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“赤い悪魔”と呼ばれたアウディ「スポーツ クワトロ」が約9464万円で落札

64万3000ドル(邦貨換算約9464万円)で落札されたアウディ「スポーツクワトロ」(C)Courtesy of RM Sotheby's

パイクスピーク参戦のきっかけとなった「レッドデビル」

1980年、アウディが世界で初めて市販車に採用したフルタイム4WDシステムは、モータースポーツの歴史を変えた技術でした。その技術を搭載した「クワトロ」の進化版として登場した「スポーツ クワトロ」は、WRCでの勝利を目指して開発されたモデルです。2025年8月13日-16日に開催したRMサザビーズのオークションに出品されたのは、パイクスピーク参戦で名をはせた「レッドデビル」。その車両のあらましとオークション結果についてお伝えします。

WRC制覇を目指したアウディが投入したフルタイム4WDシステム

現在ではロード・モデルの多くに採用されているフルタイム4WDという駆動方式だが、それを世界で初めて市販車に導入したのは、当時は正確にはアウディNSUアウトウニオンという社名だったアウディである。そのフルタイム4WDシステムを搭載した市販車が1980年に発表した「クワトロ」だ。

直線的なボディデザインは「クーペ」がベースだったものの、最高出力200psを発揮する2.1Lの直列5気筒ターボエンジンや、独立式のリアサスペンションの採用など、クワトロが意味するセンターデフ方式の4WDシステムのほかにも、アウディはさまざまな新技術をこのクルマで展開した。

アウディがクワトロを開発した背景のひとつには、世界ラリー選手権(WRC)の制覇があった。1980年代のWRCといえば、その主役はグループ4からグループB、そしてグループAの各規定を満たす車両へと変化していったことは、モータースポーツのファンにはよく知られているところである。

アウディはそれまでWRCでは禁止されていた4WDの駆動方式をFIAに認めさせたうえで、1981年からグループ4規定に準じたクワトロでWRCに参戦した。翌1982年には早くもメイクス・タイトルを獲得すると、1983年からはグループB車両の「クワトロA1」と「クワトロA2」を投入し、ハンヌ・ミッコラをドライバーズ・チャンピオンシップに導いている。

ホイールベースを310mm短縮したWRCホモロゲ車両「スポーツ クワトロ」

今回RMサザビーズのモントレー・オークションに出品された「スポーツ クワトロ」は、WRCでの戦闘力をさらに高めるために開発されたモデルだ。そのエンジニアリングで基本コンセプトとされたのは、搭載エンジンをより強化することと、ボディの小型軽量化である。

エンジンは新設計の2.1Lの直列5気筒DOHC20バルブに変更された。同時にターボチャージャーの大型化などによって、最高出力は市販モデルでも300psを発揮するまでになった。

ホイールベースはそれまでのクワトロから一気に320mmも短縮され、したがってそれまで備わっていたリアシートは、このスポーツ クワトロには存在しない。ボディパネルの多くは樹脂とケブラーの複合素材で成型されており、ホイール幅が拡大されたために、前後フェンダーはよりワイドなデザインに改められた。

アウディはこのスポーツ クワトロを、グループB車両のホモロゲーションを満たすために214台生産したが、このうち実際にカスタマーに販売されたのは164台のみである。20台はWRC参戦用に改造され、そのほかは実験車としてアウディ自身が所有した。

435馬力のチューンドエンジンを搭載した伝説の「レッドデビル」

クワトロ、そしてスポーツ クワトロの活躍によって確立されたアウディのスポーティなブランド・イメージは、WRCに並行してさらにアメリカでのモータースポーツ参戦が始まったことで、より強固なものになる。

そのきっかけとなったのは、ミネソタ州のチャンハッセンに在住するレーサーであり、また北米のアウディ・クラブ創設者でもあるフランク・ベドール・ジュニア氏からアウディの本社に届けられた一通の手紙だった。

氏は1985年のパイクスピーク国際ヒルクライムに、ファクトリードライバーが駆るスポーツ クワトロを緊急参戦させることを提案した。その一方で、自らとその妻、そして3人の息子のために合計5台のスポーツ クワトロをアウディから提供させ、その対価としてさまざまなモータースポーツ・イベントにおいて、アウディのレーシング・スピリットを体現してみせることを約束したのだ。

「レッドデビル」という愛称で呼ばれる出品車のスポーツ クワトロはそのなかの1台である。1986年から1998年にかけて末息子のデイビッド・ベドールによって、もっとも大きな成功を収めたモデルだ。

レッドデビルが伝説のスポーツ クワトロとされるもうひとつの理由は、アウディ・スポーツの伝説的なエンジン・ビルダー、ハインツ・レーマンによる徹底したエンジンチューニングの手によって、搭載される直列5気筒ターボエンジンが435psにまで強化されていたことだった。

RMサザビーズはこのような事情も考慮して、このレッドデビルに40万ドル~50万ドル(邦貨換算約5887万円~7359万円)の予想落札価格を提示した。しかし入札はその数字を超えても止まることはなかった。最終的にハンマーが振り下ろされた時に示されていた価格は64万3000ドル(邦貨換算約9464万円)である。それは誰もが驚愕するリザルトだったに違いない。

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