人気英国レストア番組がオークション会社とコラボしてボンド・バクを競売
日本国内でもCSディスカバリーチャンネル「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」の名でカーマニアに高い人気を博している英国のレストア番組「Wheeler Dealers」。2025年6月1日に、同番組は英国の新興オークションカンパニー「アイコニック・オークショネア」社をパートナーとして、これまで番組内やスピンオフ版「名車再生!ドリームカー大作戦」などで取り扱ったクルマたちの同型車を中心に販売するオークション「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」を開催しました。そこに出品されていた「ボンド・バグ(Bond Bug)700ES」について、車両のあらましとオークション結果についてお伝えします。
スターウォーズのランドスピーダーに影響を与えた?
1922年に「シャープス・コマーシャル」社として創業し、第二次大戦後は「ボンドミニカー」と呼ばれる3輪マイクロカーを生産していた「ボンド・カーズ」社。しかし、超小型3輪コミューターを得意とし、一定の成功を挙げていた「リライアント」社によって1969年に買収された。
リライアント傘下となった新生ボンドの第1作となるボンド「バグ700」は、チーフエンジニアのジョン・クロスウェイトが新たに設計したシャシーをベースに、当時のリライアントの主力「リーガル」の部品と、1974年に発売予定だった「ロビン750」用に設計された走行装置を組み合わせた。前1輪/後2輪の3ホイーラーで、エンジンはフロントにリライアント製の総アルミ軽合金製直列4気筒700ccユニットを搭載する。
出品車は高級版の「700ES」!
本質的には2座のシティコミューターでありながらも、ボンド側では実用本位のリライアント3輪車とは一線を画した「若者向けの新種のファンカー」と称し、オフロードバギーのような、あるいはスポーツカーのような先鋭的なスタイリングを採用した。
従来のドアの代わりにリフトアップ式のキャノピーとサイドスクリーンを備える特異なボディデザインは、リライアント社のほかのモデルでも実績のある「オーグルデザイン」を率いるトム・カレンに委ねられた。後年、彼とオーグルデザインがジョージ・ルーカス監督の依頼で手掛けた、映画「STAR WARS」エピソード4~6に、主人公ルーク・スカイウォーカーの愛機として登場するホバークラフトのような乗り物「X-34 ランドスピーダー」のデザインやエンジニアリングにも大きな影響を及ぼした。
1970年の発売当初、廉価モデルの「700」と「700E」は29psを謳っていたが、直後に追加された高級版「700ES」では、圧縮比をアップさせるなどのチューニングによって31psに向上。くわえて、より人間工学に基づいたシート、キャビン内のエンジンカウル上のパッドの増加、ツインのゴム製マッドフラップ、灰皿、ゴム製フロントバンパー、スペアホイールなども700ESには備えられていた。
世界的なクラシックマイクロカー人気の機運がありながらも……
さきごろアイコニック「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」オークションに出品された1971年式ボンド・バグ700ESは、このモデルではデフォルトとされていたヴィヴィッドなオレンジ色「ブリリアントタンジェリン(Brilliant Tangerine)」のボディカラーで、インテリアは黒のビニールレザー製のパッドやトリム類を組み合わせた、ボンド純正の仕上げとなっている。
こういった大衆車では初期の来歴については明らかになっていないことが多いのだが、ご多分に漏れずこの個体のヒストリーについて、アイコニック・オークショネア社の公式カタログでも詳しく記されてはいない。しかし、今回のオークション出品車である現オーナーが1983年に購入して以降、現在に至る42年の所有歴でのヒストリーはもちろん周知されていたようで、近年では2021年にボディワークの修理と強化を含む分解・修復を実施。2025年に新しいスリーブシリンダーに交換し、それ以降の走行距離はごくわずかとの由である。
オークションカタログ作成時点で、オドメーターが表示していた走行距離は4万732マイル(約6万5550km)。2026年3月までの英国MoT車検にも、特段の注意事項なしで合格しているという。また予備となる古いエンジンとトランスミッション、そのほかの部品が付属しての出品とのことであった。
総生産数は2270台。現存はかなり少ない?
「トム・カレンの未来的な“ファンカー”デザインの代表作で、42年間所有されてきた愛されるモデル」
アイコニック・オークショネア社では8000ポンド~1万ポンド(邦貨換算約159万円〜約198万円)という、近年のマイクロカーの世界的ブームのなかにあっては、かなりリーズナブルとも思われるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、ビスタ-・モーションの特設会場で行われた競売では、売り手側が期待していたほどにはビッド(入札)が進まなかったようで、終わってみれば「No Sale(流札)」。結局、アイコニック・オークショネア営業部門によって、非公開で販売されたとのことであった。
同時代のベーシック車であるBLMCミニ850よりもわずかばかり高い、この種のマイクロカーとしては比較的高価だった新車価格のせいか、結果として総生産数は2270台で終わってしまった。さらに同じくこの種のクルマの宿命としてすでに失われた車両も多いボンド・バグは、今や超レアアイテムとして珍重されていると聞くが、翻って今回の競売では今一歩プライスが伸びなかった。
したがって、この1971年式ボンド・バグ700ESを入手したバイヤーは、結果としてお買い得に入手できたということなのかもしれない。
