史上最も美しい可憐な跳ね馬レーシングカー
ピッコロ・テスタロッサ ディーノ206S登場!
マラネッロが生み出した、史上もっとも可憐で美しいと称されるレーシングマシン「ディーノ206S」。現存わずか2台とされる極上の希少モデルが、2026年1月28日にパリで開催されたオークションに登場しました。サッカー界のレジェンド、ディエゴ・マラドーナ獲得の立役者が初代オーナーという数奇な車歴を持ちながら、なぜ最高7.7億円超えの予想価格に対し流札に終わったのか。クラシックカー市場の厳しい現実をお届けします。
ライバルはGr.4カテゴリーのポルシェ カレラ6!
勝つために開発されたレーシングカー ディーノ
1966年2月、フェラーリは同時代のFIAスポーツカー選手権グループ4「スポーツカー」カテゴリーの2リッター以下クラスにて、顧客となるプライベーターたちを独占しつつあったポルシェカレラ6への対抗措置として、新たに開発した2000cc級レーシングプロトタイプを発表した。
ディーノ206Sと名付けられたこのミッドシップの純レーシングマシンは、エンツォ フェラーリの長子アルフレード(愛称ディーノ)が、1956年6月に亡くなる以前に構想。巨匠ヴィットリオ ヤーノ技師たちがまとめ上げた、バンク角65度のV型6気筒4カムシャフトエンジンの発展型をミドシップに縦置き搭載していた。
そして1966年シーズンが閉幕するまでに、206Sはその実力をいかんなく証明する。「タルガ フローリオ」では2位、ニュルブルクリンクで2位と3位、スパ フランコルシャンでは総合6位を獲得。ホモロゲーション要件を満たすため当初50台の生産が計画されていたものの、実際に組み立てられたのはわずか18台のみであった。
その18台のうち、ピエロ ドローゴ率いる「カロッツェリア スポーツカーズ」製のスパイダーボディを架装して、マラネッロ本社工場から送り出された206Sは13台。さきごろRMサザビーズのオークションに出品されたこの個体は、さらにルーカス製機械式燃料噴射装置で最高出力270psを発生する2リッターV6エンジン「ティーポ233S」を搭載した、現存する2台のうちの1台である。
この個体は、ナポリ在住のイタリア人技術者にして不動産開発業者、のちに「ナポリF.C.」のオーナーとなり、かのディエゴ マラドーナの獲得に貢献したことでも知られるコラード フェルライーノ氏が、1967年7月に新車として購入。同シーズン第9戦となるFIA世界スポーツカー選手権「ムジェッロ1000km耐久レース」でレースデビューを果たしたそのものだ。
設計上のお手本となった、より大型の「フェラーリ330 P3」や「412 P」などフルサイズのマラネッロ製レーシングプロトタイプと比べると、ディーノ206Sは明らかにコンパクトなマシンである。したがって、現役時代のシャーシNo.032も数多くのイタリア山岳レースやヒルクライム競技に最適であり、1967年4月および1968年11月に整備のためフェラーリ本社ファクトリーで過ごしていた時以外は、それらの国内戦レースに参戦し続けていたようだ。
現役後は伝説のフェラーリ愛好家たちを満たした
最後はクラシケでフルレストアのディーノ206S
ちょうどこの時期、軸足をモータースポーツ界からサッカー界に移そうとしていたフェルライーノ氏は、翌1969年をもってディーノ206Sを売却し、その後10年間はイタリア国内で3人の所有者のもとを渡り歩いた。
そして1979年には、フランスの実業家であり、フェラーリ製コンペティツィオーネの分野では世界随一と言われたコレクターであるピエール バルディノンが購入。全世界にその名を知られたプライベートサーキットつきのミュージアムのようなコレクション「マ デュ クロ(Mas du Clos)」に加わることになる。
1980年代初頭にディーノ206Sは、こちらも著名なパリのフェラーリ収集家ジャック セトン氏に譲渡される。彼はF1マシンによる史上最高のコレクションの1つを築き上げ、とくにディーノエンジンをこよなく愛していたのだが、そののち、このディーノ206Sを英国人の愛好家ロブス ランプロー氏に売却した。ランプローはかつて「250 GTO」と「250 テスタロッサ」の両方を所有していた人物である。
さらに2001年までに、この個体は英国在住のコレクター、カルロス モンテヴェルデ氏によって引き取られている。彼の12年間にわたる所有期間中、シャーシNo.032はクラシックレースイベントで広く活躍していたが、ブランズハッチでの「フェラーリ/マセラティ ヒストリックチャレンジ」のレース中に事故に巻き込まれてしまう。その結果、このディーノは修復のために専門工場に送られている。
2013年に、このオークションへの出品者でもある現在のオーナーが手に入れたディーノ206Sはイタリアに戻され、2014年から2015年にかけて「フェラーリ クラシケ」によるフルレストアを受けることになる。
すべてが由緒正しい血統の証明レッドブック獲得
さらにフェラーリの権威マッシーニのお墨付き!
これにより2015年7月には、希少な「レッドブック」認証を取得。シャーシおよびエンジン、ギヤボックス、ボディに至るまですべて一致するマッチングナンバーであることに加え、純正の「ティーポ233S」V6エンジンが搭載されていることが確認された。
ムジェッロでの世界スポーツカー選手権(WSC)参戦時につけられたゼッケン「28」と、スクーデリア フェラーリのチームカラー「ロッソ コルサ」でレストアされたシャーシNo.032には、フェラーリの世界的権威、マルセル マッシーニが作成した詳細な歴史報告書が添付される。
今回のオークション出品にあたり、RMサザビーズ欧州本社は公式オークションカタログ内で「切ないほどまでに美しく、可憐とも言いたくなってしまうデザインの究極の形態を体現するディーノ206S。その最終生産モデルにして究極の進化形であるこの個体は、フェラーリ クラシケによる厳格な修復が施され、世界中のマラネッロやモータースポーツをテーマとするコレクションにおいても、比類なき美しさを誇る逸品となるでしょう」と訴えつつ、380万ユーロ〜420万ユーロ(邦貨換算約6億9540万円〜約7億6860万円)という高額のエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、1月28日にパリ ヴァンドーム広場からほど近いルーヴル宮殿「サル デュ カルーゼル」で行われた競売では、売り手側が希望した「リザーヴ(最低落札価格)」には届かず、流札に終わってしまう。現在では「Price Upon Request(価格応談)」という文言とともに、RMサザビーズ欧州本社営業部門による個別販売へと継続されているようだ。
芸術品の域と言っていい250テスタロッサ(TR)の小型版とも言われ、206Sが「ピッコロ(小さな)・テスタロッサ」と呼ばれるのは、排気量が2.0Lに縮小されつつも、この250TRが持っていた「勝利の血統」と「艶やかな曲線」を完璧に受け継いでいたからに他ならない。だが、250TRが同じようにオークションの場に出た時は数十億円というとてつもないビットで終わるのに比べ、同じような希少性と戦績を残してきた206Sに次のオーナーが見つからなかったことを憂いてしまう。
※為替レートは1ユーロ=183円(2026年3月19日時点)で換算
