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FRスポーツの真価とは?アストンマーティン新型「ヴァンテージ」&「ヴァンキッシュ」を乗り比べ

アストンマーティン ヴァンキッシュ:極上のV12エンジンを思う存分に味わうためのクルマとさえ思えてしまう

V8ターボにもV12ターボにも通好みの上質FR・GTらしさが宿る

アストンマーティンが誇るフロントエンジンのGTカーが、新たな進化を遂げました。今回試乗したのは、最新の「ヴァンテージ ロードスター」と、フラッグシップとなる「ヴァンキッシュ」。どちらも圧倒的なパフォーマンスと伝統に裏打ちされた美しいデザインを両立しています。短時間の試乗ながらも、その走りの質感やエンジンフィール、そしてアストンマーティンらしいこだわりを強く感じることができました。

伝統のFRレイアウトながらもかつてのハイパーカー並みのパフォーマンス

SUVの「DBX」シリーズやミッドシップ・スーパースポーツの「ヴァルハラ」が登場しようとも、アストンマーティンの保守本流はFRのグランドツーリング(GT)カーである。

2024年秋に概要とオフィシャルフォトが公表された、アストンマーティン量産GTのフラッグシップ「ヴァンキッシュ」は、今夏あたりから日本国内でも本格的な正規導入がスタートしたようだ。さらに、2025年1月に初公開された「ヴァンテージ ロードスター」も、新型ヴァンキッシュとほぼ時を同じくして国内デリバリーが始まった。

アストンマーティンの実質的エントリーモデルであり、ヴァルハラ登場まではもっともスポーティな量産モデルの役割も担っていたのが「ヴァンテージ」だ。前世紀に作られたふたつの「V8ヴァンテージ」から車名を引き継ぐかたちで2005年に発売された。2018年にフルリニューアルした第2世代へと進化し、2024年2月には大規模マイナーチェンジ版ともいうべき最新世代へと到達した。そして2025年1月には、従来型と同じくロードスターも追加設定された。

パワーユニットは従来型と同様、独AMGから供給を受ける4L V型8気筒ツインターボだ。ターボチャージャーの大型化、カムシャフトプロファイルの見直し、圧縮比の最適化などのブラッシュアップにより、最高出力は従来型に比べ155psアップの665ps、最大トルクは115Nmアップの800Nmとなった。

0-97km/h(0-60mph)加速は3.5秒、最高速度は323km/hという目覚ましいパフォーマンスを発揮する。パワーアップで増加した熱への対策も兼ねて、ラジエーターグリルなどが大型化された。これにより、リアルスポーツに相応しい、迫力を増したマスクとなっている。

いっぽう、3代目となったヴァンキッシュは、「DBSスーパーレッジェーラ」に代わってFRアストンの最上機種の座に就いた超高性能12気筒GTである。

1960年代初頭に開発された試作車「DP214/DP215」を彷彿とさせる「カムテール」スタイルを採用する。総カーボンファイバー製(トランクリッド除く)のボディ内側には、最高出力835ps、最大トルク1000Nmを発生するアストンマーティン ラゴンダ自社製5.2L V型12気筒ツインターボエンジンを搭載する。最高速度は345km/h、0-100km/h加速タイムは3.3秒と、ひと昔前ならばハイパーカー級とも言える動力性能を獲得している。

サスペンションは、「ヴァンテージ」および「ヴァンキッシュ」ともに、最新のパッケージで構成されている。フロントにはレースカーから着想を得たという不等長ダブルウィッシュボーンとコイル、リアにはマルチリンク式アクスルとコイルを採用する。とくにビルシュタイン社製「DTXアダプティブダンパー」は、帯域幅が500%向上し、制御範囲と応答速度が飛躍的に進化したうえ、ダンパーの精密な調整により路面の凹凸を巧みに捉える。

GTとしての濃度を高めたアストンマーティンの世界観

新型ヴァンテージ ロードスターでは、コンソールに配置されたダイヤルで操作する走行モードが従来の「SPORTS」「SPORTS+」「TRACK」「WET」に加え、インディビジュアルを加えた計5モードとなった。

まずはデフォルトである「SPORTS」モードでスタートした。さすがに街中で665psを開放することはできないが、スムースなトルクの盛り上がりにその片鱗は感じられた。

基本設計を共用するメルセデスAMGのV8ツインターボエンジンがドロドロ音を強調した、やや露悪的なワイルド系エキゾーストノートを放出するのに対して、ヴァンテージのサウンドは異なる。約60年前にタデック・マレック技師が設計した古き良きアストンV8を連想させるサウンドだ。往年の自動車雑誌の表現を借りるなら、「木管楽器的に」スウィートな咆哮を聴かせてくれる。

しかし、エンジンの情感を評価軸とするならば、ヴァンキッシュのV12ツインターボユニットは1枚上である。ダイヤルを回し、デフォルトの「GT」モードから「SPORTS」ないしは「SPORTS+」モードに切り替えると、レスポンスもまるで自然吸気エンジンのようにシャープになる。排気音もじつに魅惑的だ。

最新のフェラーリのようなモダンなV12サウンドというより、前世紀のV12エンジンのような野太い咆哮だ。スロットルを撫でるように踏むだけで、レスポンシブにトルクが爆発するとともに、伝統的なV12のバリトンを朗々と聴かせてくる。新型ヴァンキッシュは、極上のV12エンジンを思う存分に味わうためのクルマとさえ思えてしまう。

今回の試乗は都心でのショートドライブだったため、2台ともにエンジンフィールに主眼を置いたインプレッションとなった。しかし、当代最新のアストンマーティンGTたちは、シャシー性能についても出色のできばえを示してくれた。

先代の「ヴァンテージ」および「DBSスーパーレッジェーラ」は、以前のアストンと比べるとかなり軽快感を意識し、このクラスとしてはアジリティ志向の高いモデルであるように感じられた。ところが新世代の2台は、ともにDTXアダプティブダンパーの効用もあってか、驚くほどに乗り心地が良い。さらにハンドリングも、デフォルトのモードでは格段にしっとりとナチュラルだ。そのうえ「SPORTS+」モードにすると、ともに先代モデルと同レベルのリアルスポーツ的なアジリティを披露する。

唯一、筆者の好みに合わなかった点を挙げるなら、ステアリングリムが平均的な日本人の掌には明らかに太すぎることだ。せっかくの繊細で正確なステアフィールを少しばかり損ねているように感じられた。しかし、それも敢えて重箱の隅をつつけば、という程度の問題である。

この2台の素晴らしき英国製GT双方に共通して言えるのは、次の点だ。

ユーティリティを求める顧客のための「DBX」シリーズや、走りのパフォーマンスにすべてを注入できる「ヴァルハラ」の登場により、アストンの保守本流である上質なグランドトゥアラーとしての本分を、より明確に追求できるようになった成果である。さらに、その伝統とキャラクターを今一度追求したことにより、「子供にゃ分かるまい」と言いたくなるような、豪快ながら滋味深いアストンマーティンの世界観を堅持している。

主たる購買層の変遷により、超高級車の世界であっても「分かりやすさ」が求められる現代にあって、このようなコニサー(通人)好みのグランドトゥアラーを最新機種としてラインナップの最前線に置くアストンマーティンの、矜持のようなものを感じさせてくれた。

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