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50年前の登録から走行距離わずか340km!デ・トマソ「パンテーラL」が約3630万円で落札

24万6400ドル(邦貨換算約3630万円)で落札されたデ・トマソ「パンテーラL」(C)Courtesy of RM Sotheby's

時間跳躍をしてきたような新車状態のパンテーラL

RMサザビーズ北米本社が8月13日から16日に北米カリフォルニア州モントレー市内で開いたクラシックカーオークション「Monterey 2025」。出品リストには、半世紀以上前に誕生したデ・トマソ「パンテーラL」がありました。しかも、走行距離はわずか340km、塗装やホイール、タイヤに至るまで新車当時の状態を維持する驚異の1台がオークションに登場しました。北米向けとして進化を遂げた「L」モデルは、希少性に加えて保存状態の良さからオークション開始前から注目のモデルでした。

アメリカとヨーロッパのユニットを組み合わせ価格以上のパフォーマンスを実現

デ・トマソ パンテーラは、1970年3月にイタリアのモデナ市内でデビューし、数週間後の1970年ニューヨーク・モーターショーで発表。ジャンパオロ・ダラーラを筆頭とするイタリアの自動車テクノロジーの最先端を行くインジェニェーレ(エンジニア)たち、およびトム・チャーダが指揮する「カロッツェリア・ギア」の手によって開発され、モデナのデ・トマソ本社工場で製造された。アメリカ市場では主に「リンカーン」および「マーキュリー」のフォード販売ネットワークを通じて販売され、メーカー保証も用意されていた。

パンテーラは、信頼性の高さで知られるフォード製の351立方インチ(約5.8L)「クリーブランド」V8エンジンとZF社製5速トランスアクスル、パワーアシスト付き4輪ディスクブレーキ、ラック&ピニオン式ステアリングといったアメリカとヨーロッパのパフォーマンス機能と組み合わせた。これらすべてをエキゾチックなボディワークで包み込み、パワーウィンドウやエアコンなどのアメリカンスタイルの快適性も備えていた。

これは当時としてはコストパフォーマンスを含めて世界最良の要素を約束したもので、同等の動力性能を有するフェラーリやランボルギーニよりも大幅に安価とされた。そして、長期間にわたって複数のバリエーションが生産されることになるが、アメリカ人にとってもっとも馴染み深いのは、北米マーケット向けに詳細な変更を加えた第二世代のパンテーラLだろう。

「L」は高級を意味する「ルッソ(Lusso)」のイニシャルだ。1972年8月に「1972 1/2モデル」として登場したパンテーラLは、カリフォルニア州を皮切りに施行されようとしていた排ガス対策に対応すべく、圧縮比を下げ、5400rpmで264psをマークする専用チューンのクリーブランドV8エンジンが採用された。

エクステリアでは、それまでの左右分割スタイルの小さなフロントバンパーに代えて、黒い一体式の大型バンパーが北米独自に採用された(それ以外の地域向けは未採用)。いわゆる「5マイルバンパー」のようなボディラインを無視した武骨なものではなく、高速走行時のフロントエンドの揚力を低減するエアフォイルを兼ねたスタイルだ。同じトム・チャーダがピニンファリーナ時代に手がけたフィアット「124スパイダー」のテールラインを思わせる、手の込んだスタイリッシュなデザインが与えられることになった。

また「L」モデルには生産段階から多くのアップグレードとアップデートが施され、それ以前のパンテーラで発生していたフィッティングの不具合などの問題が、大幅に修正されたともいわれている。

50年間の通算走行距離はわずか340km

こうして、アメリカ市場の法制度とテイストに合わせて独自のモディファイが施された米国市場向け「パンテーラL」だが、フォード・グループのセールス方針転換に合わせて、1975年をもってフォード販売網での販売は中止。結果として、北米独自のアップデートが施されたパンテーラLは、きわめてレアなモデルとなってしまった。

「Monterey 2025」オークションに出品されたパンテーラLは、その希少かつ人気の高いモデルの、もっとも良好な保存状態の1台といえるだろう。公式オークションカタログ作成時点での走行距離は、新車時から213マイル(約340km)に過ぎず、この驚異的な保存状態のデ・トマソは、オリジナル塗装も全体に維持している。さらに、オリジナルの15インチ「カンパニョーロ(Campagnolo)」社製マグネシウムホイールと「グッドイヤー・アリーヴァ(Goodyear Arriva)」タイヤのセットが残されているのは驚きに値する。ただし、このオークションで落札者が今後このクルマを公道で走らせるなら、タイヤを交換する必要はあるだろう。

アメリカ合衆国およびカナダにおける、1967年から2020年までのフォード車の車両履歴を照会できる「デラックス・マルティ(Deluxe Marti)」レポートによると、このパンテーラLは1975年2月27日にノースカロライナ州グリーンズボロの「リース・リンカーン・マーキュリー(Leith Lincoln-Mercury)」社によって、新車として販売された。

新車としてオーダーされた、オリジナルのホワイトの塗装と黒のレザレット(ビニールレザー)内装を現在でも維持。新車時からエアコン、パワーウィンドウ、パワーブレーキ、フルインストルメント、スモークガラスなど、ファンの間では望ましいとされる装備を満載している。

2003年の時点で、このパンテーラLはジョージア州のコレクターが所有しており、その時点での前所有者の車検証には、オドメーターが98マイル(約157km)を示していたことが記されている。それからの数年間、この個体は複数の著名なディーラーの間を移動し、2008年8月のRMオークション「Monterey 2008」にて売却された際にも、オドメーターはやっと3桁に届いた程度とのことだ。

今後はコンクール・デレガンスのノンレストア部門を総なめする?

2011年7月、太平洋北西部のプライベートなファミリーコレクションが、この注目すべきデ・トマソ・パンテーラLを、137マイル(約219km)の走行距離を記した段階で取得。それ以後、15年以上にわたる所有期間中、オドメーターに追加されたマイレージは、慎重に走行された76マイル(約121km)のみとされている。

現時点においては、純正のツールロール、オリジナルホイールとタイヤ(未使用のスペアタイヤを含む)、デラックス・マルティ・レポートを含むヒストリーファイルが車両に付属している。

この、半世紀前からタイムリープしてきたようなデ・トマソ パンテーラLについて、RMサザビーズ北米本社は15万ドルから20万ドル(邦貨換算約2190万円〜2920万円)という、同時代のパンテーラとしては自信ありげなエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

そして迎えた8月16日のオークション当日。モントレー市内の大型コンベンションセンター、および今年からは隣接するホテルにも会場を広げて挙行された対面型競売では、ビッド(入札)が順調に伸び、終わってみればエスティメートをはるかに超える24万6400ドル。現在の為替レートで日本円に換算すれば約3630万円で、壇上に立つ競売人のハンマーが鳴らされた。

RMサザビーズは公式オークションカタログで、このパンテーラLについて

「保存状態の良い自動車への評価は、近年、コンクール審査員や一般のエンスージアストの間でますます高まっています。この驚くほどオリジナルなデ・トマソは、展示や鑑賞に値する素晴らしい1台となることでしょう」

と自賛しているが、筆者も概ね賛同だ。

たとえば来年のモントレー・カーウィーク「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」にて、ノンレストア車両で競われる「プリザーヴド」部門に現れたとしても、きっと驚くことはないだろう。

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