もっともリーズナブルにフェラーリ製エンジンが味わえるクーペ?
日本国内でもCSディスカバリーチャンネル「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」の名でカーマニアから高い人気を博している英国のレストア番組「Wheeler Dealers」。2025年6月1日に、英国の新興オークションカンパニー「アイコニック・オークショネア」社をパートナーとして、これまで同番組やスピンオフ版「名車再生!ドリームカー大作戦」などで取り扱ったクルマたちの同型車を中心に販売するオークション「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」を開催しました。今回はそのなかから「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」シーズン18(2023年)にて、番組3代目のメカニック「エルヴィス」がレストアしたのと同じマセラティ「4200クーペGT(日本名マセラティ クーペ)」を紹介します。
愛すべき問題作3200GTのビッグマイナー版、4200GTとは?
1997年にフェラーリの傘下となったマセラティが、翌1998年に発表したスーパースポーツクーペが、今や伝説ともなりつつある「3200GT」。そして、その後継モデルとして2002年に発表されたのが「クーペ」だった。
スタイリングは3200GTと同じく、ジョルジェット・ジウジアーロ率いる「イタルデザイン(Italdesign)」社が担当したが、テールランプとボンネットグリッド以外は、3200GTのデザインをほぼ受け継いだ、事実上のビッグマイナーチェンジモデルである。
フェラーリの開発・製作による「F136R」4244ccのV型8気筒4カムシャフト32バルブ自然吸気エンジンは、先行して2001年に発表された「スパイダー」と共通のユニットだ。390psのパワーと46.0kgmのトルクを発生する。また、フロントに搭載、後輪駆動とするFRレイアウトは3200GTから不変ながら、新たにミッションとデフを一体化したトランスアクスルを採用し、52:48という理想的な前後重量配分を実現していた。
生産台数の少ないマイチェン後の最終モデル
いっぽう組み合わされるトランスミッションは、6速MTと「カンビオコルサ」と呼ばれるシーケンシャル6速セミAT。ステアリング裏のパドルでシフトチェンジを行う「F1スタイルパドルシフト」で、センターコンソール上のスイッチで「Normal」「Sports」「Auto」「Low Grip」の4モードの切り替え操作ができた。
サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーンで、マセラティ社オリジナルの「スカイフック」システムにより最適なダンパーコントロールが行われる。
2005年の「モデルイヤー05」では、フロントバンパーをリスタイリング。ラジエータグリルも、とくに天地が拡大されるとともに複数の水平なバーが加えられ、より豪奢な印象となる。1963年以来の楕円形のマセラティロゴ「サエッタ(Saetta)」がCピラーに配置されるなどの変更が施される。このほどアイコニック「The Classic Sale at Wheeler Dealer Live 2025」オークションに出品された4200GTは、モデル末期ゆえに生産数の少ない、フェイスリフト後の1台とのことであった。
また、改良されたダッシュボードの計器類とカップホルダーを備えたセンターコンソールを採用しており、最終期に設定されたハードコアな限定バージョン「グランスポーツ(Gransport)」が登場する直前の最終モデルとして位置づけられる。
マニュアルなのにセミATよりもリーズナブル!
マセラティ本社に確認したデータによると、この個体は右ハンドル仕様の6速マニュアルトランスミッション搭載車として2005年に製作された、わずか214台のうちの1台とのこと。当時はマラネッロのフェラーリ工場からラインオフし、2022年7月に現在の所有者の手に渡ったとされている。
その前のオーナーは、2016年8月にこのマセラティを購入。主にフランスの別荘で使用するいっぽう、毎年わざわざイギリスでMoT車検を受けていたという。それでも、これらの間もあまり使用されることはなく、常にガレージ内に保管される機会が多くを占めていたそうだ。
現時点では、新車として工場から出荷されたときの仕様のまま維持されており、電動調整式でシートヒーターつきの前席(ドライバー用3ポジションメモリー機能付き)、パワーウインドウや電動式ドアミラー、ナビゲーションシステムが装備されている。
くわえて、ノンオリジナルながらマセラティ純正のアンスラサイト(濃いグレー)メタリック仕上げの19インチ「グランスポルト」アロイホイールの奥には、三つ鉾ロゴのセンターキャップを備えたシルバーのブレーキキャリパーを装着。これらのホイールには、ほぼ新品の「ミシュラン・パイロットスポーツ4S」タイヤが装着されている。
マセラティ クーペの相場は今が底値かも?
また、オーナーズマニュアルやサービスブックレット、カタログ、ネイビーブルーのレザー製トライデントがエンボス加工されたドキュメントポーチ、メインとスペア両方のキー、および詳細な履歴ファイルが付属しており、サービス履歴については、これまでのコンディションレポートで参照できるとのことであった。
オークションカタログ作成時点の走行距離は3万3941マイル(約5万4300km)を表示しており、オークション前に新しいMoT検査が実施されることになっていた。さらに現在、サスペンションのウィッシュボーンブッシュと両方のカムカバーガスケットの交換作業中とのことであった。
アイコニック・オークショネア社では自社の公式カタログで
「洗練されたマセラティ4200GTのハンサムなオールブラックの低走行距離の例で、マニュアルギアボックスの珍しいオプションの恩恵を受けている」
と自画自賛しつつ、1万2000ポンド~1万5000ポンド(約289万〜298万円)という、かなりリーズナブルなエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた6月1日の競売では順当にビッド(入札)が進んだようで、締め切りまでに1万3500英ポンド、現在のレートで日本円に換算すると約268万円まで上昇したところで競売人のハンマーが鳴らされることになった。
この時代のマセラティで、3200GTの4速トルコン式ATと同じくトラブルの発生源になりがちな「カンビオコルサ」よりも、6速マニュアルのほうが大幅に高価になるという現象は、どうやら日本でもヨーロッパでも変わらないようだ。したがって、日本国内でカンビオコルサ仕様のユーズドカーと変わらないくらいの今回のハンマープライスは、とくにリーズナブルとも思われる。
今後マセラティ クーペのマーケット相場は「爆上がり」こそしないであろうが、たとえば前任の3200GTがジリジリと価格上昇している現況からすれば、今が底値なのかもしれない……?
