伝説フォードRS200の知られざる限定モデル
2025年11月8日に開催された、イギリス最大規模のクラシックカートレードショー「Classic Motor Show」の公式オークション「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2025」には、数多くのパフォーマンスフォードが出展され ました。そのなかから今回は、伝説的なモデルとしてもっとも知られているフォード「RS200」の、あまり知られていない限定バージョンに注目します。その概要とともに、気になるオークション結果についてお伝えします。
グループBマシン作ってからロードバージョンを製作するという逆流開発
RS200はラリー「グループB」時代に誕生した。間違いなくラリー史上もっとも過激な時代であり、参戦メーカーはすべてを限界まで追求した。マシンたちのパワーは圧倒的でコースは危険極まりなく、たとえドライバーの技術がどれほど高くても、全開で駆け抜けるために必要な勇気は常に及ばなかった。
ランチアの「デルタS4」、アウディの「クワトロS1」、そしてプジョーの「205T16」など、ライバルメーカーが市販車ベース、あるいは見た目だけでも市販車に寄せて開発したのに対し、フォードはより直接的な手法を選んだ。まずレースカーの方法論で競技用マシンを構築し、それを基盤として公道走行可能な完成車を開発する。それは純粋に、グループBのホモロゲート要件を満たすための手段であった。
1984年から1986年にかけて、英ボアハムの「フォード・モータースポーツ」で生産されたこのマシンは、フォード傘下のデザインスタジオ「ギア」のフィリッポ・サピーノがデザインしたFRPと複合素材混成のボディに、ミッドシップエンジン、四輪駆動、フロントマウントトランスミッションを収め、理想的な50:50の重量配分を実現していた。シャシー設計はF1デザイナーのトニー・サウスゲートが、フォード側のとりまとめ役ジョン・ウィーラーと共同で手掛け、このホモロゲートスペシャルの偉大な可能性を構築していった。
動力源は1803ccの「フォード・コスワースBDT」エンジンに「ギャレットT03/04」ターボチャージャーを組み合わせたもので、スタンダードのロードバージョンでは250psを発生。ただし、販売の経過にしたがって、よりハイパワーな特装バージョンも登場することになる。当時「グループB」規定では、メーカーに対して200台の生産が義務づけられていたのだが、じつはフォードが200台を完売できなかったことが後に明らかになる。フォードRS200の権威であるジャスティン・スミス氏によれば、販売されたのはわずか147台と推定されている。
そして、この147台のなかの最終期に販売されたのが、カナダ人のマレー・デワートの発案による20台の「スペシャル」または「RS200S」バージョンであった。彼はフォードに対し、出力を350psに高め、内装の快適性を向上させた限定モデルの構想を提案したのである。このスペシャル仕様の「S」には、性能と運転性を高めるために利用可能なほぼすべてのオプションが搭載されていた。また、20台のSスペック車のなかで大半は「ホワイト」で仕上げられたが、前述のスミス氏によれば、工場出荷時に「ロッソ(レッド)」のボディカラーが施されたのはわずか2台のみであったという。
世界で2台!赤いボディのRS200Sのオークション評価はいかに…?
今回オークションに出品されたフォードRS200(シャーシNo.#138)は、特別中の特別な1台だ。わずか20台が製作された「S」仕様のなかの1台であるだけでなく、当初からロッソレッドで塗装された2台のうちの1台だからである。
オプションリストは驚くほど長く、この「公道用ラリーカー」が日常の足として実用可能であることを誇示している。キャビンはスタンダード版よりも遥かに豪華で、防音材の強化やハーフレザー張りのレカロ社製シート、パワー・ウインドウ&ミラー、高品質カーペット、フォード純正ステレオ、リモート式集中ドアロックなどを完備している。また、新車時よりエアコンを装備していたが、現在は取り外されており(ユニットは車両に付属)、フォードのオーソリティであるボブ・ハウ氏による正統性を証明する書簡なども保管されている。
この個体の初代オーナーはボアハムのフォード・モータースポーツを訪れ、ガレージに残っていた数台の候補から自身のための1台を選択する機会を得た。そこで、赤いボディの希少性と「S」の魅力が、ほかのRS200たちを圧倒したのである。唯一の問題は、最後に残っていた赤いRS200が左ハンドル仕様であったことだが、フォード・モータースポーツ社は迅速に対応し、引き渡し前に右ハンドルへと改造を施した。
1990年10月18日に初登録されて以来、この個体は深く愛され、2万マイル(約3万2000km)をわずかに下まわる走行距離を刻んでいる。この種のレアアイテムはコレクションに収められ「飾り物」になりがちだが、RS200は驚くほど運転が楽しいクルマであるだけに、実際に使用され続けてきたことは喜ばしい。
アイコニック・オークショネア社は、この個体を「二度とない機会」として、28万ポンド~34万ポンド(邦貨換算約5656万円〜6868万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。そしてバーミンガムでの競売の結果、落札価格はエスティメート上限を上まわる38万2500ポンドを記録。日本円に換算すると約7726万円という、ロードバージョンのフォードRS200としては過去最高級のハンマープライスとなった。
