国内のみならず海外でも人気のAE86
2025年11月8日、英国の名門オークションハウス「アイコニック・オークショネアズ」が主催する「The Iconic Sale at NEC Classic Motor Show 2025」が開催され、1970年代〜1990年代を彩ったJDMマシンが数多く出品されました。そのなかから今回注目するのは、世界的にも“ハチロク”の愛称で知られるトヨタAE86型「カローラ レビン」です。ボディのフルレストアが施された極上のコンディションを保つ個体は、いったいいくらの評価を受けたのでしょうか。車両概要とオークション結果についてお伝えします。
FRを守り抜いた最後のカローラレビン
5代目カローラのスポーツモデルとして1983年に発売されたカローラ レビン。主力となるセダン系モデルが、当時のコンパクトカーの潮流に合わせてこれまでのFR(後輪駆動)からFF(前輪駆動)となるなか、スポーツモデルのみがFRレイアウトを継承した。カローラの長い歴史のなかでも、FFとFRが混在する稀有な世代である。
プラットフォームは先代の70系を踏襲しつつ、エンジンには「レーザーα」と呼ばれた新世代の1.6Lツインカム16バルブユニット「4A-GEU」型を搭載。130ps/15.2kg-m(グロス値)を発生し、発売当初は1.6Lクラス最強の出力を誇った。アイドリングからレブリミットまでわずか0.98秒というハイレスポンスも大きな魅力だった。さらに、エンジン重量も123kgに抑えられ、先代モデルよりも30kg程度の軽量化を達成。スポーツカーとしての資質を大きく高めた。
現在では歴代シリーズのなかでも圧倒的な人気を誇るハチロクだが、販売台数を見れば最終型のAE111型の次に少なく、決して成功作とは言えない(もっとも売れたのは初のFFモデルであるAE92)。当時の自動車雑誌を見返しても「エンジンこそ一級品だが、旧態依然としたシャシーが足を引っ張り、限界域の性能はFFのライバル車に見劣りしている」といった評価であった。
カー漫画「頭文字D」人気で加速する価格高騰
その評価が一変したのは、レビン/トレノがFF化されて以降のことだ。絶対的な限界性能こそ高くないものの、適切な操作をすればドライバーの意思に忠実に応えてくれるハンドリングが再評価され、ドライビングスキルを磨くためのエントリーモデルとして注目を集めるようになる。中古車相場も低く抑えられていたこともあり、多くの走り屋に愛用され、「ハチロクで腕を磨いた」というレーシングドライバーも少なくない。
現在のように高値で取引されるようになった要因は、カー漫画の金字塔である「頭文字(イニシャル)D」の影響だろう。FRのライトウェイトスポーツが格上のマシンを次々と打ち破るシーンにクルマ好きは魅了され、ハチロクは一種の神格化された存在となった。
こうして脚光を浴びたことで「頭文字D」仕様のハチロクを手に入れたいという声はいまなお根強く、程度のいい個体は日本国内でも500万円を軽く超えている。10万〜15万円程度で購入でき、壊れたら即廃車にしていた時代を知る世代にとっては、まさに隔世の感がある。
3万5000〜4万5000ポンド(約740万円〜約950万円)の落札を予想
海外市場でも同様で、イギリスにおいてもAE86はJDMの王道モデルとして高い人気を誇る。過去には正規輸入されていたが、圧倒的に数が少なく、最盛期は日本から数多くのレビン/トレノが持ち込まれ、20年以上前のクルマが当時の新車価格を上まわる水準で取引されていた。現在はやや落ち着いたとはいえ、コレクターからの需要はいまだ衰えていない。
今回出品されたのは1986年式の後期型レビン。2010年に日本からイギリスへ渡り、英国仕様へとアップデートが施されている。エンジンは日本では定番と言える次世代のAE92用に換装され、オリジナルの雰囲気を保ちながら10psほど出力が向上している。2022年にはボディのフルレストアを実施。ダイハツのブラックメタリックにオールペンされ、内外装ともに徹底的なリフレッシュが行われた。施工後の走行距離はわずか2500マイル(約4000km)で、新車のような佇まいをキープしているのも魅力的だ。足元には英国レボリューション製の13インチホイールをインストール。クラシカルな4本十字スポークとディープリムデザインは、ハチロクのノスタルジーな雰囲気とマッチしている。
さらにDHオートにて念入りに整備が行われ、MOT検査も通過。公道で安心して走らせる準備を整えての出品であった。アイコニック・オークショネアズはこの整備の行き届いた希少なFRライトウェイトスポーツカーに、3万5000ポンド〜4万5000ポンド(約740万円〜約950万円)のエスティメート(推定落札価格)を掲げた。
オリジナルとの整合性のない仕上がりがマイナス評価に……
しかし、11月8日のオークションでは予想していたほどのビット(入札)は伸びず、結局最低落札価格に達しないまま流札という結果に終わった。
これは推測となるが、落札に至らなかった理由がいくつか考えられる。シリーズに設定のないブラックメタリックへのオールペイントもさることながら、何より外観がオリジナル仕様に対して差異があったことが大きい。内装にオプションのパワーウインドウが備わることから、グレードは最上級のGT-APEXと推測できるが、フロントグリルはスポーツグレードのGTV、もしくはエントリーグレードのGT用。リアのコンビネーションランプに至っては、前期型のものが取り付けられていた。
いずれも交換可能な部分ではあるが、こうした正規とは異なるパーツの組み合わせは、コレクター色の強いオークションでは一般的にマイナス評価につながりやすい。また、各部に腐食が見られるエンジンルームも同様で、これでは高額での落札は期待できない。内外装のコンディションが素晴らしいだけに、ツメの甘さが惜しまれる1台だ。細部を修正するだけでも評価は大きく変わるはずであり、今後の再出品に期待したい。
