初参戦で実感したタイムラリーの奥深さ
スポーツには観戦・参戦など楽しみ方はいろいろあります。クルマを使ったモータースポーツにもさまざまなジャンルがあり、F1、WRCなど世に言う世界最高峰な競技もあります。これらに比べるとデイラリーはいちばん気軽に参戦できる草の根モータースポーツです。生活するための道(=公道)を舞台にして、普段使いのマイカーで、競技ライセンスも不要なので誰でも参加できます。それでもJAF公認の競技で、関東デイラリーシリーズ第4戦となる、2025年9月7日(日)に栃木県で開催された「第51回ソネット・ラリー in 日光」には、ミュージシャンの山本雅也さんがドライバーとして初参加していました。デイラリーのインプレッションを聞いてみました。
日常使いのマイカーで参加できる草の根モータースポーツ
「クルマがけっこう好きなんです」
と言う山本雅也さんは、マツダのスポーツカーであるRX-8を所有し、日常のアシとして乗りまわしているとのこと。ロータリーエンジンで観音開きの4ドアボディを持つRX-8を愛するとは、それなりの個性派に違いないと思えてしまうプロフェッショナルのシンガーソングライター。さらに全国骨髄バンク推進連絡協議会の公式アンバサダーでもある方です。
音楽界にうとい筆者がYouTubeで山本さんの代表的な歌を探り、そのひとつ、映画『春の香り』主題歌「ハルカ」を拝聴してみると、澄み渡るクリアな声調で我が心髄が揺るがされてしまうほどのものでした。
RX-8オーナーが選んだデビュー戦の相棒は母のインプレッサ
今回のデイラリーは、母親のマイカーであるスバル・インプレッサ4ドアセダンを借用して参戦したとのこと。全国どこからでも参戦できる関東デイラリー。車両ナンバーを見て青森県からの遠征かと思えばさにあらず、山本さんの出身地を表していただけのことでした。なぜに母親のクルマ、インプレッサでデビュー戦かと聞くまでもなく、どんなクルマでも参加できるデイラリーなので、インプレッサセダンでも自然な流れを感じさせられてしまうのでした。
「まったく普通の乗用車ですけど、青森で雪道や峠はこれで走ってもいたので、やはりインプレッサ。もう今日は(安全に行きます)ということが優先ですから」
減点される時間の単位が寛容な初心者に開かれたCクラス
デイラリーは第1種アベレージラリーというもので、競技ルートの区間区間を、主催者から指示されたアベレージ速度(指示速度)走行を完璧に遂行できるかどうかを競い合います。山本さんの参戦クラスは、ラリー初心者に広く開かれたCクラス。アベレージ走行の競技を補助してくれるナビゲーションコンピューターがクルマに搭載されていてもいなくてもかまわず、減点の基準も指示アベレージ速度からの差異が1秒単位ではなく、10秒の単位で減点1となるという寛容なレギュレーションのクラスです。
日光の林道と県道を走破!ベテランナビゲーターの指示で見事優勝
第51回ソネット・ラリー in 日光では、栃木県日光大室界隈を、総距離150kmほど走り抜けました。スタート地点となった高龗(たかお)神社に再び戻ってきてゴールした山本さんは、なんとクラス優勝、デビューウィンを遂げることに。 「峠道の走りも楽しかったです。僕にとってはラリー競技初参戦ですが、ナビゲーターには実績ある亀山さんがついてくれていたので、自分は走りに専念するだけでしたから」
「広い県道の舗装されたワインディングには36km/hのアベレージ区間もありました。速度指示を受けながら、ドライバーも気分よく走っていたようです」
とは、ナビの亀山伸一さん。
今回のデイラリーには、アベレージ速度30数km/hで走る広く整った優良舗装の県道や、速度20km/hほどの低い指示速度で走る、くねくねした狭く湿った林道などがありました。主催者に指示された速度でクルーたちがルートを正確に走れているかどうかをチェックする、タイム計測の地点CP(チェックポイント)が現れるまでの距離が、おおむね林道は長めで県道ターマックルートは短めだったとのこと。このコース設定に妙があり、いっそう気が抜けない走行スピード維持の厳しさにつながっていたようです。
ミスコースも笑い話に!6分のロスを取り戻す
関東デイラリーシリーズ戦のなかでも、長い林道が盛り込まれ、走行総距離も長いという特徴があった今回のソネット・ラリー。ドライバーもナビも共に、緩急差のある指示スピードを路面状況の違いにもめげずにこなし続けてゆく、デイラリー競技ならではの厳しさを楽しく味わっていたわけです。
「じつはミスコースして6分ほど遅れてしまったこともあり、取り戻すことも大変でした」
という局面を明かす山本さん。それだけに、安全に走りきり挽回していった達成感はひとしおです。
「私のミスでした。コマ図に表示されている進行方向を理解しているにもかかわらず、誤ってはいけない方向が(左)だと分かっていながら、なぜか(左!)と伝えてしまっていたんです。入り込んでしまった道が……」とナビの亀山さん。すぐさま「そしたら凄〜い道でしたよお、進めば進むほどに草木がぼうぼうで!」
と山本さん。ラリードラマ渦なかの失敗談を、ふたりは爆笑しあっていました。
「まずはちゃんと止まって、落ち着いて考えて」
リカバリーへの指示を出した亀山さん。運良く次のCPまでの距離が長かったので、遅れを取り戻す挽回を遂げ、減点を回避したのです。
「ひとりではできない」音楽家が感じたラリーの魅力
「競技ですからみんなと走っている、だから楽しいんですね。ひとりでドライブするのと違いコドライバーもいるし、他の参加チームもいる。イベント前夜の宿泊先で(みんなでワイワイ)もあったり。音楽では作詞、作曲から歌うことまですべて自分ひとりです。スポーツでは以前やっていた空手も個人競技でした。でもラリーってひとりではできない競技、団体戦のようなものが感じられます。それがとても楽しいんです。山道をタイムアタックできますよと言われても、おそらくひとりでは走ろうとは思わないでしょう」
仕事柄、ひとりで作詞・作曲・演奏・歌唱する山本さんならではの、ラリーの走りとは何かを語るデイラリー参戦の第一印象でした。
気軽に普段使いのクルマでも参加でき、エントリー料金も1台2万〜3万円ほどと安く、完走後はJAFの発行する競技ライセンスも申請取得できるデイラリーには、みんなで楽しめるモータースポーツの様相がそこかしこに垣間見られました。
