現存台数2台のプロトタイプがオークションに登場
2025年2月6日、ボナムズがフランスで開催した「Les Grandes Marques du Monde à Paris」オークションにおいてメルセデス・ベンツ「CLK DTM AMG P900 プロトタイプ」が出品されました。プロトタイプとして4台のみ生産されましたが、2台は廃棄。現存するのは、残り2台となりますが、そのうちの1台はAMG USAによって保管されているため市場に出回るのは出品車のみとなります。
DTMで大成功を収めたメルセデスAMGは市販車を検討
メルセデス・ベンツのモータースポーツ・ヒストリーには、いくつもの栄光の時代がある。その中でも実際に新車の販売に貢献したカテゴリーといえば、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)を思い出す人も多いのではないだろうか。
特に2002年と2003年は、メルセデスAMGチームはこのシリーズでまさに無敵ともいえる活躍を見せた。2003年にCLK DTM AMGを駆ったベルント・シュナイダーは、この年ドライバーズ・タイトルを獲得。メルセデスAMGは10戦中9勝を挙げ、まさに圧倒的な強さを見せつけたのだった。
この大成功を収めた2シーズンが終了すると、メルセデス・ベンツの社内では、AMGマシンのロードバージョンを開発し、限定販売するというアイデアが浮上する。そのコンセプトを受け入れない者はいなかった。AMGのオフィシャル・ドライバーは、まさに現代に復活したシルバー・アローとも例えられるCLK DTM AMGを完成させるために、オンロードとサーキットの両方で、3万kmを超えるテストを敢行した。
限定モデルとしてクーペとコンバーチブルを発売
ちなみにわずか100台が生産されたCLK DTM AMG(後にコンバーチブル仕様が80台生産されている)の新車価格は23万6060ユーロ(邦貨換算約3770万円)だったが、昨2004年2月にRMサザビーズが開催したパリ・オークションで出品されたのは、46万625ユーロ(邦貨換算約7370万円)で落札されている。今回ボナムズが掲げた予想落札価格は60万ユーロ〜80万ユーロ(邦貨換算約9610万円〜1億2810万円)。この驚異的な数字の背景には、何か特別な事情があることは想像に難くない。
市販モデルにはない6LのV8エンジンを搭載!
じつは今回出品されたCLK DTM AMGは、「P900」のサブネームが添えられるモデル。これはCLK DTM AMGのプロトタイプとしてわずかに4台が生産されたもので、そのうち2台は廃棄されているため、現存するのは2台のみ。1台は現在もAMG USAによって保管されているから、実際にオークション市場に出回る可能性があるのは、この1台のみなのである。
このP900の最大の特徴は、それに搭載されるエンジンにある。CLK DTM AMGは、5.5Lのスーパーチャージャー付きV型8気筒エンジン(M113K型)を搭載し、582psの最高出力と800Nmの最大トルクを発揮するが、このP900には当時開発途中だった6028ccの自然吸気V型8気筒(M156型)が搭載されていたのだ。
正確には最終的に510psの最高出力と630Nmの最大トルクを発揮したこのエンジンの開発のために、P900は製作されたと考えるのが妥当だろう。300 SEL 6.3の伝説的なオマージュとして、6.3Lと表記されたこのエンジンは、2006年にE63でデビューし、その後多くのAMG車に搭載されたのは周知のとおりである。
DTMマシンのスピリットを感じさせる内外装
一見、市販型のCLK DTM AMGと共通であるかのようにも見えるP900のエクステリアとインテリアだが、詳細にそのディテールを見ると、多くの部分でそれに独自のフィニッシュが施されているのが分かる。それは確かに1980年代から1990年代にかけてのDTMマシンのスピリットを感じさせるもの。市販車のCLK500アバンギャルドをベースとしながらも、AMGのVIPカスタマーが求める最高品質を満たすよう製作されているのも特長だ。
このP900が、そのようなプロセスで販売されたのかは不明だが、新たなオーナーは幅広いコレクションを所有し、AMGのレーシングカーのパッケージの一部として、P900を購入したとされる。近年はほとんど走行されておらず、オドメーターには3500kmの数字が刻まれるのみだが、そのコンディションは良好に保たれている。
だが残念ながら、今回のオークションではこのP900には落札者は現れなかった。CLK DTM AMGをベースとして使用したプロトタイプのP900。オークション市場では実質ワンオフの初登場モデルといってもよいだけに、その価値を見定めるのはなかなか困難だったのだろう。
