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「コブラキラー」と呼ばれたデ・トマソ「マングスタ」が約4200万円で落札!リトラとガルウイングが特徴です

29万1000ドル(邦貨換算約4200万円)で落札されたデ・トマソ「マングスタ」(C)Courtesy of RM Sotheby's

デ・トマソ初の大排気量スポーツはガルウイング式ボンネットを採用

RMサザビーズ北米本社が2025年2月27-28日にフロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的なビルトモア・ホテルを会場として開催した「MIAMI 2025」オークション。そこに出品されていたデ・トマソ「マングスタ」をピックアップしました。今回は、モデル概要と注目のオークション結果についてお伝えします。

コブラへの対抗意識を車名にしたマングース

「マングスタ」は、単にウェッジシェイプのスーパーカーに命名されたエキゾティックな車名というだけではない。アルゼンチン生まれのレーシングドライバーにして、野心溢れる実業家アレハンドロ・デ・トマソの意思表示でもあった。

1960年代半ばにオープン2シータースポーツ「ACコブラ」を製造したキャロル・シェルビーとの提携契約が破談になったあと、デ・トマソは自分の新作スーパースポーツを毒蛇コブラの天敵である哺乳類、マングース(イタリア語でマングスタ)と命名した。

もちろんデ・トマソのマングスタが、シェルビーのコブラとはクルマとしての成り立ちからして根本的に異なっていたのは、いうまでもあるまい。ACコブラが古典的なFRロードスターだったのに対して、マングスタは「カロッツェリア・ギア」時代に若き天才ジョルジェット ジウジアーロがスタイリングした、低く構えたリアミッドエンジン型。2分割ガルウィングスタイルのエンジンカウルを特徴とする。

シャシーは、デ・トマソにとっては第1作となる「ヴァレルンガ」や先進的なレーシングプロトタイプの「スポルト(Sport)5000」から進化させた。エンジンも構造体の一部とするレーシングタイプのバックボーンフレームを採用。フォーミュラマシンさながらの独立懸架式サスペンションとディスクブレーキを備えていた。

生産台数は401台がラインオフされた

GMシボレー製V8エンジンを搭載した1台を除いて、すべてのマングスタはリアミッドにフォード製「289(4.7L)」または「302(5L)」のV型8気筒OHVエンジンを搭載。これにZF製5速トランスアクスルが組み合わされる。

こうして生まれたマングスタながら、実際のところはトリッキーな操縦性で知られている。そのポテンシャルを最大限に引き出すには、とくにハンドリングに関しては熟練したドライバーを必要としていた。それでも、時速155マイル(約250km/h)という最高速度は紛れもなく速く、ルックスも流麗にして壮観だったのは間違いのないところだろう。

1967年から生産開始されたマングスタは、デ・トマソ社が「パンテーラ」に生産を切り替える1971年までに合計401台がラインオフしたとされる。

また、そのうちの50台はヘッドライトの取り付け位置の高さを一定のレベル以上にすることを定めた。アメリカ合衆国の交通法規に合わせて、スタンダードの丸型4灯固定式から、セミ・リトラクタブルの2灯丸型ヘッドライトに変更したUSスペックとして、生産・輸出されることになった。

アメリカ仕様車も希少性+リトラクタブルの魅力で価値は低下しない……?

RMサザビーズ「MIAMI 2025」オークションに出品されたデ・トマソ マングスタは、シャシーNo.「8MA0994」。ポップアップ式2灯ヘッドライトを新車から装備していたとされる50台のうちの1台である。

米国で納車された個体ながら、その初期の履歴は現在のところ不明。しかし、2008年までの大半をカリフォルニアで過ごしたとのことである。その年、デ・トマソブランドのスペシャリストである英国のロジャー・ブロットン氏とフィリップ・ステビングス氏が入手し、同じ英国のクライアントに代わってフルレストアを施した。

ブロットン氏は、カリフォルニアでこの車を発見した際に

「これまで見たなかで最高のマングスタのボディシェル」

だったと述べていたように、もとよりコンディションの良い個体をベース車両として、現存するマングスタのなかでも最上級の1台に仕上げるため、費用は惜しまれなかった。

その結果、ガンディーニ流とは異なるジウジアーロ流のウェッジシェイプを黒のカラーリングがみごとに引き立て、赤い内装が鮮烈なコントラストを演出するエキサイティングなカラースキームとなった。

2018年には「ロンドン・コンクール・デレガンス」に出展

また、トレードマークのガルウイング式エンジンカバーの下には、フォード製302キュービックインチV型8気筒とZF製5速トランスアクスルが収まっている。「340ストローカーキット」で排気量アップされ、330psを発生するに至ったという。ファイルされている数多くの請求書やブロットンとのやりとりには、このクルマに費やされた膨大な作業の内容と、約25万ポンドが投入されたことについても仔細に記されている。

2015年のレストア完了後、2018年には「ロンドン・コンクール・デレガンス」に出展されたほか、ランボルギーニ「ミウラ」やフェラーリ「365GTB/4デイトナ」と比較する「Classic & Sports Car」の特集記事でも紹介。そののち2021年には、RMサザビーズ最大のライバルであるボナムズ社がロンドンで開催した「The Bond Street Sale」にて、現オーナーが20万1250英ポンドで落札するに至った。

こうして、13年ぶりにアメリカに戻ったこのマングスタは、そのみごとなレストアぶりで、こんにちも感動を与え続けているとのことである。

RMサザビーズ北米本社は

「デ・トマソの野心的な“コブラキラー”であるこのマングスタは、カーショーで展示するにも、公道で楽しむにも最適」

と謳いつつ、現オーナーと協議のうえ25万ドル~30万ドル(邦貨換算約3750万円〜4500万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定することになった。

そして迎えた競売では、エスティメート上限にほど近い29万1000ドル。現在のレートで日本円換算すると約4200万円で、落札されることになったのである。ちなみにこのハンマープライスは、現在におけるデ・トマソ マングスタの相場価格にほぼ準ずるものである。

また、多くのモデルにおけるアメリカ仕様は、外観が大きく変わってしまうことから敬遠されがちなのだが、ことマングスタについてはベルトーネ時代のジウジアーロも試行していたセミ・リトラクタブルのヘッドライトにするなど「スーパーカー的」なアプローチと取れなくもないのが、市場価値を落とさない理由と思われる。

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