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人々の生活を変えたテクノロジーとイノベーションの米国歴史を展示! 壮大なヘンリー・フォード博物館【クルマ昔噺】

レーガン大統領の暗殺未遂事件にも遭遇したリンカーン。ニクソンからブッシュ(パパ)まで、5人の大統領が使ったクルマである

フォード社設立のための速度記録車や歴代大統領専用車から、ル・マン優勝車など規格外博物館!

モータージャーナリストの中村孝仁氏の世界に広がる豊富な経験談を今に伝える連載です。今回は、アメリカのミシガン州ディアボーンにある「ヘンリー フォード ミュージアム」を取り上げます。単なる自動車博物館の枠に収まらない規格外の施設となります。ライバルメーカーの車両や飛行機、巨大な機関車までが一堂に会し、アメリカの乗り物文化の歴史をつぶさに見ることができます。歴代大統領の専用車や伝説のレーシングカーなど、ここでしか見られない貴重な展示車両の数々をご紹介いたします。

広大な土地にアメリカの歴史的建物が並ぶ施設の一角にある「ヘンリー フォード ミュージアム」

デトロイトの隣町ともいえるディアボーンには、広大な土地にアメリカの歴史的な建物が並ぶ施設がある。昔ながらのアメリカをつぶさに見ることができる「グリーンフィールド ビレッジ」だ。日本でいえば明治村のような場所である。その一角にあるのが「ヘンリー フォード ミュージアム」だ。

デトロイトの中心部からはクルマで30分ほどの距離にあり、デトロイト・メトロポリタン空港との中間点に位置する。グリーンフィールド ビレッジにある建物は、すべてヘンリー・フォードが個人でコレクションしたものだという。彼自身の生家をはじめ、トーマス・エジソンの会社の建物などが移築されている。

ぜひ訪れてみたいグリーンフィールド ビレッジなのだが、四半世紀ここに通って、結局一度もなかに足を踏み入れたことがない。ヘンリー フォード ミュージアムには何度も足を運んだのにもかかわらず、だ。

理由はいたって簡単だ。ヘンリー フォード ミュージアムを訪れるのは、決まってデトロイトショーが開催されている時期だった。それは1月の第1週から2週あたりである。この季節のデトロイトは、日中でも気温が0度を上回ることはまずない。だだっ広い公園のようなグリーンフィールド ビレッジは、当然のごとく冬季休業中なのである。

酷い時は零下20度近くになることもあって、正直な話1分1秒でも早くクルマから降りて建物内へと移動したい。そんなわけだから、博物館の外観を1度も撮影したことがないのだ。

ヘンリー フォード ミュージアムは単なる自動車博物館ではなく、飛行機から機関車に至る乗り物が一堂に集められている。飛行機オタクから鉄分の欲しいオタクまで、乗り物好きならおそらく誰もが楽しめる博物館だ。そもそもそこにある機関車の類の大きさは想像を絶する。だから建物自体の広さもありえないほど大きい。しかも平屋である。

フォードの各モデルだけが集められていると思ったら大間違いで、ここにあるクルマの大半は他メーカーのクルマである。当然のごとくライバルのGMやクライスラーだって展示されているし、ヨーロッパ車や日本車だってある。アメリカの自動車文化を知るうえでも楽しい展示があったり、古いクルマに乗って写真が撮れたりと、1日いても飽きない(いたことはないけれど)。

歴代大統領が引き継いだプレジデンシャル・リムジンは1980年代までフォード製リンカーンが続いた

もちろん、ここでしか見ることのできないモデルもたくさんある。それらをいくつか紹介しよう。

一番に紹介しなくてはいけないのが、戦後の歴代アメリカ大統領が使った、いわゆる大統領専用車(プレジデンシャル・リムジン)の数々だ。写真に収めた当時は、ジョージ・H・W・ブッシュ(パパ)大統領が使ったモデルまでがあった。

1939年に作られた最初のプレジデンシャル・リムジンを使ったのはフランクリン・D・ルーズベルト大統領だ。そして同じクルマはトルーマン大統領も使った。このように、車両そのものは大統領が変わると常に新しくなるというわけではなく、次の大統領へと引き継がれていくのである。

もっとも顕著なのは、暗殺されたケネディ大統領が使っていたクルマだろう。事件のあった当時、このクルマはコンバーチブルであったものの、事件以後はルーフが取り付けられて安全性が強化されている。ちなみにこのルーフは単なる鉄板などではなく、防弾ガラスやチタン装甲を組み合わせた特注のトップであった。驚くことにこのクルマはそれ以後、カーター大統領に至るまで5人の大統領が使った。

当時展示されていた最新のモデルは、最後にブッシュ(パパ)大統領に至るこちらも5人の大統領が使ったクルマだ。ケネディ暗殺以後、車両はすべて装甲されて安全性が高められた。この新しいクルマでも、レーガン大統領の時代に暗殺未遂が起きている(事件は車外であったが)。ニクソン大統領の時代に作られ、ニクソン以後、フォード大統領、カーター大統領、レーガン大統領、そしてブッシュ大統領が使った。余談ながらこの年(1989年)までのクルマは、すべてフォード製のリンカーンが使われていた。

フォード社設立のために作られた氷上速度記録車から、ル・マン24時間を4連覇したGT40も展示

ヘンリー・フォードにまつわるクルマといえば、1902年に製作した伝説的な「999レーサー」と呼ばれるレーシングカーです。ヘンリー・フォードが、フォード・モーター・カンパニーを作る上で自分たちの技術力を世に知らしめ、出資者を募るための「デモンストレーション」として生み出した歴史的な1台だ。モータースポーツを宣伝に使うというアイデアのもとに作った、最初のレーシングカーである。凍結したセントクレア湖(ミシガン州)の氷上で速度記録に挑戦。時速91.37マイル(約147km/h)という、当時としては驚異的な世界最高速度を記録した。この時以来、フォードとレースはある意味切っても切れないものになったのはもちろん、この成功により資本金が集まり、1903年見事にフォード・モーター・カンパニーを設立させた。なおこのクルマのレプリカは、日本の富士モータースポーツミュージアムにもある。

そのフォードのレース活動が集大成を迎えたのが、1960年代のル・マン24時間レースである。結論から言うと、フォードは1966年から1969年までの4年間、連続してル・マン24時間レースを制した。

博物館には1967年のル・マンに勝ったフォード「マークIV」が展示されている。当時の高性能車の多くは、左右のノックオンハブが進行方向で締まるように逆ねじで作られていた。組み付けるときに間違えないようにしたのか、左右のスピンナーは車両右側がブルー、左側がレッドに塗り分けられている。このほか、インディ500に優勝した「ロータス38」(エンジンはフォード製)や、ストックカーの数々など、レーシングカーの展示は多い。

1953年のコンセプトカー フォード「X-100」に搭載されたアイデアには多数実用化された装備も

コンセプトカーの展示もある。まだそのコンセプトカーという名称がなかった1953年に、フォードが創業50周年を記念して作ったモデルが「X-100」と呼ばれるモデルだった。リンカーンのシャシーをベースに、50以上の先進技術を詰め込んだ。

「laboratory on wheels」、日本風に言うなら「車輪の上の実験室」だろうが、どこかで聞いたような名前でもある。詰め込まれたアイデアは、電動スライディングルーフ、シートヒーター、電話などで、これらは実用化されたものだ。一方で音量調節できるホーンや、車載電動シェーバーなどは実用化されなかった。

もう1台は1962年のコンセプトカー、フォード「マスタング」である。軽量コンパクトなスポーツカーとして開発されたマスタングは、フォード初のミッドシップスポーツだった。あくまでも宣伝効果を狙ったこのクルマは、初めから生産をする予定はなかったという。のちにフォード「マスタングII」というコンセプトカーが誕生することで、この最初のクルマはフォード「マスタングI」と呼ばれるようになった。

博物館にあるのは、2台作られたうちの実動モデルである。1962年のワトキンスグレンF1レースで一般に公開され、ダン・ガーニーがドライブしたそのものだ。もう1台はモックアップであり、実動車はこれだけである。

今度訪れるときは夏にして、グリーンフィールド ビレッジも見学したいものである。

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