高額落札は極低走行と完璧な整備記録
アメリカで希少な「930Turbo」とは?
2026年1月23日、アリゾナで開催されたRMサザビーズのオークションには1987年式ポルシェ「911ターボ」のアメリカ仕様が出品されました。走行わずか1万2851kmという奇跡のコンディションが物語る、空冷ポルシェの相場をレポートします。
レースが起源だった「プロジェクト930」!
スーパーカーの常識を覆したターボ技術
ポルシェがターボチャージャーという新しい技術の導入に積極的な姿勢を見せ始めたのは、1960年代後半のことだった。その直接の目的は、もちろんモータースポーツの世界により高性能なモデルを投入することにあった。実際にポルシェは1970年代を迎えると「プロジェクト930」の名のもとに、当時FIAが24カ月間に400台以上の市販車の生産を義務づけていた「グループ4」車両のホモロゲーションを得るための新型車の開発に着手する。それこそが現在にまで続く911ターボの歴史の始まりだった。
1974年のフランクフルト・ショーでプロトタイプが公開され、翌1975年のパリ・サロンで正式にその生産型が初公開された「911ターボ」(正式な車名はあくまでも911ターボだが、プロジェクト名から930ターボとも呼ばれる)は、まさにそれまでのスーパーカーの常識をも覆すニューモデルだった。
それまでのスーパーカーといえば、大排気量のマルチシリンダー・エンジンを採用し、そのパフォーマンスを競うものというのが一般的な認識であった。だが、911ターボのリアに搭載されていたのは、わずかに3Lの排気量しか持たない水平対向6気筒。それにターボという新しいメカニズムが組み合わされたことで、260psもの最高出力を得ることが可能になったのだ。もはやスーパーカーを作るために、複雑な機構を持つ巨大なマルチシリンダー・エンジンは必要ではなくなったのである。
3.3Lへの進化とインタークーラーの追加!
さらに高まる「空冷ターボ」の歴史的価値
911ターボが実現した最高速は250km/h。グラマラスな造形のリアフェンダーと、こちらもビッグサイズのリアウイング等々、まさにレーシングカーを彷彿とさせるアピアランスでも大きな話題を呼んだ911ターボは、デビュー直後からスポーツカー市場で圧倒的な人気を誇った。
その人気を背景に、ポルシェは性能をさらに向上させるため、1978年になるとエンジンの排気量を3.3Lに拡大。インタークーラーも追加装備されたことで、最高出力はさらに300psにまで高められた。リアウイングもこの時にデザインが変更されている。ギヤボックスは依然としてターボでトルクがワイドレンジをカバーするとして4速MTのままだったが、それでも0→100km/h加速は5.0秒を達成。最高速はさらに260km/hに向上した。ちなみに911ターボ(930型)に5速MTが組み合わされるのは、930型の生産最終年となった1989年モデルのみである。
ここで紹介する、RMサザビーズがアリゾナ・オークションに出品した911ターボは1987年式のアメリカ仕様だ。じつはアメリカでは911ターボは1979年から1984年まで排出ガス規制に適合できなかったため販売ができず、それによる希少性もこの時代の911ターボにコレクターの注目が集まるひとつの理由になっている。
出品車は1986年10月に生産が終了し、その後マサチューセッツ州のボストンで最初のカスタマーに販売された記録が残る。ガードレッドのボディカラーやブラックのパーシャルレザー・インテリアはもちろん新車時のままで、さらにオプションだったヒーター付きのフロントシート、電動スライドサンルーフ、LSDが装備されている。アリゾナ州に住む現在のオーナーがこの911ターボを入手したのは2011年のことで、オドメーターが示す走行距離はわずかに8032マイル(約1万2851km)。新車でそれが納車された1987年まで整備記録をさかのぼることができるのも、このモデルの価値をもっとも高めてくれる要素に違いない。
RMサザビーズはこのような付加価値、そしてコンディションを考慮して、15万ドル〜20万ドル(邦貨換算約2340万円〜3120万円)の予想落札価格を設定。結果はそのレンジを遥かに上回る24万0800ドル(邦貨換算約3756万円)での落札となった。クラシック・ポルシェの人気が、確実な高まりを見せていることを感じさせてくれるオークションだった。
※為替レートは1ドル=156円(2026年2月26日時点)で換算
