に位置する性能を発揮した。V型8気筒エンジンに組み合わされるトランスミッションは5速MTのみの設定だが、それに不満を唱えるカスタマーは、当時は少数派であったことは、このGTのキャラクターを考えれば間違いのないところといえそうだ。
ちなみにさらなる進化型であり928の最終モデルとなったGTSは、最高出力が340ps、最大トルクは500Nmというスペック。エンジンは5.4L仕様で、最高速は294km/hを記録した。
パリ・オークションに出品された928GTに話を戻そう。2016年2月から、キュレーテッド・コレクションに加わっていたこのモデルは1991年モデルで、ベルギーのコルテンベルグに新車で納車された記録が残る。ボディカラーのスレートグレーメタリックや、クラッシックグレーのインテリアは新車時のままのコンディションを保ち、ベルギーからその後ルクセンブルグ、フランスなどへと渡ったことが判明している。
2000年から2014年の間に行われたメンテナンス記録が添付されているのもプラス材料。RMサザビーズはそれらを総合的に評価して、3万ユーロ〜4万ユーロ(邦貨換算約480万円〜640万円)のエスティメートを提示する。結果は3万4500ユーロ(邦貨換算約553万円)という、比較的リーズナブルな数字での落札となった。これからポルシェというブランド、それもクラッシック・ポルシェの世界に触れてみたいという人には、シリーズ末期の928は、意外にお買い得なのかもしれない。
