第二世代ミニ相場に変化が起きている
2025年7月8日、RMサザビーズ欧州本社はロンドン近郊の壮麗な古城ホテル「クリブデンハウス」を会場に、「Cliveden House 2025」オークションを開催しました。今回注目したのは、第二次世界大戦前モデルを中心とした英国車群のなかで、可愛らしくも異彩を放っていた「オースティン・ミニ1000Mk-II」です。モデルの特徴や歴史、オークション結果を詳しく紹介します。
自動車史に冠たるマスターピースBMCミニMk-IIにおける左ハンドルの希少性
巨匠アレック・イシゴニス博士の最高傑作にして、1960sポップカルチャーの象徴でもあるBMCミニは1967年にアップデートされ、その年の英国モーターショーにおいて発表。歴史的傑作ミニの第二世代として、さまざまなスタイリングの近代化が施された。
ドアヒンジは依然として露出したままだったが、フロントグリルはMk-I時代の丸みを帯びたものから「ローバー・ミニ」時代まで継承されるスクウェアな意匠に再デザインされるとともに、ドライバーの後方視界を拡大するために、より大きなリアウインドウが取りつけられた。
いっぽう、イシゴニス式(エンジン下に変速機を配置)に横置きされるパワーユニットは、BMCの名機「Aタイプ直列4気筒OHVエンジン。排気量はMk-I最終期と同じく848cc(850)、998cc(1000)、そして「クーパーS」用としてパワフルな1275ccが搭載されたが、その一方で「S」のつかない標準型998ccクーパーは廃止。かわって「ミニ1000」がスポーツモデル以外のシリーズ最上位モデルとなり、それ以前にはオプションだった「デラックス」トリムが標準装備されることになった。
ミニMk-IIは1967年から1970年にかけて、その大部分がバーミンガムのロングブリッジ工場を拠点とし、「オースティン」および「モーリス」両ブランドで約42万9000台が生産されたと推定されているのだが、ヨーロッパ大陸および北米市場向けに左ハンドル仕様として製造されたのは、そのうちのほんの一部だけといわれている。
英国で作られた過去の名作の車両履歴を管理する「ブリティッシュ・モーター・インダストリー・ヘリテージ・トラスト(British Motor Industry Heritage Trust)」発行の資料によると、このほどRMサザビーズ「Cliveden House 2025」オークションに出品されたオースティン ミニ1000Mk-IIサルーンは、ロングブリッジ工場から出荷された数少ない左ハンドル仕様のミニのひとつだったのだ。
極寒の北欧で使用されていたが塩害は認められず
1969年1月24日に製造されたこのオースティン ミニ1000は「タータンレッド(Tartan Red)」で塗装されたことは判明しているが、内装の色は記録されていない。
1969年1月27日に工場に出荷されたあと、この個体はブリティッシュ・レイランド(スウェーデン)ABの本社があるゴットランドに送られた。そしてファーストオーナーに引き渡されたあと、このミニ1000はスウェーデンの北極圏付近にて、生涯の大半を過ごしてきたといわれている。
極寒のこの地域では、冬の滑りやすい道路で塩(塩化カルシウム)ではなく砂利を使用する。クルマにとってはより穏やかな融雪方法が採用されていたそうで、フロアパンやボディパネルのチャンネル部など、クラシック・ミニでサビや腐食の起こりやすいとされる箇所に関しても、大きな問題はないと報告されている。
2012年にデンマークで発見されたのち、このミニ1000Mk-IIはすぐに「ザ・ブリティッシュ・アイコンズ・コレクション(The British Icons Collection)」に購入され、2013年に初めて母国イギリスの地を踏む。これまで大規模なレストアを受けた形跡はないものの、現状においてもこのクルマは美しく保たれており、工場指定のタータンレッドのカラーリングと、それにマッチしたフルオリジナルのインテリアを特徴とする。
また、エンジン番号は車両に添付される「ブリティッシュ・モーター・インダストリー・ヘリテージ・トラスト」の証明書に記載された製造記録と一致しているとのことであった。
高騰するBMCの相場が少し沈静傾向なってきた……?
この魅力的なオースティン ミニ1000 Mk-IIについて、RMサザビーズ欧州本社では
「イギリスで製造されたもっとも有名なクルマの稀少な欧州大陸仕様の1台であり、世界中のコレクターから注目を集めることでしょう」
と高らかにアピールするいっぽうで、1万ポンド~1万5000ポンド(邦貨換算約203万円〜304万円)という、ここ数年の国際クラシックカーマーケットにおけるBMCミニ1000MK-IIの相場から比較すると、いささか控えめにも思われるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして7月8日にクリブデンハウスで行われた競売では、エスティメートの範囲内に収まる1万1500英ポンド、現在のレートで日本円に換算すると約230万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。
ひと頃は、1000万円超えの売買事例も多く見られたBMCミニながら、そこまでの高価格で取り引きされるのはMk-IのクーパーSなど、特別な付加価値のあるモデルに限定されていたと記憶している。
とはいえ、MK-II時代の1000スタンダードとて300万円オーバーが多くを占めていたことを思えば、いわゆる「クラシック・ミニ」の市場相場も、少し落ち着いたと見るべきなのかもしれない。
