サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

フランスならではの芸術性を持った自動車!? 世界に27台のシトロエン「DSマジェスティ」の真の価値とは?」

12万5000ユーロ〜15万ユーロ(邦貨換算約2290万円〜邦貨換算約2745万円)で現在も販売中のシトロエン「DSマジェスティ」(C)Bonhams

パリのオークションに登場した優雅なDS!?
フランスのシャプロンの手による超高級車

2026年1月30日、パリで開催されたボナムズのオークション「PARIS SALE 2026」に、極めて希少なフレンチクラシックカーが登場しました。フランスの名門カロジエ(カロッツェリア)であるアンリ シャプロンが、シトロエン DSをベースにわずか27台のみ製作した最高級モデル「マジェスティ」です。推定落札価格2290万円という名車の知られざる歴史と、競売の結末をお伝えします。

フランス自動車工芸の傑作にして唯一無二の存在
アンリ シャプロン製DSは仏大統領もお気に入り

第二次世界大戦前にはドゥライエ(日本での馴染みはデラハイエ)やドラージュなどの高級車に豪奢なボディを架装し、戦後はシトロエンのスペシャルコーチワークを引き受けていた名門カロジエがアンリ シャプロンである。英国の自動車史家たちは「ボーリュー自動車百科事典 コーチビルディング編」にて、以下のように語ったという。

「おそらくフランスでもっとも多作なコーチビルダーであるアンリ シャプロンは、数世代にわたりボディデザインの古典的スタイルを体現し、大衆の嗜好と同じペースで進化を遂げた。しばしば時代の先駆けでありながら、決して時代を先取りしすぎない慎重さを保っていた」

フランス車が好きな人ならミニカーなどで見覚えがある人もいると思うが、例えばうなぎ犬のように超ロングホイールベースのDSやSMのオープンカーでフランス大統領がパレードなどで乗る特注車両(プレジデンシャル・ランドレー)は、すべてシャプロンの手によるものだ。

独自ルーフ持つ最高級版のマジェスティとは!?
贅の限りを尽くしたDSエクスクルーシブ仕様

こんにち、アンリ シャプロンとシトロエン DSの組み合わせといえば、まず思い出されるのはDS「デカポタブル(コンバーチブル)」だろう。1961年にはシトロエンと正式に手を組み、カタログモデルのコンバーチブル版としてデカポタブルをリリース。1971年まで1365台が製造されたといわれている。

しかし、長らくフランスの古典的カロジエの名手であったシャプロンが、真に求めていたシトロエン DSとIDの解釈は、通常の量産モデルとは大きく異なっていた。

シャプロンはDSやIDのリアフェンダー上部にテールフィンを追加した独自のデザインを構築し、1964年10月の「ポルト ド ヴェルサイユ自動車ショー」では「マジェスティ(威厳)」の名を冠した独自の高級版DSを発表する。その目的は、シトロエン向けに同じくシャプロンが製作していた高級版「DSプレステージ」でさえエクスクルーシブさに欠けると考える、ごく少数の顧客を満足させることにあった。

またマジェスティでは、スタンダードのDSやIDと比べ、より高く角張ったルーフラインを採用している。これはノッチバックとして構築されたコーチ(クーペ)の「コンコルド」や、やはりアンリ シャプロンが開発・製作したド ゴール大統領専用車「プレジダンシェル」にも類似し、シルクハットを被ったまま乗車できるほどのヘッドクリアランスを確保したヘッドルームと室内空間を拡大していた。

もちろんインテリアは、柔らかなコノリーレザーや厚手のウールカーペット、そしてパネルには美しいウッド素材をふんだんに使用した贅沢な設えとされた。それゆえ、クライアントの要望に応じてオリジナルの装備も用意されていたことから、まったく同じ仕立てのマジェスティは2台として存在しないと言われている。

この限定モデルは1969年まで製作され、総生産台数はわずか27台(ほかに25台説もあり)にとどまったとされている。

シャプロン家が乗り継いできた由緒正しき個体
あらゆる箇所を妥協なく包括的にレストア済み

今回ボナムズ「PARIS SALE 2026」オークションに出品された1966年式シトロエン DS21「マジェスティ」ベルリーヌは、かつてパリに工房を構えていた伝説のカロジエ、アンリ シャプロンによって丹念に手作りされた約27台のうちの1台である。

1966年7月、シモーヌ フルニエが娘婿であるアンリ シャプロンに直接オーダーした。納車は1966年11月10日に行われ、同年11月15日にパリで初登録(ナンバープレート「6535 TM 75」)されたのちはシャプロン家が長年所有してきたという、由緒ある1台だ。

独特のデカダン的様式美を漂わせるボディは、シックで優雅なダークブルーでペイントされている。ベージュ革とファブリックのコンビによるスタイリッシュな内装を組み合わせている。また、リムジンのように運転席とリアコンパートメントを隔てる「ディヴィジョン(仕切り)」は、マジェスティのなかでも希少かつ、とくに魅力的な装備である。

新車としての納車からわずか4名のオーナー歴と、ノエル シャプロン発行の真正証明書を伴うこの個体はフランス国内登録済みで、豊富なドキュメント類も完備している。また、これまで莫大な費用と妥協なき細部へのこだわりをもって実施された包括的なレストア作業を経ている。主要機械部品はすべて、最高レベルの信頼性を確保するためオーバーホール済みと報告されていた。

仏国自動車文化は移動ではなく芸術という主張
世界で最も快適で優雅なリムジンの価値とは…

ボナムズ オークション社の公式オークションカタログでは、

「この唯一無二の車両はエクスクルーシブ性に加えデザイン面のヘリテージ、歴史的意義が比類なく融合した存在であり、フランス自動車芸術を収集する鑑識眼あるコレクターにとって稀なる機会となる」

と高らかに謳いあげていた。当然のように12万5000ユーロから15万ユーロ(邦貨換算約2290万円〜邦貨換算約2745万円)という、スタンダードなDSベルリーヌの相場価格の3〜4倍にも匹敵しそうなエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。

そして迎えた1月30日のオークション当日。パリのブローニュの森の「バガテル城」に隣接する、世界でもっとも権威ある歴史的なポロクラブ「ポロ ド パリ」にて行われた競売では、売り手サイドが期待したほどにはビッド(入札)が進まなかったようだ。締めきりに至っても現オーナー側が設定した最低落札価格には届かず、残念ながら流札に終わってしまったのである。現在では上記のエスティメートを保持したまま、ボナムズ オークション営業部門による個別販売が継続されているようだ。

「フランスの自動車文化は、単なる移動手段ではなく芸術である」という思想を引き継いだのが、まさにシャプロンだった。シトロエンに芸術の息吹を吹き込むシャプロンという職人が、シトロエンの魔法のようなハイドロニューマチック・サスペンションと自らの手によるボディを組み合わせることで、「世界で最も快適で優雅なリムジン」を存続させていたのだ。この時代背景と芸術性、さらに希少性を併せ持つ「マジェスティ」が流札となったのは、なんとも残念に思えてならない。

※為替レートは1ユーロ=183円(2026年3月10日時点)で換算

モバイルバージョンを終了