WRCの活躍でスバル好きを魅了したWRX STI
イギリスの老舗オークションハウス「アイコニック・オークショネアズ」が主催するオークションは、クラシックカーから現行車まで、さまざまな車種が出品されることで知られています。2025年11月8日のNECクラシックモーターショーで開催されたオークションには、WRC(世界ラリー選手権)で成功を収めたスバル「インプレッサWRX」の2代目(GDB型)の英国専用スペシャルモデルが登場し、注目を集めました。ここでは、このモデルが歩んできた歴史を振り返るとともに、気になるオークションの結果について紹介しましょう。
歴代WRXシリーズでもっとも変更が多かった2代目
インプレッサは1992年にデビューしたCセグメントの世界戦略車でありながら、WRCを制覇するために開発されたスーパーウェポンという側面を持つモデルである。高性能4WDとして定評のあったレガシィのコンポーネンツを、よりコンパクトなボディに搭載することで戦闘能力を高めた。WRXというネーミングが与えられた初代のスポーツセダンは、1995年から3年連続でスバルをマニファクチャラーズ(メーカー)タイトルへと導き、その名を世界のクルマ好きを魅了する存在へと押し上げた、まさにエポックメイキングな1台であった。
その輝かしい歴史を引き継ぐ形で2000年に登場した2代目のGD型は、5世代にわたるWRXの歴史で、もっとも変革が多かったモデルとしてファンのなかで認知されている。前期、中期、後期で大胆なフェイスチェンジが行われ、前期が「丸目」、中期が「涙目」、後期が「鷹目」と呼ばれ、それぞれのモデルに愛好家が存在するのが特徴だ。前期型の愛らしい丸目顔が不評であったとはいえ、1世代の間に3度も顔が刷新される例は極めて異例である。これをスバルの良心と捉えるのか、あるいは商売が下手とみるか、その評価は皆さんに委ねることとしたい。
大幅にポテンシャルアップを果たしたが重量増がネックに
GD型のWRX STIは、初代のウィークポイントであったボディ剛性の向上を図り、ブリスターフェンダーの装着によりボディは3ナンバー化。さらに6速MTの採用など、総合的なポテンシャルの底上げが行われた。一方で、車重が初代GC8型比で150kg以上増え、軽快なハンドリングがややスポイルされてしまうというデメリットも生んだ。その対策として用意されたのが、軽量化を追求したコンペティションモデルのWRX STI type RA spec Cであり、GD型の進化の歴史はここから始まったと言っても過言ではない。
2002年11月に登場した中期型では、ピストン、コンロッド、クランクなどムービングパーツを強化。タービンのツインスクロール化による低速域のトルクアップと、等長エキゾーストの採用による排気干渉の改善で優れたレスポンスを実現した。これに合わせてトランスミッションも強度アップと軽量化が施され、操作性を高めている。
さらに2004年には、PCDを100mmから114.3mmへと拡大するとともにハブベアリングも大型化し、足まわりの強度と耐久性が高められた。タイヤサイズも225mmから235mmへ変更され、それに伴いリヤフェンダー形状を幅広化するなど、細部に至るまで改良が加えられた。
出品されたのは英国における2Lターボ最終モデルの2005年式中期型
後期型へのマイナーチェンジは2005年6月。エンジンは制御系を見直すことで、トルクは1kg-mアップの43.0kg-mまで到達した。さらにルーフ後端にルーフベーンを装着するとともに、リヤウイングの形状を見直し、DCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)にトルク感応型機械式LSDを追加。より緻密なトルク配分制御を可能とするなど、空力や駆動系にもメスが入れられ熟成が進んだ。走行性能、信頼性の両面で完成度を高め、スピードメーターが260km/hスケールとなったのもトピックだ。
WRCの舞台では、初代GC8のようなマニファクチャラーズタイトル獲得は叶わなかったものの、2001年にはリチャード・バーンズが、2003年にはペター・ソルベルグがドライバーズチャンピオンに輝くなど、欠かせない存在として長年活躍。2代目インプレッサはスバルブランドの地位を押し上げる立役者として貢献した。
今回オークションに出品されたのは、「涙目」と呼ばれる中期型の2005年式モデルである。後期型から英国仕様のエンジンは2.5Lとなるため、WRC直系の2Lターボエンジンを搭載する最終型となる。また、日本からの並行輸入ではなく、イギリス仕様(タイプUK)として正規輸入されたSTIモデルだ。
PPPパッケージに低走行のフルオリジナル!希少性に期待が高まったが…
特筆すべきは、日本仕様には設定のない「プロドライブ・パフォーマンス・パック(PPP)」を標準装着している点だ。エンジンマネジメントの変更とスポーツマフラー、そしてパフォーマンスアップに対応する大容量燃料ポンプの組み合わせにより、スタンダードの262bhpから301bhpまで出力が向上している。中期型最終期の特徴であるワイド化されたリヤフェンダーを備えるモデルであることも、希少性を高める要素となっている。
走行距離はわずか1万8000マイル(約2万9000km)強。新車からのメンテナンス記録とPPPを施工した証明書も付属する。長年スバル愛好家の手によって、手が加えられることなく大切に維持され、内外装は20年前の個体とは思えないほどコンディションも良好だ。
希少な特別仕様であること、フルオリジナル、さらに低走行、状態の良さを含めて条件が揃っていることから、アイコニック・オークショネアズのエスティメート(推定落札価格)は、強気の3万2000ポンド〜3万8000ポンド(邦貨換算約674万円〜801万円)を提示していた。しかし残念ながら今回のオークションでは、入札が最低落札価格には届かず、流札という結果に終わっている。
近年、海外市場では一部の例外を除き、日本のネオクラシックカーはすでにコレクターに行き渡ってしまったのか、流札が目立つ傾向にある。スバルに関しても、Sシリーズのような生産台数の限られたSTIコンプリートカーでなければ、投資家やコレクターの関心を引きにくくなっているのかもしれない。
