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生産台数わずか200台!ランチア「デルタHFインテグラーレEvo I」のホモロゲ仕様が2570万円で落札

17万3600ドル(邦貨換算約2570万円)で落札されたランチア「デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネ」(C)Courtesy of RM Sotheby's

EvoIIや限定車よりも価値のあるデルタHFインテグラーレは走行6550km

毎年8月、カリフォルニア州モントレー半島で開催されるモントレー・カーウィークは、世界中の自動車エンスージアストが注目する一大イベントです。そのなかで行われたRMサザビーズのオークションに、ランチア「デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネ」が出品されました。この個体は、なぜ通常のエヴォルツィオーネIIや限定車よりも高値つくほどの評価がされたのでしょうか。その驚くべき背景に迫ります。

ランチアの威信をかけWRC制覇のために絶え間ない進化

ラリーカーの歴史的名作として名高いデルタHFインテグラーレは、FIA「グループA」規定で争われる世界ラリー選手権(WRC)を制覇するために、ランチアと旧アバルト技術陣が開発した特別なモデルである。

コンパクトハッチバックであるデルタの車体に、2L直列4気筒DOHCターボエンジンとフルタイム4WDシステムを搭載したこのモデルは、当初「デルタHF 4WD」として1987年に正式に発売され、デビューシーズンからWRCを制した。翌1988年にはエンジンをさらにチューンアップし、ブリスターフェンダーを与えた「インテグラーレ」へと進化。さらに翌1989年には、1気筒あたり4バルブ化したエンジンを搭載した「インテグラーレ16V」が登場するなど、ラリーでの戦闘力アップのために次々と進化を続け、1990年シーズンまでは圧倒的な強さを見せつけた。

しかし、ワークスチーム「ランチア・スクアドラ・コルセ」としての参戦が最後となった1991年シーズンは、4年連続のシリーズタイトルこそ獲得したものの、トヨタ「セリカGT-FOUR」といった日本のライバル勢に苦戦を強いられた。

そこで、ランチアがセミワークスの「ジョリー・クラブ」を擁して戦うことになった1992年シーズンに向けて、事実上のフルモデルチェンジといえる大規模なモディファイが施された「エヴォルツィオーネ」を生産することになった。

開発を担当したのは、再びアバルト技術陣である。パワーユニットは排気系やターボチャージャーの見直しで16Vから10ps増しの210psとなり、サスペンションもアームの取り付け位置から変更されてストロークが大幅に拡大された。ボディも、前後ブリスターフェンダーが大幅に拡大され、エアインテークが大きく開けられたバンパー、ルーフ後端には大型の角度調整式スポイラーを装着するなど、より実戦的なものへと改良された。

アバルト内部では「SE050」や「デルトーネ(Deltone:大きなデルタ)」と呼ばれていた新型デルタHFインテグラーレ。メーカーの正式な車名からは「16V」の名称が消え、一般的には「エヴォルツィオーネ」の名で親しまれるようになったこの進化型デルタは、1991年秋から生産を開始し、すぐにホモロゲーションを取得。そして、見事1992年のコンストラクターズ(製造者部門)タイトルを獲得し、WRCにおける栄光の6シーズンを締めくくったのである。

「戦う」装備が付いた特別なホモロゲーション用車両

RMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品されたランチア デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネは、1991年12月にイタリアの正規ディーラー「アウト2000」社に新車として引き渡された、イタリア本国市場向けの1台である。史上もっとも象徴的で成功したラリーホモロゲーションカーのひとつでありながら、これまで1度もレストアされていない希少な個体である。

納車されたオーナーは、ディーラー側にすべての保護カバーをそのまま残すよう強く要望した。そのため、アウト2000社の代表であるサンドロ・バルカローリは、ダッシュボードカバーに赤いリップスティックでこう書き記した。

「ビニールシートを剥がすべからず。洗車するべからず。エンジンルーム内のスポンジを取り除くべからず」

ホワイトのボディカラーに、淡いグリーンが美しいパーフォレーテッド(通気孔つき)アルカンターラのインテリアを組み合わせたこのエヴォルツィオーネは、RECARO製純正シート、ボッシュ製ABS、日本のクラリオン製Hi-Fiヘッドユニット、エアコン、分割式後部シートなど、極めて希少な工場指定の装備を搭載している。とくにサンルーフをレスオプションとしたことで、そのパフォーマンス志向がさらに強調されている。

さらに、デルタに詳しいランチア専門家によると、この車両は「エヴォルツィオーネ」のなかでも特別な存在で、わずか200台しか製造されなかった「真の」ホモロゲーション用車両のひとつであるとのこと。過酷な負荷がかかるステージで、ターボチャージャーのインタークーラーを冷却するための専用ウォーターバッグを装備しているというのだ。ほとんどの生産車両はシステムが切断された状態で納車されたが、この個体は生産工場で接続されたウォーターバッグシステムをそのまま保持しており、すべてのホースには1991年の日付が刻印されているという、驚くべき事実が判明した。

タイヤさえ交換されず1991年製を装着

あらゆる意味で、この個体はまさに「タイムカプセル」である。最初のオーナーの家族によって30年以上保管されてきたこのデルタは、現在6550kmしか走行しておらず、驚くほど良好な状態を保っている。メカニカル部分については、ランチア本社が認定したスペシャリストによる包括的なフルサービスを受けている一方、工場で付けられたマーク、塗られたワックス、フロアやドアパネルに残る保護ビニールなど、完全にレストアされていない「オリジナル」の状態を保っている。

しかも、タイヤさえ1991年当時のものをまだ装着しており、いかに慎重に保存されてきたかを物語っている。もちろん、落札者がこのクルマ本来のパフォーマンスで走らせるならば、まずはタイヤ交換が必要になるだろう。

ランチア デルタ HF インテグラーレ エヴォルツィオーネは、20世紀後半のもっとも尊敬されるパフォーマンスアイコンのひとつである。ラリー由来のDNA、卓越したバランス、アナログなドライビング体験を兼ね備え、これほどまでにパフォーマンスと魂を兼ね備えたクルマはほとんどないだろう。とくにこの個体は、希少なファクトリー仕様、完璧なオリジナルコンディション、低走行距離、独自の背景、そして最近の手厚いメンテナンスが組み合わさっており、まさに唯一無二の存在である。

今回のオークション出品に際して、RMサザビーズ社は公式カタログ内で

「現存するエヴォルツィオーネのなかでもっとも優れた1台であり、真剣なコレクターにとって真の宝物」

と自賛しつつ、9万ドルから13万ドルという高額なエスティメート(推定落札価格)を設定した。現在のコレクターズカー市場において、インテグラーレ・エヴォルツィオーネの相場価格は最終型のエヴォルツィオーネIIに比べて安価である。しかも、高値がつきやすい限定モデルでもない通常のスタンダード版として、すでにこのエスティメートの段階から、売り手側の強い自信が見受けられた。

そして、8月15日に行われた競売では、入札(ビッド)が予測を上まわる勢いで進み、最終的にはエスティメート上限をはるかに超える17万3600ドルで落札された。現在の為替レートで日本円に換算すれば約2570万円という驚きの高価格で、競売人のハンマーが鳴らされたのである。

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