サーキット専用車は落札されにくい……?
2025年5月22日にRMサザビーズがイタリア・ミラノで開催したオークションにおいて、ポルシェ「911 カップ3.8 RSR」が出品されました。1998年3月に新車としてデリバリーを受けたのは、ドイツのニュルブルクリンクに本拠を置くザクスピード。いくつかのレースに参戦した後、出品者の手元には2014年にわたりました。車両のあらましとオークション結果についてお伝えします。
生産台数45台の「カップ3.8 RSR」とは
空冷式の水平対向6気筒エンジンを搭載する最後の世代となった993型911は、クラシックポルシェのマーケットにおいて非常に高い人気を誇るモデルである。その基本モデルともいえるカレラに搭載されたエンジンは3.6Lの水平対向6気筒自然吸気。最高出力285psというスペックは当時としては非常に魅力的であり、トランスミッションが6速へと多段化されたことも含め、デビュー時には大きな話題を呼んだ。
このカレラに始まる993型911のバリエーションにおける究極作のひとつともいえるのが、1995年登場した専用3.8L水平対向6気筒エンジンを搭載した「カレラRS」をベースとするレーシングカー「カップ3.8 RSR」である。ポルシェの発表によれば、生産台数はわずか45台とされている。
ファーストオーナーはザクスピード
このカップ3.8 RSRが先日、RMサザビーズが開催したミラノ・オークションに登場した。出品車は、ドイツの「シュトゥット・レジェンド・コレクション」が所有する1998年モデルである。新車として同年3月にデリバリーを受けたのは、同じドイツのニュルブルクリンクに本拠を置くザクスピードだった。ザグスピードといえば1985年から1989年にかけてのF1参戦、グループ5のフォード・カプリ・シルエット・レーシングカーをサーキットに投じたことなどから、日本のモータースポーツファンにも馴染み深い存在だろう。
新車時からのオリジナル塗装を維持
ボルトオンタイプのフェンダーアーチによって独特な雰囲気が演出されたカップ3.8 RSRのスタイルは、まさに機能美の極致ともいえる。出品車のボディカラーであるガーズレッドは新車時そのままのもの。前後にはセンターロック式のBBS製ホイールが装着され、スパルタンの一語に尽きるコックピットの仕上げとともに、それが純然たるレーシングカーとして誕生したモデルであることを物語っている。
将来的には価値の上昇が期待できる?
リアに搭載されるエンジンは、「M64/75」の型式名を持ち、最高出力はストックの状態でも350psに達していた。これに「G50/34」型6速MTを組み合わせて後輪を駆動する。デリバリーを受けたザクスピードは、このカップ3.8 RSRを3シーズンにわたってドイツ国内のレースに参戦させた後、2001年1月にクラブレーサーのエバーハルド・ファッケ氏へと売却。氏は2002年のシーズン終了までこのモデルでレースに出場した記録が残されている。それが出品者である「シュトゥットガルト・レジェンド・コレクション」の所有となったのは2014年のことである。
予想落札価格は45万ユーロ~55万ユーロ(邦貨換算約7310万円~8934万円)が提示されたが、長年にわたってコレクションで静態保管されてきたこともあり、RMサザビーズからは
「使用前には機械的な再整備が必要」
とのインフォメーションが出されていた。その点が影響したのか、あるいは実際にオンロードでは使用できないモデルであるという事情もあったのか、今回のオークションでは落札には至らなかった。しかしながら、将来的にはさらなる価値の上昇が期待できることは確かであり、このモデルが今後どのように取引されていくのかは注目に値する。
