予想価格を上まわって落札されたランボルギーニ ミウラSV
ヨーロッパにおける最高の格式を誇るコンクール・デレガンス「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」は、2025年も5月23-24日に北イタリア・ロンバルディア州コモ湖畔チェルノッビオで開催されました。このビッグイベントに付随するかたちで、クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手「RMサザビーズ」社がミラノ市内において開催した「MILAN」オークションに向けて、ヴィラ・デステに集う目の肥えた富裕層を対象に、ヨーロッパ各地から華やかな商品車両たちが集められました。今回はその出品ロットなかかから、ランボルギーニ「ミウラ」シリーズでももっとも評価が高く、新型コロナ禍以降の高騰相場にあっては軒並み3億円オーバーの価格で取り引きされている最終版「P400SV」をピックアップしました。
もっとも弱点の少ないミウラは、もっとも市場価値の高いミウラに……
1966年に正式デビューを果たしたランボルギーニ「P400ミウラ」は、2年後の1968年にはV12エンジンを350psから370psにスープアップ。同時に、細部をブラッシュアップした「ミウラP400S」へと進化する。この「S」は「極端な」を意味するイタリア語「Spinto」の頭文字といわれる。
そして1971年、ミウラの最終進化形として登場したミウラP400SVは、Spintoに「速い」を意味する「Veloce(ヴェローチェ)」を組み合わせた頭文字「SV」が授けられた最終進化版にして最高性能版となった。パッと見ただけの印象では、ポップアップ式ヘッドライトの特徴的な「まつ毛」が廃止されたくらいの違いにしか見えないのだが、まずV12エンジンは、ネーミングに相応しく385psまでパワーアップされた。
またシャシーにも手が加えられ、サスペンションのロワアームは剛性アップのためか、P400SまでのA字型から平行四辺形に近いかたちに変更。アーム長そのものも38mm延長された。さらにカンパニョーロ社製の軽合金ホイールは、リヤのオフセットを28mm拡大するとともに、リムもワイド化されたことも相まって、後輪トレッドはミウラP400Sから約100mmアップに相当する1514mmとなった。
スプリントサンプを採用したのは94台のみ
そしてこのホイールとタイヤを収めるため、リアフェンダーもグラマラスな意匠に拡幅されたのが、P400SVのエクステリアにおけるふたつ目の特徴となった。
さらに、設計者のジャンパオロ・ダラーラが「BMCミニ」から着想したとされる、エンジンとトランスミッションのオイル潤滑を一体化。それにより、コンパクト化を図るというP400/P400S時代の潤滑システムは、P400SV後期の94台限定ながら、幻のスペチアーレ「イオタ」における実験成果を生かしてセパレート化(通称「スプリントサンプ」)されるなど、ブラッシュアップの範囲は多岐にわたるものであった。
それゆえに「ちゃんと乗れるミウラ」ないしは「維持しやすいミウラ」と評価されたこと。さらに、全シリーズ通算で762台(ほかに諸説あり)のミウラが生産されたが、P400SVは150台のみ(ほかに147台説などもあり)という希少性も相まって、現在の国際マーケットにおいて「もっとも価値の高いミウラ」となっているのだ。
ディテールとメカニズムの手直しのみで、オリジナリティを保持
ランボルギーニ ミウラ P400 SVは150台しか製造されなかった極めて希少なモデルだが、今回RMサザビーズ「MILAN 2025」オークションに出品されたのは、そのうちの1台。1971年12月4日に、サンタ・アガータ・ボロニェーゼのランボルギーニ本社工場から出荷された、との記録が残っている。
新車としてラインオフされた時から「スプリットサンプ」潤滑システムと、純正エアコンという、今なおもっとも人気のあるスペックで製作された後期生産モデルであるこのP400SVはシャシーNo.#4946で、米国向けとしてオーダー。「ロッソ・コルサ(Rosso Corsa)」のボディと「ブルー(Bleu:紺)」のインテリアを組み合わせた魅力的なカラースキームで、アメリカ合衆国ニューヨーク市のディーラー「モデナ・カー(Modena Car)」社を介して、ファーストオーナーに納車されたとのことである。
ところがそれ以後、初期のヒストリーはほとんど不明で、再び姿を現したのは1980年代に入ってからのこと。当時カリフォルニアを拠点とする歯科医、ノーマン・ベイカーが所有していたとされる。「ランボルギーニ・ミウラ・レジスター」によると、この時期にエクステリアのカラーは、インテリアと合うブルーに変更されていた。
メカニカルパーツをリフレッシュして新車のように美しい
10年後、ヨーロッパに戻ったこのP400SVは、ピーター・ヴィーガースなる人物および、ワイヤーホイールで有名な「ボラーニ(Borrani)」社および「カロッツェリア・トゥーリング(Carrozzeria Touring)」社の元社主であるポール・V.J.クート氏が所有し、「ベリー・スーペリア・オールドカーズ(Very Superior Old Cars)」社を仲介してフランス、そのあとにオランダで販売された。
2003年にポルトガルのプライベートミュージアムに買収され、その後すぐにボディカラーは赤色に変更。そして2012年、P400SV はベルギーのディーラーを通じて販売され、クラシック・ランボルギーニ界の第1人者であるゲイリー・ボビレフ氏の協力により、米国へと舞い戻ることになった。
大西洋を再び渡った際、ボビレフはこのP400SVが充分に良好な状態にあると判断したとのこと。それでも素性の良いこの個体をさらに最高の状態に仕上げたいと考え、カリフォルニア州サンディエゴの「ボビレフ・モーターカー・カンパニー(Bobileff Motorcar Company)」社にて、メカニカルパートのリフレッシュを受けることにした。
このときブレーキやフロントサスペンション、計器類はリビルドされるとともに、油圧システムをオーバーホール(クラッチのマスターシリンダーを含む)。フューエルラインは交換され、新品のアルミニウム製燃料タンクが取り付けられた。
いっぽうインテリアについても、ニューヨークの「スピニーベック(Spinneybeck)」社に委ね、オリジナルレザーのサンプルを使用して、元色と同じブルーで張替え。ボディも今いちどロッソ・コルサで再塗装された。
フルレストアを施すことなくコンディションを維持
このディテールへの徹底した配慮により、ミウラSVは2016年の「モントレー・クラシックカーウィーク」中に開催された、イタリア車だけを対象とするコンクール・デレガンス「コンコルソ・イタリアーノ(Concorso Italiano)」内で催されたミウラ50周年記念イベントにて「ベスト・ランボルギーニ」に選出された。この名誉あるアワードは、この個体がフルレストアを施すことなくこれだけのコンディションを維持してきたという事実と、その本質的なクオリティを証明するものだった。
現在、新車時オリジナルのカラースキームを維持しているこの美しいミウラは、希少な「スプリットサンプ」仕様でエアコンを搭載。3929cc横置きV12エンジンがマッチングナンバーを保持しているという点で、さらにマーケットでの訴求力アップとなる。くわえて純正ブックレットにツールロール、スペアホイール、純正を再現してフィットしたラゲッジセットも付属しており、ミウラを求める落札希望者にとってはこの上ないほどに魅力的な個体、とアピールするRMサザビーズ欧州本社の意向も理解できる。
そのあたりを加味して、今回のミウラP400SVには340万ユーロ~380万ユーロ(5億5420万円〜6億1940万円)という、ここ数年のミウラSVの相場価格と比較しても自信たっぷりなエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。実際の競売ではエスティメート上限を軽々と凌駕する394万2500ユーロ。現在のレートで日本円に換算すれば、約6億6400万円で競売人の小槌が鳴らされる大商いとなったのだ。
これまでにもしばしばお話ししてきたとおり、ランボルギーニ ミウラは現在の国際クラシックカー・マーケットを象徴するモデルのひとつ。この名作の価格の推移が、市場全体の盛衰をそのまま体現することも多いのだが、今回のハンマープライスはミウラSVの相場が再び高騰していることを示すのか……? あるいはこの個体だけのハプニング的なものなのか……??
今後の市場動向も注目していきたいところである。
