伝説の427(7リットル)エンジンを搭載した特別な「コルベットC2」
世界最大級の自動車イベント集合体「モントレー・カーウィーク」で開催される最大規模のオークション、RMサザビーズ北米本社主催の「Monterey 2025」が、8月13〜16日にモントレー市内で開催されました。今回はアメリカ車の華、歴代コルベットのなかでももっともアイコニックな2代目「C2」に焦点を当てます。しかも、伝説のビッグブロック427エンジンを搭載した、コルベット愛好家の憧れを詰め込んだような1台でした。その特別な内容と、注目のオークション結果について解説します。
愛妻のためにオプションを満載したC2スティングレイ
エンスージアストの間で「C2」の愛称で知られる第2世代のシボレー コルベットほど、尊敬を集めるモデルは多くないだろう。「C2スティングレイ」の最終イヤーである1967年モデルは、デザイン面とメカニカル面の両方で長年かけて磨き上げられた成果を反映している。
流線型のファストバック型プロフィールにシャープなディテール、そして伝説的なビッグブロックV8エンジンをラインナップに備えた1967年製コルベットは、すべてのコルベットのなかでももっとも希少なモデルのひとつとして認知されている。
今回RMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品された傑出したC2コルベットも、その1967年モデルのひとつだ(ただし生産は1966年)。シャシーNo.104495で、カリフォルニア州ラ・ハブラの「ドン・スティーヴス・シボレー(Don Steves Chevrolet)」社の社主、スティーヴス氏が愛妻への個人的な贈り物として新車オーダーして、1966年11月に完成したと伝えられている。
スティーヴス氏は愛する妻のため、この個体にメーカーオプションを惜しみなく大盤振る舞いしたようだ。とくに注目すべきは、今や伝説の「L68」427立方インチ(約7.0L)V8エンジン。アイコニックな「トライパワー」3連キャブレターを搭載し、メーカー公称値では400ps(SAE値)を発生する。この強力無比なエンジンには、前進2速の「パワーグライド」自動変速機と、最終減速比3.08:1のLSD(リミテッドスリップデフ)付きリアアクスルが組み合わされている。
さらに、メーカー純正のエアコンディショナー、速度警告表示器、テレスコピック式のステアリングコラム、リアエンド出しの「オフロード」排気システム、AM/FMラジオ、当時としては珍しいショルダーハーネス、パワーステアリング、パワーブレーキ、パワーウィンドウも装備されていた、まさに夢のような1967年式C2だった。
数々のコンクールでアワードを受賞した実績と高いオリジナル度
シボレー正規代理店オーナー、スティーヴス氏が愛妻のためにオーダーしたC2コルベット427だったが、ミセス・スティーヴスの用途や嗜好には合わなかったのか、結局夫妻のもとで数ヶ月だけ過ごしたのち、オレゴン州ポートランドの別のシボレー代理店「A.B.スミス・シボレー」社に移管され、すぐに売却されてしまう。
それ後このコルベットは、ポートランドのローズ・シティに1990年代半ばまで留まり、その間に数々のカーショーで成功を収める。数十年間にわたる丁寧な手入れと保存の成果として、シャシーNo.104495は1989年、1991年、1993年の「ナショナル・コルベット・レストアラーズ・ソサエティ(NCRS)トップフライト」賞、および1991年の「NCRSパフォーマンス・ベリフィケーション賞」など、数多くのコンクールで高位アワードを受賞した。そして1996年に、今回のオークション出品者でもある現オーナーの家族が入手したのちにも、そのステータスに相応しい形で大切に維持されてきた。
パワフルなビッグブロックV8の存在感と、それを暗示するパワーバルジ&エアスクープ付きボンネット「スティンガーフード」。あるいは潤沢なファクトリーオプションの数々と、受賞歴のある血統の稀有な組み合わせを特徴とするこの1967年型コルベット・クーペは、持ち前の保存状態の素晴らしさを示すように、エンジンにはまだ工場純正の排気ガス浄化ポンプさえ装着されたままだという。
今回のオークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社はその公式オークションカタログにて
「アメリカンパフォーマンスの頂点としてだけではなく、見識の高いコレクターにとっての卓越した1台」
と自賛しつつ、近年の北米マーケットにおける売買実績からすると順当に思われる12万5000ドル~15万ドル(邦貨換算約1837万円〜2205万円)の予想落札価格を設定した。
そして迎えた8月15日のオークション当日。モントレー市内の大型コンベンションセンター、および今年からは隣接するホテルにも会場を広げて挙行された対面型競売では、順調にビッドが伸びた。終わってみれば予想落札価格の上限の1.6倍にも相当する24万800ドル。現在の為替レートで日本円に換算すれば約3580万円と、なかなかの高価格で競売人のハンマーが鳴らされることになった。
なお、同じ1967年式C2であっても標準のスモールブロック(327立方インチ≒約5.4L)仕様車であればはるかに安価である一方、レースエンジンである「L88」と4速MTを純正搭載したものであれば、少なくともさらに10万ドルは高価になるであろうことも、ここに記しておきたい。
