リバティーウォークの「スーパーシルエットスカイライン」をモータージャーナリストが試乗したら…
カスタム界で知らぬものはいないリバティーウォーク。OAMでもそのデモカーを目にした人は多いでしょう。そのデモカーを走らせてみたらどうなのか、気になっているひとも多いはずです。そこでモータージャーナリストの西川淳氏が「LB-ER34スーパーシルエットスカイライン」を走らせた模様を、AMWでレポートいたします。
どうして「トミカ・スカイライン」で走ることになったのか
なんと季節外れの雪がちらつき始めた。ところは真冬なら降雪で通行止めになることも多い名阪国道を奈良から愛知に向けて走行中のことだ。以前ヒヤヒヤしながらデ・トマソ「パンテーラ」をドライブした記憶や、なんなら通行止め開始で三重県内に降ろされた悪夢(レンジローバーだったけれど)もぶり返す。幸いにも名古屋の手前で天気は晴れに変わったけれど、ドライブしていたクルマがクルマだけにスリルは倍増である。
その日、私はリバティーウォーク(LB)の「LB-ER34スーパーシルエットスカイライン」を尾張旭市のLB本社に向けて駆っていた。なぜ奈良からだったかというと、友人から取材のために預かったこのド派手な“トミカ・スカイライン”を年末年始、奈良県内の別の友人宅に保管してもらっていたからだ。私の自宅は京都の有名な神社の隣だったので、そんな時期に留めておくと大変な騒ぎになりかねないと思ったからだった(初日の出暴走ではないけれど)。
もう一つ、奈良に預けた理由があった。セキュリティ対策も十分なその一家の小学六年生になる子息が大のLBファン、加藤渉ファンだったから。彼の名前はTSUKASA君。そこでLB本社までスカイラインを回送するにあたり、TSUKASAを乗せて走ろうということに。大好きなLBマシン(しかもこのスカイラインは加藤代表が所有していた)でLB本社まで走り、ひょっとしたら代表にも会えるかも、なんて、とっても夢のあるプランじゃないか!
まずはガレージ付近にて記念撮影。彼はLBファッション、それもトミカ・スカイラインコーデをバッチリ決めていた。最近のLBは、もちろんオートショーを盛り上げる日本一の改造屋ではあるけれど、人気のストリートファッションブランドでもある。
それにしても我々アラカン世代のクルマ好きには“たまらない”カタチだ。この34スカイラインは子供の時代に憧れたおした“シルエットフォーミュラ”(グループ5)を上手に再現していて、しかもフルコピーではないから古臭くみえない。この辺りの匙加減がLBの真骨頂、というわけ。ナンバー付き車両だから公道を堂々と(といっても目立ちすぎるのでちょっとビビりながら)転がすことができる。個人的にはモロイさんのシュパンポルシェ「962」やミスター・アオノのジャガー「XJ220LM」以来となる“ハラハラドキドキ”だ。
この姿で走ることに意義がある
軽いドアを開けると中はハダカ同然で、黄色いロールケージに囲われ、バケットシートが2座置かれている。コクピット周りはFRPとアルミのオリジナルデザインで、小さなLBハンドルと相まってかなりスパルタン。助手席にTSUKASAを載せてエンジンを掛けた。
キャブレター仕様のメカチューンL28改3L直6エンジンが数秒のクランキングで機嫌よく目覚める。サウンドはいかにもレーシー。いや、その昔ならこの程度の音圧と音色は暴走族の常識、というか大人しいくらいだけれど、今や時代が違う。無音で走るクルマが珍しくない時代にあって、吸排気音が盛大に響くエンジンサウンドはやはり強烈だ。そして心と体にしみわたる。
ブリッピングで車体と身体が震える。スポーツカーはこうでなきゃと、動き出す前から血が湧いてくる。
TSUKASAもシートに縛り付け、いざ西名阪へ。一般道に出ると注目の的、どころか嵐だ。耳をすませば写メのシャッター音さえ聞こえてきそう。ドライバーの皆さん、どうか運転しながらの動画撮影はやめてください、と拡声器で叫びたくなる。
乗り心地は意外と悪くない、というか気にならない。神経という神経が他を向いているからかもしれない。気になるといえば長いフロントノーズだが、普段からあまり前車に接近しない方なので、マージンは十分。車幅も気になるレベルではない。ちなみに4輪エアサスシステムが入っている。段差が気になればリフトアップも可能だ。
もちろんマニュアルトランスミッションだ。盛大なサウンドの後に速度がついてくる昔ながらの加速だから、さほど慌てることなく、エンジンそのものを楽しむことができる。シャンシャン回ればいいというものではない。今の時代、こうしてエンジンそのもののフィーリングを楽しむこと自体が大変貴重で贅沢な行為なのだから。
高速道路に入った。2速、3速、4速と速度を上げていく。改造車にありがちな不安不信はまるでなく、かといって快適すぎてつまらないわけでもなく、クルマの運転の昔ながらの楽しさを満喫できる仕様だと感心した。細かな評価などどうでもいい。この姿で走って、曲がって、停まって、あまつさえ良いサウンドを響かせてくれたなら、それ以上の何を望むというのだろう?
クルマの未来を担う子どもたちのために
TSUKASAは前をずっと見たままだ。彼の視界はきっと大方が曇天の空かもしれないが、輝く瞳にはきっとグループ5のバトルさながらに彼の好きなフェラーリやフェアレディZが目の前でバトルを繰り広げているに違いない。
LB本社近くのインターを降り、信号待ちをしている最中に小さい頃の記憶が蘇った。叔父のシルビアに乗せもらった時の記憶だ。叔父は僕の右手をシフトノブに導き、僕の拳ごと大きな手で包み込んでギアチェンジしてくれた。
TSUKASAの右手をシフトレバーに置く。1、2、3の掛け声と共にシフトレバーを動かす。3つくらい交差点を過ぎた後は、一人でもできるようになった。聞けば小さなシフトレバーのおもちゃで日々練習しているらしい。未来のエンスーが確実に育っていることを知って、アラカンのクルマ好きは大いに喜んだ。
LB本社では加藤代表が待ち受けていた。「子供たちが目の色を変えて集まってくるようなかっこいいクルマを見せてあげたい。僕らは不出来なモノマネかもしれないけれど、それでいいのよ。こうしてたくさんの子供達が喜んでくれたなら」
LB本社に併設のカフェはファミリィや海外ツーリストたちで大いに賑わっていた。スタッフもちゃんと教育されているから、親たちも安心して自分の子供をはしゃぐに任せていい空間になっている。クルマの未来を担う熱きステージがそこにあった。
