マツダのデザインヒストリーには欠かすことのできないモデルを展示
最近は“MAZDA DESIGN(マツダ・デザイン)”をキャッチコピーに使ったテレビCMが印象的なマツダ。2025年4月11日〜13日に開催されたオートモビルカウンシル2025では「MAZDA DESIGN STORY “心を揺さぶる、モノづくりへの追求”」をテーマに5台のクルマを展示しました。なかでも注目はコンセプトモデルの「S8P」でした。
ベルトーネ時代にジウジアーロが手掛けたS8P
マツダは、日本車メーカーとしてトヨタとホンダ、三菱の3社との共通企画として「過去が見た未来」をテーマに掲げていたが、1964年に試作したマツダ ルーチェのプロトタイプであるS8Pは絶好のテーマモデルだった。
1964年当時のマツダ(当時は東洋工業株式会社)は、1960年に発売したR360クーペと1962年に登場したキャロルの2タイプの軽乗用車に加え、初代ファミリアを発表したばかりだった。そのファミリア(当初は800㏄のセダンのみだった)の上級モデルとしてルーチェを企画提案し、1963年の東京モーターショーにはベルトーネにデザインを委託したコンセプトモデルのルーチェ1000/1500を出展。1965年には同じベルトーネのデザインながらスタイリングを一新した市販仕様のルーチェ1500を出展し、1966年にルーチェ1500を発売している。
今回のオートモビルカウンシルに出展されたS8Pは、2つのモデルの間に企画されたプロトタイプで、ベルトーネ時代のジョルジェット・ジウジアーロが手掛けたスタイリングは1965年の東京モーターショーに出展された市販仕様に近いものとなっている。このS8Pをベースに、マツダのデザイナー陣が完成モデルに仕上げたという歴史も納得できるストーリーだ。
ちなみにS8Pはロータリー・エンジン(RE)を(も?)搭載することを前提に開発が進められたようで、広島のマツダからトリノのベルトーネに送られたエンジンの木型(モックアップ)はREだったことも伝わっているが、1961年にNSUヴァンケル社と技術提携の契約に調印して開発を進め、1963年の東京モーターショーにはREの単体展示に漕ぎつけたが、やはり市販化にはまだまだ遠く、RE搭載車がカタログモデルとなるのは1967年のコスモスポーツまで待つ必要があった。
またS8PはREを搭載していただけでなく駆動方式も前輪駆動を前提としていたようだが、それは1969年登場のルーチェ ロータリークーペで実現する。そのような事実を考えれば、S8Pはまさに「過去が見た未来」を象徴する1台と言ってよいだろう。
マツダのデザインテーマを具現化したモデルも展示
一方、ユーノス500と3台のコンセプトモデルだが、これらはすべてマツダのデザインテーマを具現化したモデルとして、マツダのデザインストーリーを描くうえで重要なポジションに置かれるモデルである。例えばユーノス500。
当時のマツダの販売チャネルであるユーノス店の上級モデルとして開発された5ナンバーサイズのプレミアムセダン、ユーノス500は、今回のオートモビルカウンシルで企画展が開催されている匠のデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが「世界でもっとも美しい小型サルーン」と評したことでも知られている。こちらは1990年代のデザインテーマだった「ひびきのデザイン」を体現したモデルとなっていた。
2005年の第39回東京モーターショーに出展されていたマツダ先駆(せんく)は「Nagare(ながれ)」のデザインテーマに影響を与えた。2017年の第45回東京モーターショーでお披露目されたマツダ 魁 CONCEPT(マツダ・カイ・コンセプト)、マツダ VISION COUPE(マツダ・ビジョン・クーペ)の2台は現在の「魂動」デザインを象徴している。いずれもマツダのデザインヒストリーには欠かすことのできないエポックなモデルとなっている。
この辺りも「過去が見た未来」というより「現在(いま)が見据えた未来」とでも表現すべきクルマの、そしてそのデザインの存在を強く主張しているように思えてならない。
