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「世界限定599台」フェラーリ599 GTOの華やかな歴史と意外なる市場反応

80万スイスフラン〜90万スイスフラン(邦貨換算約1億4800万円〜約1億6700万円)で現在も販売中のフェラーリ「599 GTO」(C)Bonhams|Cars

史上3番目、そして現時点では最後のフェラーリGTO

2025年6月29日、名門「ボナムズ・オークション」社がスイス西端のゴルフリゾート地、シェゼレックスの「Golf & Country Club de Bonmont」を会場として開催した「THE BONMONT SALE」オークション。高級クラシックカーや近・現代のスーパーカー/ハイパーカーなど、高額落札が見込まれるクルマたちが数多く出品されたなか、当然のごとく新旧のフェラーリがオークションの華として君臨していました。今回はフェラーリにとって重要な歴史的アイコンである「GTO」を名乗った第3のモデル、「599 GTO」をピックアップ。その車両概要と注目のオークション結果についてお伝えします。

サーキット専用車フェラーリ599XXの実質的なロードバージョン

2010年4月に発表された599 GTOは、伝説の「250 GTO」と「288 GTO」に次ぐ、フェラーリとしては歴代3代目となる「GTO=グラン・トゥリズモ・オモロガート」の称号を冠したモデル。2006年に発売されたオリジナルモデル「599 GTBフィオラーノ(日本では“599”)」をベースとし、フェラーリ「XXプログラム」のために開発されたサーキット専用車両「599XX」のテクノロジーも投入された。

起源となる599の設計において、フェラーリは前任モデル「550/575マラネッロ」系までの常道だった鋼製のチューブラーシャシーを廃止。より先進的で軽量、剛性が大幅に向上した全アルミニウム製スペースフレームを採用する。

ピニンファリーナがデザインワークを担当したボディは、長いボンネットに小さなキャビン、盛り上がったフェンダー、攻撃的なスタンスを備え、まさに「スポーツカー」という言葉の真髄を体現。フロントのブレーキダクトやホイールアーチ後部のエアアウトレットなどのデザインディテールは、過去の偉大なフェラーリ製コンペティツィオーネを想起させるもので、テールエンドにはフェラーリのアイコンである丸型2灯テールランプが採用された。

ベースモデルより100kg軽くエンジンは50ps高い620psを発揮

エンジンは当時のスペチアーレ「エンツォ」に搭載されていた6L V12の改良版。この最先端のユニットは、599に搭載されるにあたり一定のディチューンを受けつつも、驚異の620psを発揮した。また、フェラーリのフォーミュラ1プログラムの一環として開発されたパドルシフト式シーケンシャル6速トランスミッションは、599用としては最新形態で採用された一方、従来の6速マニュアルトランスミッションを選択した個体も、ごく少数ながら製作されている。

さらに599の「GTO化」では、シャシーについても大幅にアップデートされ、F1GPでは長年禁止されていながらも、ストラダーレ車両(公道を走れるクルマ)への開発は継続されてアクティブサスペンション技術を応用した「SCMセミアクティブ」ダンパーが搭載される。

実質的にはサーキット専用モデルである「599XX」のロードバージョンである599 GTOは670psを発揮し、標準の599 GTBより約100kg軽量化された結果、0-100km/h加速3.3秒未満、最高速度335km/hを超える性能を実現した。

599 GTOは599 GTBより最高出力は50ps高く、発売当時もっとも速い公道用フェラーリでもあった。マラネッロの隣、「ピスタ・ディ・フィオラーノ」では、ミッドシップのエンツォよりほぼ1秒速く周回する能力を示した。

さらには最高出力の向上にもかかわらず、GTOは「ユーロ5」排出ガス基準を満たしていたうえに、「フェラーリ・コルセ・クリエンティ」管轄の599XXとは異なり、世界各国のあらゆるフェラーリ正規ディーラーでもメンテナンス/サービスが可能とされていた。

フェラーリが新車時からクラシケ認定していた

フェラーリ599 GTOの生産台数は599台に限定され、当時のフェラーリにとってもっとも重要な優良カスタマー向けにのみ販売された。今回「THE BONMONT SALE 2025」オークションに出品されたシャシーNo.「174943」は、2010年10月にローザンヌの「ガレージ・ゼニス(Garage Zenith)」社を介して、スイス連邦に新車として納車された1台である。オーダー時に作成された数多くの魅力的なメーカーオプションのリストは、車両販売時に添付されるファイルに保管されている。

この599 GTOには2021年1月18日、走行距離2万7605kmの時点でフェラーリ代理店「モデナ・カーズ(Modena Cars)」によって押印されたオリジナルのサービスブックレット、同社発行の2021年サービスインボイス、そして重要な「フェラーリ・クラシケ レッドブック」も添付されている。いわゆる「クラシケ」世代でもないのにレッドブックが用意されるのは、この種の限定フェラーリでは、新車の段階ですでに全車クラシケ認定されているからである。

コレクターズアイテムとなるのは必須だがマーケットの評価と売り手の思惑が乖離

フェラーリは599 GTOで稀有なプレゼンスを発揮し、レースコースでも一般道でも同様に興奮をもたらす、真の多目的スーパーカーを生み出したといえよう。この現代のアイコンがコレクターズアイテムとなる未来のクラシックとなることは疑いようのないところで、英国の自動車専門誌「オートカー(AUTOCAR)」が誌面で述べた

「これはフェラーリにとって真のランドマークカーであり、GTOファミリーへの正統な追加であることは疑いようがない」

という結論はいささか大仰ながら、その内容自体に異議を唱える者は少ないだろう。

いっぽうボナムズ社ではこのフェラーリ599 GTOをオークションに出品させるにあたって

「この希少な限定版フェラーリの、しかもほとんど走行していない個体を入手する絶好の機会」

とアピールするとともに、80万スイスフラン〜90万スイスフラン(邦貨換算約1億4800万円〜約1億6700万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

ところが6月29日に行われた競売では思いのほかビッド(入札)が進まなかったようで、競売締め切りの時点で出品者とボナムズ側の協議によって決定されたリザーヴ(最低落札価格)に届くことなく「No Sale(流札)」。現在でもエスティメートと同じ張り出し価格のまま、ボナムズ社営業部門によって継続販売とされている。

じつは599 GTOは、国際的な高級車マーケットでもしばしば見受けられるモデルなのだが、2024年あたりから、どうもオークションなどでも落札に至らないケースが続いているようにも映る。あくまで私見ながら、マーケットの評価は売り手側の見立てよりも、若干冷めつつあるかにも感じられるのだ。

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