採算度外視のフルレストアで「売る気ゼロのフロンテ クーペ」に込められた職人の誇りと拘りの技
「オートモビル カウンシル2026」には、自動車メーカーやヘリテージカー専門店だけでなく、高度な技術を持つ異業種のスペシャリストも出展しています。今回は、広島県東広島市に本拠を構える金属加工のプロ集団「株式会社オーエイプロト」のブースをレポートします。彼らが自らの技術を証明するためだけに採算度外視でフルレストアした「スズキ フロンテ クーペ」の凄まじいクオリティと、モノづくりにかける職人たちの熱い矜持をお届けします。
広島発! 金属加工のプロ集団「オーエイプロト」が展開する100年先を見据える独自プロジェクト
今回で11回目を数えるオートモビル カウンシルは、国内自動車メーカーと海外メーカーのインポーターがそれぞれのテーマを掲げて自社製品やコンセプトカーを展示したり、あるいはヘリテージカー販売店が自ら仕上げた購入可能な車両を出展したりと、多くのファンを集めるイベントに成長してきた。しかし、じつは内外の自動車メーカーでも、ヘリテージカーの専門店でもない出展者が、素晴らしいレストア作業を仕上げたスペシャリストとして自らの“作品”を出展することもある。
今回紹介するのは「クルマの愉しみをささえる、確かなアイテムとサービス」との括りでリストアップされるサプライヤーであり、「OA 100 PROJECT」のネーミングでブース出展していた株式会社オーエイプロトだ。
広島県の県央部、東広島市に本拠を構える同社は金属機械加工のスペシャリストである。自動車、新幹線等の鉄道車両、建設機械などの開発車両の試作や小ロット部品の生産が本業となっており、とくに高度熟練技術者による高精度・高品質の板金部品が得意技だという。
そんな株式会社オーエイプロトは「100人の人が『本当に欲しい』と思ってくれるモノを、経年劣化ではなく、経年変化として楽しめる造りで、100年生き続けられるモノを作りたい」との想いから「OA 100 PROJECT」を立ち上げた。その第一作として、ルーフキャノピー(屋根)を装着するホンダの3輪スクーター「ジャイロ キャノピー」をベースにデザインを一新した3輪スクーター「OA 0(オーエイゼロ)」を製作し、初出展となったオートモビル カウンシル2023で発表している。
そのOA 0や発展モデルであるOA-0X(オーエイゼロクロス)が、東広島市のふるさと納税返礼品として登録されたことで、同社の知名度が大きくアップしたとのエピソードもあった。
「部品が無いなら削り出しで作る」というプロ根性の得意技を駆使して仕上がった「フロンテ クーペ」
そんな株式会社オーエイプロトでは、オートモビル カウンシル2023にレストアしたマツダ オート三輪も出展している。ナンバープレートやホイールキャップなどオリジナルの部品が使用できないところでは、社内で金型を造るなどして新規製作するという“得意技”を駆使してレストアを仕上げたそうだ。
続いて1967年式のスズライト キャリイ、1980年式のマツダ ポーターキャブなどを手掛けたあと、今回出展したスズキ フロンテ クーペのレストアに取り掛かることになった。レストアのベースとなった個体は1972年に登場した4シーターのGXFである。
このフロンテ クーペは、もともとジョルジェット・ジウジアーロのデザイン案をもとに「ふたりだけのパーソナルクーペ」として誕生したが、市場からの強い要望により4シーター化されたという歴史を持つ。そのタイトな空間に凝縮された機能美は、まさに日本のモノづくりの結晶といえるだろう。
金属の機械加工が“得意技”という同社ならではのパーツが、テールランプベースだ。「無いなら作ってしまおう」との発想から、アルミの削り出しで作製している。じつは、この削り出しパーツは1972年当時の量産品をはるかに凌駕する精度と質感を持っており、オリジナルを超えるクオリティで作り直してしまうという、職人の執念にも似たこだわりが凝縮されている。
また、加工のスキルを活かしてアクリル板にも着手した。ウインカーレンズをアクリル板から削り出しで製作したのだが、同心円のデザインを機械加工のデータに変換し、世界にたったひとつ(左右だから2個?)のレンズが完成したのである。展示車両のリアエンジンカバーを開けた際に見えるエンジンルームの美しさ、なかでもエンジンヘッドのアルミ地肌のリアルさは、まさに金属加工のスペシャリストの“工藝作品”であった。
日本のモノづくりを支えるオーエイ技術者たちの矜持と誇りはレストア完成車ではなく「工藝作品」!
ただし、周囲のブースに展示されているレストア車と異なり、株式会社オーエイプロトが手掛けたフロンテ クーペが売りに出されることはない。
それは「自分たちは技術屋で、これだけの力があるとアピールするために(レストアを)やっているわけじゃない」という技術者としての矜持・誇りであり、商売抜き・コスト計算抜きでの作業だからだ。スタッフも「売るとしたら、どれだけの値をつければいいか」と苦笑するだけだった。
だから決してこのフロンテ クーペを購入することは叶わないが、オートモビル カウンシルに来場してこのクルマをじっくり見た人は、まさに眼福、良いものを見せてもらったと感心したに違いない。
日本が世界に誇るモノづくり産業の根底には、こうしたスペシャリストたちの狂気ともいえる情熱と技術力が脈々と流れている。1台の小さな旧車に込められた「妥協なき本気の遊び」は、どんな高級車よりも眩しい輝きを放ち、クルマを愛する者たちの心を強く揺さぶるのである。
