ドイツで納車されアメリカで育ったワンオーナー車
クラシック・ポルシェのなかで“通好み”として知られる930型。そのモデルの1982年式ポルシェ「911SC」が、2025年5月28日〜6月4日に開催されたRMサザビーズのオンライン・オークションに出品されました。落札金額は9万6800ドル(約1430万円)。新車時からアメリカでひとりのオーナーに大切に保有されていた個体で、走行距離はわずか1万3228マイル(約2万1000km)。さらにヨーロッパ・デリバリーを経た背景や、オリジナル度の高さが大きな評価を集めました。
セカンド・ジェネレーションの特徴と911SCの登場
2代目911がデビューを飾ったのは1975年のこと。アメリカの連邦自動車安全基準、FMVSSに適合させるため、新たに大型の5マイルバンパーが装着されたことから、「ビッグバンパー」の愛称でも知られる。この世代の911は、シリーズ途中でターボモデルが追加設定されたことでも知られている。今回紹介するのは1982年式の「911SC」。ちなみにSCとは「スーパー カレラ」を意味する。それによって、これまでの911とカレラ・シリーズは事実上統合されることになった。
新技術を採用した3L自然吸気エンジン
911SCのシャシーは、完全亜鉛メッキなどさまざまな新技術を導入したもので、リアには911ターボに使用されたパワーユニットのベースとなる新世代の3L水平対向6気筒自然吸気エンジンが搭載された。それまでマグネシウム製クランクケースと機械式燃料噴射装置を採用していた2.7L仕様の水平対向6気筒エンジンと比較して、この3Lユニットはより剛性の高いダイキャスト・アルミニウム製ブロックと、ボッシュ製Kジェトロニックを採用するなど、その技術的な革新は著しい。最高出力こそ2.7Lエンジンのそれからやや低下してしまったものの、排気量拡大によってよりトルクフルで扱いやすい特性を実現したのも大きな特長だった。ミッションは5速MTが採用されている。
911SCには、クーペと着脱式のハードトップを備えるタルガの両ボディが用意されたが、今回の出品車は前者のクーペタイプ。よりスポーティーなテイストを強く感じるこのボディの人気は高く、発売当初から成功を収めていた。だが出品車にファンからの熱い視線が注がれたのには、もうひとつ大きな理由がある。この911SCが新車でラインオフされて以来、アメリカのフィラデルフィアに在住するファースト・オーナーとその家族によって所有され続けてきたことだ。
欧州での納車されて走っていた証拠
最初のオーナーは、ポルシェのヨーロッパ・デリバリー・プログラムを通じて、ドイツのシュトゥットガルトガルトで納車を受け、その直後にはアメリカへの輸出を前に、ヨーロッパでのドライブを楽しんだという。それを証明する当時のドイツのナンバープレートは現在でも大切に保管され、それもまた車両とともにこのオークションに含まれていた。
ブラックのボディカラーと、それに巧みに調和するレザーインテリアトリムのコンディションは、その年式を感じさせないほどに素晴らしいもの。ブラックのルーフライナーやスモークガラス、あるいはクルーズコントロールにアラームシステムといった、新車当時のオプション装備がそのままであることもまた魅力のひとつだ。
低走行距離が示す真の価値と930人気の証明
そしてなにより感動的なのは、現在までの走行距離がわずかに1万3228マイル(約2万1165km)という数字であること。この走行距離とともに詳細に残る整備記録から、いかにそれが大切に扱われてきたモデルであるかは容易に想像できるところである。このように多くの特徴を備えた1982年式のポルシェ911SC。その注目度はやはり高く、じつに9万6800ドル(邦貨換算約1430万円)というプライスで、新しいオーナーに落札された。RMサザビーズが事前に発表していた予想落札価格は8万ドル〜10万ドル(邦貨換算約1152万円〜1440万円)だったため、見事にそのレンジ内での取引となった。
ポルシェ911というモデルは、どの世代においてもそれに独自の魅力を感じるスポーツカーである。一見、クラシックカー市場での人気はあまり期待できないと思われるセカンド・ジェネレーションの911だが、それにも確実なファンが存在することを今回のリザルトは証明している。はたしてここまで優れたコンディションと魅力的な履歴を持つ911SCは、これからどこまでその価値を高めていくのか。クラシックな911の購入を考えるマニアには、それもまた気になるところであるに違いない。
