超ローマイレージ、レア内装のエンツォ フェラーリ
クラシックカー/コレクターズカーのオークション事業では世界最上級のオークショネアであるRMサザビーズは、2025年の2月月末にフロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的な「ビルトモア・ホテル」を会場として「MIAMI 2025」オークションを開催しました。今回は、この種のオークションでは常連ともいうべきフェラーリ製スペチアーレの「エンツォ フェラーリ」に注目。そのモデル概要と、オークション結果についてお伝えします。
第3のスペチアーレ、エンツォ フェラーリとは?
1998年にF50の生産が終了したあと、ティフォージたちはマラネッロが次にどんな「スペチアーレ」を開発するのか? そして、それはどんなマシンになるのか?? を夢想していた。2002年半ば、フェラーリ会長のルカ・ディ・モンテゼーモロは「エンツォ フェラーリ」を発表することでその答えを明らかにした。それまでにもフェラーリは「マラネッロ」や「モデナ」といった歴史的に重要な土地の名前を車名に冠してきたが、ついに創業者を称える時が来た……! というのが彼の理由だった。
2002年春、東京都現代美術館にて開催された「フェラーリ&マセラティ展」にて、「FX」のコードネームとともに現寸大モックアップとしてアナウンスされたのち、同年秋のパリ・サロンにて正式デビューしたエンツォ フェラーリ。
そのテクノロジーは同時代のF1直系という触れ込みのもと、カーボンファイバーとノーメックスハニカムで作られたシャーシの土台となるチューブの重量はわずか200ポンド(約8.5kg)。アルミニウム製のサブフレームがこのタブに取りつけられ、ピニンファリーナがデザインしたユニークなボディワークが装着された。
レーシングエンジンさながらの技術が満載
その外観は、オープンホイールのレーシングカーを模したもの。フェンダーとコクピットを覆う表皮に包まれている。ピニンファリーナの風洞で空力学的に完成されたボディは、カーボンファイバーとケブラーで編まれたパネルで構成されている。15インチのブレンボ製カーボンセラミックディスクブレーキに固定された19インチのアロイホイール、そしてユニークなシザースドアによって、シャーシとキャビンを完成させた。
搭載されたパワーユニットは65度V型12気筒の「ティーポF140B」。排気量はほぼ6Lで、マラネッロが製造したエンジンとしては1970年代の「712カンナム」レーシングカー以来最大のもの。ニカシルライニングを施したシリンダーウォールやチタン製コンロッド、トルク増強のため設計されたテレスコープ式インテークマニホールドなどのレーシングエンジンさながらの技術が満載され、最終的に660psの最高出力をマークした。
そして、パドルシフトで操作する6速シーケンシャルMTを介して、最高速度は350km/h以上に達し、スポーツカーのパフォーマンスの新たな基準を打ち立てた。
当初、生産台数の上限は399台とされていたが、のちにローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の提案によるチャリティオークションのため、400台目のエンツォ・フェラーリが製作されたとのことである。
“ほぼ”ワンオーナーの超ローマイレージ
今回RMサザビーズ「MIAMI 2025」オークションに出品されたエンツォ フェラーリは、RMサザビーズ社曰く、このモデルとしても最上級を自認する1台。
シャーシナンバー#132333は、2003年3月に製造された米国仕様。ボディカラーは「ロッソ・コルサ」で仕上げられ、「クオイオ(Cuoio:ナチュラルレザー)」のシートとダッシュボードトリムが組み合わされた、米国仕様ではわずか5台のうちの1台であることが判明している。
また、車両とともに保管されているオリジナルのウィンドウステッカーと保証書から、このエンツォはカリフォルニア州ミル・バレーの「フェラーリ・オブ・サンフランシスコ」を介して正式に販売されたことがわかる。
フェラーリの世界的権威、マルセル・マッシーニ氏によるヒストリーレポートが裏付けるように、この個体はアメリカ屈指のコレクター、ネバダ州スパークスの故ロバート・M・リー氏が新車として購入したもの。これまで「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」の最高位「ベスト・オブ・ショー」を2度にわたって受賞してきたボブ・リー氏は、フェラーリをこよなく愛する熱心なコレクターであり、この美しいエンツォは、彼のコレクションに収められていた間、世界でも有数のレベルと目される歴史的にも重要なモデルと一緒に並べられていたに違いない。
アメリカ国内での登録履歴を証明する「カーファックス」によると、このエンツォは登録後の20年間、ほとんど運転されることなく、走行距離の増加はごくわずかであった。2014年10月までの段階で、オドメーターはわずか991マイル(1591km)しか表示していなかった。
2016年にリー氏が亡くなった後、彼のコレクションからいくつかのクルマが放出されたが、このときにエンツォも、現在の1049マイル(1688km)という超ローマイレージに近い距離をオドメーターに表示したまま売却されることになった。
さらに現在のオーナーは、不確実な経済状況のもとで代替資産クラスの投資としてこの#132333を入手したとの由。それゆえ、RMサザビーズの保管庫で運転されることなく保管され、現状としては事実上のワンオーナーと見なされている。
コレクターにとっては夢のような1台だが……
前述のとおり、現時点での走行距離はわずか1049マイルというエンツォは、RMサザビーズのガレージに保管されながら、ほとんど使用されていないことに見合った「ショールームクオリティ」を、20年の時を経ても体現している。くわえて「クオイオ」のレザーシートという超レアなインテリアに加え、このフェラーリには適切な純正ラゲッジセットも付属し、オリジナルのウィンドウステッカーが貼られている。
「フェラーリピュアリストやスーパーカーコレクターにとって、この特別なエンツォを超えるものはないだろう」
RMサザビーズ北米本社が、そんな謳い文句とともに設定したエスティメート(推定落札価格)は、550万ドル~650万ドル(邦貨換算約8億2500万円〜9億7500万円)という、近年のエンツォの相場価格を大幅に上まわるものとなった。
たしかに、走行距離や現状のコンディションを鑑みての価格設定だったことは間違いないものの、2月28日に行われた競売では現オーナーが希望したリザーヴ(最低落札価格)まで及ばず、結局は「Not Sold」。つまり、流札に終わってしまったのである。
