ツーリングカーレースにおけるグループA時代の絶対王者
英国人エンスージアストがもっとも愛してやまないブランドといえば、英国フォードでしょう。なかでも「パフォーマンスフォード」と呼ばれるモータースポーツ由来の高性能モデルは、今も昔もイギリスの硬派なエンスージアストにとって、最上級のコレクターズアイテムとなっています。2025年11月8日に開催された、イギリス最大規模のクラシックカートレードショー「Classic Motor Show」の公式オークション「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2025」では、数多くのパフォーマンスフォードが出品され、いずれも競売の目玉となりました。今回は、グループA時代の日欧ツーリングカーレース選手権を席巻した「シエラ RS500」を俎上に載せ、そのモデル概要とともに、注目のオークション結果についてお伝えします。
グループAスポーツエヴォリューション規定で製作されたフォードの最終兵器
フォード・シエラRSコスワースが「ホモロゲーションスペシャル(競技参加に必要な型式認定取得モデル)」であるならば、シエラRS500は「エヴォリューションスペシャル」。フォードがFIA「グループA」規定に準拠した5000台のRSコスワースを生産した後、同じくグループAの「スポーツエヴォリューション(ES)」規定により、さらなるチューニングの可能性を組み入れた改良型「エヴォリューション」モデルの限定発売が認められた。
これによりRS500ではレースでの性能向上のみに焦点を当てた変更が可能となったが、その条件としてフォードは当初の生産台数5000台の10%、500台を「市販ロードカー」として販売する必要があった。これがRS「500」の名の由来である。
RS500は、コーチビルダー(車体製造業者)の「ティックフォード」社の協力のもと、グループAの規定生産台数の10%にあたる500台が手作業で組み立てられた。
コスワース製YBDエンジンは、燃料噴射をツインインジェクター化、ターボチャージャーの大型化などのチューニングを加え、最高出力は市販モデルでもRSコスワースの204psを大幅に上まわる227psを発生。駆動系も強化されたうえに、リアスポイラーをツインとしたことによりダウンフォース(空力により車体を地面に押し付ける力)も大幅に増加することになる。
その車名のとおり、きっかり500台が生産されたといわれるRS500は、その大半(392台)が「ブラック」、56台が「ダイヤモンド・ホワイト」、52台が「ムーンストーン・ブルー」で仕上げられた。
シエラRS500は、生来の目的を果たすように排気量無制限の「ディヴィジョン1(部門1)」に実戦投入され、1988年シーズンの「ETC(欧州ツーリングカー選手権)」では、排気量2500cc以下の「ディヴィジョン2」でクラス優勝を集めた「BMW M3」勢を撃ち破って、みごと製造者部門の年間タイトルを獲得する。
また「全日本ツーリングカー選手権(JTC)」には1987年シーズンからプライベーターで参戦。「日産スカイラインGT-R(R32系)」によってシリーズが席巻される直前までシリーズタイトル争いの常連となっていたことを、ご記憶されている向きも多いに違いない。
そして現在の国際クラシックカーマーケットにおいて、かつて世界のツーリングカーレースで覇権を争った「BMW M3スポーツエヴォリューション」および「メルセデス・ベンツ190E2.5-16エヴォリューション2」の相場価格が恐るべき高騰ぶりを見せていることに続いて、シエラRS500のプライスもジリジリと上昇しているようなのだ。
フォード専門家によってレストアされたRS500のマーケット評価はいかに?
「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2025」オークションに出品されたフォード・シエラRS500コスワースは、FIAグループA/ES規約に基づいて1987年に製作されたシャーシNo.#224/500。惜しむことなく費用を投じた入念なレストアを経て、素晴らしいコンディションに仕上げられている。
長年にわたり数人の所有者を経たのち、2020年にフォードのエンジニアが購入し、自ら包括的なリビルド(分解再構築)を実施した。そのあとクラシックフォード愛好家である現オーナーが入手し、プロジェクトの残りを完遂するための資金を提供。レストアを完了させ、極上コンディションへと仕上げられることになった。
まずは肝心のメカニカル面については、サザンプトンの著名なパフォーマンスフォード専門業者「トレモナ・ガレージ」から調達した、純正スペックの「コスワースYBD」新品ユニットを搭載。換装後は、わずか600マイル(約966km)しか走行していない。
また補器類や関連部品はOEM+基準(純正品質を超える)で新品換装およびアップグレードされており、ステンレス製エキゾースト、コイルオーバー式サスペンション、インタークーラー、燃料ライン、ホース、ベルト、ブレーキなどをリニューアル。エンジンベイも極めて高い水準で整備され、すべてのボルト&ナットにいたるまで修復されていることには、入念な組み立てと細部へのこだわりが反映されている。
さらに、オークション前月にあたる2025年10月には「トルマン・モータースポーツ」社による追加の事前整備と点検が実施され、次なる所有者への引き渡しに向けた車両の完全性と準備状態が保証されることになった。
エクステリアのコンディションも極めて良好で、輝くようなブラック塗装とボディパネルは目立った傷もなく完璧な状態。修復工程で複数層のリペイントが施され、深みのある均一な仕上がりがボディ全体に保たれている。また、RS500固有のエアロパーツは正確に取り付けられ、ホイールやトリム類もすべて新車時の状態を保っている。
一方インテリアは全体として良好ながら、その大部分が新車時のオリジナルのまま残されている。現オーナーは「ヘッドライニングは非常に良い状態です」と語っている。レカロシートには軽い摩耗とわずかな「へたり」が見られるものの、これは40年近く経過した車両としては当然のことで、本物の快適性を保っている。
ただし、左ドア内側のガラストリムは現在調達中であり、ダッシュボード上部の右隅にはわずかな剥離が見られながらも、いずれも瑕疵(かし)は軽微。現オーナーは「このRS500の印象的なコンディションを損なうものではありません」と主張していた。 なお、公式オークションカタログ作成時点でのオドメーターは、31370マイル(約5万200km)を示していたそうだが、この数値はほぼ参考程度と見なしておきたい。それはレストアの完了後、とくに主要機械部品の交換を含む大規模な修復作業を経たのちの走行距離は、まだ1000マイル未満に抑えられているためだ。
くわえて今回のオークションでは「500 RSK」という希少なナンバープレートが、車両に取り付けられたまま販売対象に含まれていることも、英国内で登録を考えている入札希望者にとっては魅力的なメリットとなるだろう。
このフォード・シエラRS500について、アイコニック・オークショネア社では7万5000ポンド〜9万5000ポンド(邦貨換算約1580万円〜約2000万円)という、近年におけるこのモデルの国際相場を考慮すれば、比較的控えめにも感じられるエスティメート(予想落札価格)を設定していた。
ところがオークション当日、バーミンガムNECのホール2で行われた競売では、いまいちビッド(入札)の伸びが鈍かったようで、ビッド締め切りに至ってもリザーヴ(最低落札価格)には届くことなく、流札に終わってしまった。
