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右ハンドルのマセラティ「メラクSS」が約1080万円で落札!徹底したレストア作業のため18年間の走行距離はわずか700マイル

5万7500ポンド(邦貨換算約1080万円)で落札されたマセラティ「メラクSS」(C)Bonhams

決して人気モデルではないメラクの市場評価はいかほど?

2025年4月13日、英国チチェスター近郊のグッドウッド・サーキットにて開催されたエクスクルーシヴなレースイベント「グッドウッド・メンバーズミーティング」。その公式オークションとして行われた名門「ボナムズ」社の「GOODWOOD Members Meeting 2025」に出品されたのは、1983年生産のマセラティ「メラクSS」。以前は1000万円超えが珍しくもなかったこのモデルが、今はいかなる評価を受けるのか……? オークションレビューで追跡してみることにした。

ミッドシップで2+2、実用性も狙ったミドル級スーパーカー「メラク」とは?

1972年のパリサロンで初公開されたマセラティ「メラク」は、その1年前、1971年に登場した「ボーラ」の妹分。ミドシップに搭載されるパワーユニットは、マセラティのジュリオ・アルフィエーリ技師が、当時のマセラティの実質的な親会社であったシトロエンのGTカー「SM」用として設計した90度V型6気筒エンジンである。

V6としてはやや変則的な90度のバンク角は、元来レーシングスポーツカー「450S」に搭載されていたものから発展。ディチューンし、ボーラにも搭載されていたマセラティV8をベースに2気筒分をカット、6気筒化したといわれている。

このV6エンジンは、シトロエンSMの3L版と同じ排気量2965ccながら、よりハイパワーにチューニングされ、190ps/6000rpmの最高出力と26kgm/4000rpmの最大トルクを発生する。最高速度は245km/hをマークすると標榜していた。

また、スタイリッシュなクーペボディのデザインも、ボーラと同様に「イタルデザイン」社のジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた。ノーズからキャビンに至る前半部は、ボーラとほぼ共通のもの。しかし後半部は、ボーラのファストバックに対しメラクはほぼ垂直のノッチがつけられるとともに、より広い後方視界を確保している。またこのスタイルを選択した最大の成果として、絶対的なスペースこそかなり狭いながらも「+2」のリアシートを得ることもできた。

ファストバック風に見えるフライングバットレスとは

ただし、ルーフから連続してテールにおよぶ梁状のピラー。いわゆる「フライングバットレス」が左右に取り付けられているため、視覚的にはボーラと同様ファストバックに見えるようになっているのも重要なアイキャッチとなっていた。

ところで、ボーラ/メラクにおける最大の技術的特徴は、当時マセラティの親会社だったシトロエンから拝借した、油圧による「ハイドロニューマティック」テクノロジーが、ブレーキやポップアップ式のヘッドランプ昇降システムなどにも導入されていたことだろう。

そして1975年のジュネーヴ・ショーでは、よりハイスペックとされた「メラクSS」が発表されることになる。SSは実質的なマイナーチェンジ版で、V6ユニットは排気量を変えることなく最高出力を220ps/6500rpmまでスープアップした。

しかし、マセラティは親会社だったシトロエン本社が経営破綻によりプジョーの傘下となり、デ・トマソ・グループ傘下に移行したことも相まって、それまで「アキレス腱」ともいわれていたシトロエン由来のハイドロ技術を、メラクSSではあっさりと廃止。その結果、初期のメラクに比べて約50kgの軽量化も実現したとされている。

長期間のレストアを終えて……

結果として「ビトゥルボ」以前にもっとも成功したマセラティとなったメラクは1832台を生産したのち、1983年に生産を終了した。

今回のボナムズ「GOODWOOD Members Meeting 2025」オークションに出品されたマセラティ メラクは、最終年にあたる1983年に生産されたSS。右ハンドルの英国仕様で、シャシーNo.は「460516」である。

このメラクSSは、1992年5月のオークションで落札されて以来16年にわたって所有していた故人の遺品として、2008年4月にヘンドンの「RAFミュージアム」において開催されたボナムズ社オークションに出品され、今回の売り主でもある現オーナーが購入した。

2008年当時の走行距離は4万2313km、その後「マックグラス・マセラティ(McGrath Maserati)」社に送られ、エンジンとギヤボックスの全バラシとリビルド、キャブレターのリビルド、クラッチを新品に換装。さまざまな電気系統の問題の修正、ステアリングラックの修理など、さまざまな機械的作業が行われた。いっぽうボディについては、腐食の修理と再塗装のためにボディショップに送られた。

ファイルにある関連請求書と写真で示される追加メンテナンスに掛けられた総額は約2万5000ポンド。さらに2017年から2019年にかけて、ウィスボロー・グリーンのインテリア職人ジェームス・E・ピアース氏によって内装の再整備とさまざまな加工が行われ、その費用は3万ポンドに及んだとのことである。

2008年の入手以来、現オーナーの所有権のもとで18年ものときを過ごしたことにはなるものの、その間に重ねたマイレージはわずか700マイル(約1000km)に過ぎない。それゆえ、レストア作業に入る前で車検はいったんペンディングとされ、現時点では2009年まで有効のMoT車検証が保管されている。

また、この長期レストアのさなかにあった2011年には、壊れていたスピードメーターを交換。マックグラス・マセラティ社が用意した交換用オドメーターは当時4万9300マイルを示していたいっぽう、オリジナルの壊れたオドメーターは約4万3500マイルを示していた。したがって実際に走行した距離は、現在のオドメーターに刻まれたものより、約6000マイル少ないことになる。

エスティメート内に収まった……?

このマセラティ メラクSSに対して、ボナムズオークション社では5万5000ポンド〜6万ポンド(邦貨換算約1035万円〜約1128万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定。そして4月14日に行われた競売では、5万7500英ポンド、日本円に換算すると約1080万円で落札されることになった。

国際マーケットにおけるメラクの相場価格は、2010年代後半あたりにはかなり高騰していたようだが、ここ数年は高めのエスティメートを設定しても流札、ないしはいくらか値下げして販売される事例が多いようだ。今回のようにエスティメートの範囲内に到達して無事落札に至ったというのは、むしろレアケースといえなくもないのである。

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